争いの中の正義と悪



序章 エンフィールドという異世界



「おーい!セリカ、リーボーフェンの調子はどーだ?」

「え?あ、トウヤ。もう殆ど大丈夫よ。いけるいける」

 リーボーフェンの格納庫で、様々な会話が飛び交う中、トウヤ・ジン・クラシオはチーフ・メカニック兼アカルディア王女のセリカ・ラニアード・メスティナの様子を見に来ていた。

後にゼ・オード闘争と呼ばれる戦争から三年たった7月30日、この日、当時のリーボーフェンメンバープラスαでコルネル村へ温泉旅行に行くことになった。

「後はカスミ達をこっちに連れてくるだけね。そっちの状況はどうなの?」

「どうしたもこうしたも……失敗確率0%に決まってんでしょ?馬鹿なこと聞かないの!」

「分かってるわよ。」

「まぁ、こっちの用意が終わった時に行くって事だな。それじゃ、邪魔者はここで消えておくよ。」

「それじゃねぇ〜」

 

 

「そういえば、明後日までお前とメルヴィ達はガッコにこれないんだったよな?」

「まぁな。ここは成績が良ければ出席日数に寛容だってのはありがたいよ。」

 聖地の練金学養成学園大学部の食堂で、トウヤとその友人、ジュナート・ジン・メリウスが弁当を片手にお喋りを楽しんでいた。

「かぁーっ!成績のいいヤツはそんなことが言えて羨ましいねぇ。」

「ただ単にお前の勉強不足だと思うんだが……」

「ていうか天才二人とマンツーマンで教えてもらってんのもプラスされてんだろ?羨ましいねぇ……」

「その天才二人ってユミールとメルヴィか?そう言うならお前も教えて貰えばいいだろ。」

「うぐ……やぶ蛇だった……」

苦渋の表情をしているジュナードを見ているトウヤは手を顔に当てて笑っている。

それに割り込む勢いでゲンとメルヴィが割り込んできた。

ゲンは初等部、メルヴィは中等部に通っていて、二人とも将来練金学士になる事になっている。

「オメェら。学校は全部が全部、体育館じゃねぇんだ。あまりはしゃぎすぎるとセンセに怒られるぞ!」

「なんだよ兄ちゃん。あんまり目くじら立てるなって!」

「偉大な練金学士、ユミール・エアル・クラシオさんに見つかったらどーなると思ってんだ?んんぅー?」

「ごめんなさい。以後気をつけておきます。」

「とか何とかいっときながら、お前だって授業中居眠りしてる場合があるだろ。」

そのジュナードの言葉で今度はトウヤが「やぶ蛇だったか」と言う表情になる。

「お兄ちゃん、授業中に居眠りしてるときがあるのぉ?」

「そうなんだよぉメルヴィちゃん!それなのにこいつ、すっげぇ成績いいから教授達も「本当の天才ってのはあいつのことを言うのかもしれん」ってこいつのこと誉めちぎってんだよぉ!」

 そう言ってジュナードはメルヴィに泣きついていく。

「ジュナ。後で図書館か図書室に行って勉強してくるんだな。」

「ぐ……天才ってやっぱすごい……メルヴィちゃん。帰ってきたときいろいろ教えてください……」

「え?あ、うん、いいですけど……」

その二人の言葉にトウヤとゲンは大声を出して笑っていた。

 

 

授業を終え、トウヤとメルヴィ、そしてゲンは素早くリーボーフェンに乗り込んだ。

ブリッジにはもうみんなの姿が見えて、すぐに出発することになった。

トウヤは晃一郎や千尋と皇、そして幼なじみの亮と再会をかねて喋っていた。

「へぇ〜〜、トウヤ、今、練金学をやっているんだー。」

「風見君は風見君で頑張ってるのねぇ。」

「お前が進学するとは思わなかったがな。」

「どっちにしろ、こっちの世界の学校に編入するって事は決まってたんだし、操兵機のテストもかねてるんでしょう?」

「ま、そうだけど、お前らは就職をしたってのか。」

「僕は一応、公務員だけどね。」

「アタシとカスミは進学。アタシはコンピュータ関連の、カスミは美術関係よ。」

「俺は元いた学校でバスケのコーチ補佐だ。一応これで飯を食っている。」

「へぇ〜〜。」

そう言ってトウヤはカスミやクロビスの方へ視線を向ける。

その向けた人たちは周りの人間達と喋っていた。

 

 

「ふぃー。やっぱ温泉はいいねぇ。どーせならユミールと二人きりで入りたいけど、肝心の混浴ってのが無いからねぇ〜〜。」

「覗き連中を押さえる為に混浴を入れといた方がいいのにな。」

そう言って亮はクロビスとフェイン、そしてデロックに視線を送る。その向けられた視線にびびってか、すごすごと風呂を出ていった。

「亮……お前、言うね。」

「まぁ、俺だって言うときは言うよ。」

「昔から言うときは言うヤツだったよな。お前って。普段の態度とは違って芯の強いヤツだったよな。」

亮は昔、おとなしい性格で、カスミと一緒にいじめられてはよく泣いて、トウヤに助けられた。

亮はそんな自分に嫌気がさし、中学に入ってからは、バスケットをやって自分を変えられ、両親を失ったトウヤの大きな支えとなることが出来た。

「それはお互い様でしょう?芯が強くなければ、指揮官を続けていけるわけが無いのですからね。」

「確かにそうだな。私やクロビスの様な風変わりな人間もいることにはいたしな。」

幼なじみ同士の会話に口を挟んだのはアーサーとシィウチェンだった。

二人とも、人を見る目はある方だと自覚しているだけでなく、トウヤ自身がユミールとくっついた事もトウヤの芯の強さの要因だと思っていた。

当の本人は鈍感な性格のため、その考えには気づく訳がなかったのだが。

亮は二人の考えに気づいたのか、クスッと笑顔を見せた。

 

 

次の日、トウヤ達は聖地にクルルを連れ、戻ることにした。

「しっかし、グラードさんやトーラさんもすごい決断をしたよな。朝になって着いていこうとするこいつのことを頼みますって……」

「ええ、そうねぇ……まぁ、変なことは起きないと思うから大丈夫だと思うけど。」

「まぁ、そりゃそーだ。」

「それにトウヤ達はそれだけあの二人に信用されているって訳か。」

その時、リーボーフェンが激しく縦横に何かに振り回された様な振動が起き、リーボーフェンを光が包み込んだ。

「何が起こった!」

「分かりません!周りの状況もレーダーに映りません!」

誰よりも冷静に対応しようとしたユミールの幼なじみ、ウィレツ・ジン・シークハルトの声にミヤスコはやや慌てた声を上げた。

「ちぃぃ!何が起きようってんだ!」

「わ、分からないわ!」

 

 

「現在、異世界の戦艦を呼び出しております。しかし、成功確率は50%未満。下手をすると、エンフィールド付近に行く確率もあります。そちらに行くと、エンフィールドにその戦艦が渡る確率もあります。」

暗い部屋の中で声が上がった。部屋の中の人間は三人。その内の一人は国王風、その隣の女性はその妻らしき雰囲気。そして報告をしている男は魔術師であった。

「そうか。可能な限り、その戦艦の兵力をこちらの物にするんだ。最低敵兵力の50%をこちらの物にするのだ。」

そういって国王風の男が魔術師に命令をする。魔術師は言葉少なく、部屋を出ていった。

「ふふ、貴方……その兵力を手に入れたら、この国の領土も増えますわね……」

「ああ。確実にエンフィールドを手に入れてやる……」

二人は声を下げて笑い続けた。

 

 

エンフィールドの町は騒然となっていた。

南の上空にいきなり巨大な怪物風の物が現れたからだ。

「うむぅ……あれは魔物なのか?魔物にしては巨大すぎるが……」

「リカルド隊長、ありゃあ一種の古代兵器じゃねえか?魔法のミスであーゆーことが出来るかときかれりゃあ不可能じゃねえ。」

自警団の第一捜査部のリカルド・フォスターに、第三捜査部のルシード・アトレーは自分の知識の範疇ではあるが、自分が判断した考えをリカルドに伝えた。

「とりあえず、俺達で様子を見に行った方がいいですよ?あれでこの町が攻撃されちゃあ、一溜まりもない!」

「俺もこいつの意見に賛成だ!どんな武器があるかもわからねぇ以上、こっちから行ってみた方がいい!」

リカルドの部下の一人、アルベルト・コーレインと、ルシードは行動する気でいた。

ルシードの後ろにいた、第三捜査部のバーシア・デュセルと全体の通信を担当しているメルフィ・ナーヴもルシード達と同じ意見の様だった。

「うむ。分かった。とりあえず、こちらから行ってみよう。ルシードとアルベルト、そしてバーシアは私についてこい。メルフィはここで通信を頼む。」

「分かりました。」

 

 

リーボーフェンの周辺の光が消え、周りの状況を見られる状態まで皆の視力も回復した。

「お、おい、ウィレツ……ここは、聖地じゃねぇよな……?」

「ああ、その筈だが……ジグリムでも、ヨークでもない……ミヤスコ、シスク、周りの状態を報告してくれ。」

ウィレツの命令で二人はすぐさま周りの状況を調べていく。

「とりあえず、聖霊機を持ってきて正解だったな。」

「ええ、これで自分たちの身は自分たちで守らなくなっちゃったわね……」

「大丈夫。ユミールは俺が守る。」

「ええ。有り難う。トウヤ。」

トウヤの言葉に安心したユミールはトウヤに優しい笑みを向ける。

「とりあえず、周りの状況は分かりました。北の方向に町が見えますね。とりあえずここに着艦して、そちらに徒歩で行ってみましょう。」

「それっきゃねぇか……とりあえず行ってみようぜ……」

「待ってください!誰かがこのリーボーフェンに近付いてきています!」

ブリッジの入り口に向かおうとしたトウヤ達を遮るように、ミヤスコが声を上げた。

「へへっ!多分北の町にいる警察か軍隊だろ?そいつらに事情を話したらこっちの処置をしてくれるのかもしれねぇぜ?」

「今回はそうするしかないみたいね。入り口を開けて、入れるようにしてちょうだい。」

「はい、分かりました。」

 

 

リカルド達は、リーボーフェンの入り口少し前で、あまりの無警戒さに驚いていた。

「どういう、事だ?人の気配はするけど……」

「わからん。だが、私達に好んで敵対関係になりたいと思っている連中でないことは確かだな。」

「そうですね。俺もそう思います。」

「どういうことだ?」

ルシードとリカルドの会話には、バーシアは分かっていたものの、アルベルトは理解できていないと行った感じの表情だった。

「アンタね。分かる?アタシらと敵対関係になりたいんだったら、今頃戦いになってたって訳。だけど今は戦いになってないでしょう?」

「と、言うことだ。今のところは100%味方だともいえねぇが、敵だという事も言えねぇ。とりあえず相手の出方を見るしかないと言うことだ。」

「わ、分かった。」

「それとだ。南の国……アルベザードの国王はかなりの野心家で、このエンフィールドも己の領地にしようと考えが無いわけではないだろう。ここの者達も彼に呼ばれたなら、元いた場所に戻す方法を私達で考えることだ。」

リカルドの言葉に暗黙の了解を伝えた三人だった。

 

 

「成る程ね。あんた達はその、「エンフィールド」って町で自警団をやってんのか。」

ルシードやアルベルトはともかく、バーシアのラフな格好に余り信じることが出来ないでいる、トウヤであった。

「失礼ね!ともかく、アンタらはアタシらと戦いたくないんでしょう?だったら……!」

「分かってる。俺達はしばらくお前達の町に厄介になるよ。」

トウヤは周りに目線で「お前らも、いいな?」と暗黙の了解を得る。

皆はうなずき彼の意見に同意する。

「ありがたい。とりあえず、この戦艦を町の北側に置いてください。アルベザード国にあなた達の物を奪われるのは本意ではないですからね。」

「分かった。バレン、頼む。とりあえず、あんた達もしばらくここにいてくれ。どうせ入り口までの距離は殆ど一緒なんだろ?」

 

 

トウヤ達はリカルド達に案内され、エンフィールドの入り口とも言える、「祈りと灯火の門」をくぐり、食堂兼宿に当たるさくら亭に案内された。

「あ、隊長さん!あの兵器のこと、分かったんですか?」

「ああ、パティちゃん。とりあえず、敵ではなかった。それより、それに乗っていた人たちの一部をここに置いて欲しいんだが……」

「オッケー!任しといて!」

「へぇ、アンタ達があの兵器に乗っていたのかい?」

そう言って、トウヤと同年代で傭兵風の女性が話しかけてきた。

「?アンタは?」

「ああ、アタシはリサ・メッカーノ。とりあえず、ここで厄介になってる一介の傭兵だよ。」

「俺はトウヤ・ジン・クラシオ。こいつらは俺のダチ。」

「へぇ。その内の一人は恋人さんじゃないのかい?」

リサの言葉に驚いて、後ろにいる銀髪の女性と目を合わせたが、その本人は顔が真っ赤になって、何も言えない状態だった。

その様子を見てリサは余り追求はせず、後ろにいる二人に、目を合わせた。

「どうだい。アタシの言った事は正しかったろ?さ、ビセットもルーティーも、諦めな

「ちぇー、敵だと思ってたんだけどなー」

「そうだよね。アタシも、アルベザードに雇われた傭兵だと思ってたのになー。シェリル達はどう思ってたの?」

ルーティーはそう言って、一緒の席にいた三人に声をかけた。

「敵でも味方でも、新しく書く小説の題材になりそうですね。」

「マリアはルーティー達と同意見だったな。」

「僕は、よく分からなかった。味方の方がいいかなとは思ってたけど。」

トウヤ達は、これからしばらく、エンフィールドに滞在することになった。

しかし、この土地でトウヤ達は新たな戦いに、身を委ねることとなるのは、まだ、誰も知らなかった。

 


第二章へ続く




後書き

どうも。糸こんにゃくでございます。

悠久幻想曲+聖霊機ライブレードの合体ssである、「争いの中の正義と悪」の序章いかがでしたか?

かなり唐突な展開だと思いましたが、楽しんでいただければ嬉しいですね。

舞台は悠久幻想曲1アンド2のエンフィールドで、3のルシード達もちゃっかり出しております。

このssでのオリジナル要素も出そうと思ってるので、そこのところよろしく頼みます

では、第二章で。



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