聖霊機ライブレード
時の歯車(中篇)
「何だこりゃあ?」
後に移動母艦リーボーフェンの機関士兼医師となるガボン・ジン・ボレイショは困惑していた。
先程の、王都に忍び込んだテロリスト集団「時代の曙」と聖霊機との戦闘に巻きこまれ重症をおった患者が手術室に運び込まれた。患者は見たこともない小動物だった。それは構わない、あの勝気なアイが涙ながらに助けてあげて欲しいとガボンに頭を下げたのだ、この小動物は大切な存在なのだろう。アイの話によると瓦礫の下敷きになってしまったらしい。内臓がやられている可能性がある、ガボンは患者の腹部にメスを入れた。
驚いたのはこの後だった。患者の体内はほとんど人工臓器であり、体内のいたる部分にメカが組み込まれていたのだ!
「…これはスゲェな、おそらく身体が弱っていた部分をメカにしたんだろうがバランスが絶妙だ!80%はメカだが、こいつはまだ生物…といって良いだろう。しかもこりゃあ難しい。医学の腕と知識だけじゃなく、機械関係の知識と技術も相当なきゃできねぇ。この俺でさえ難しいな、こんな事が出来る奴が他にもいるってのか?世の中は広いもんだぜ」
ガボンは患者の体内に施された手術後を見て感心し、多いに興味を持った。
「体内に問題は無いな。ショックで気を失っただけだろう」
患者の身体は特に問題が無い事はわかった。ガボンは安心したのか、恐ろしい事を言い出した。
「俺だったら脳もいじって改造するんだが、手術した奴は手をつけたのかな?」
そして自分の好奇心を抑えられなくなり更に恐ろしい事を口走った。
「…開いてみるか?誰も見てないし、傷痕も残らないようにするしな」
自分に都合よく言い訳をした。
患者大ピンチである。
その時・・・
「…んニャ?」
麻酔が少なかったのか患者の小動物は目を覚ました。
「…目が覚めたのか?」
ガボンは患者が意識を取り戻したというのにすごく残念そうな表情で患者に声をかけた。
「あれ?あたし…ニャんでこんニャところに?」
「!!おどろいた、お前さん喋れるのか?」
「はあ?ニャにいってるのよガボン、あニャたが喋れるようにしたんじゃニャい…」
「何?なんだ、どういう…何で俺の名前を知ってるんだ?」
ガボンはワケがわからなかった。
「?」
どうも会話がかみ合わない。患者の小動物(ヤマト)は軽く首を起こした。
そして…
「?!ニャアアアァ!!アタシのおニャかが開いてるぅ!!」
「ん?ああスマン、治療中だったんでな」
「イヤニャァァァ!こ、殺されるゥ!!犯されるぅ!!改造されるぅ!!」
ヤマトはパニックに陥った。(当然である)
「おいおい、人聞きの悪い…何もしないよ」
ガボンは溜息まじりにヤマトに笑いかける。名医だけあって患者を落着かせるコツをつかんでいるのだろう。安心できる笑顔だった。
「うう…本当?」
「ああ、安心してくれ」
「改造もしニャい?」
「………もちろんだ」
「今の間はニャんニャのよ!!やっぱり改造する気ニャのね!!」
「いやスマン。すぐ縫合するからもうチョットだけ寝ていてくれ、話はそれからだ」
「…これ以上改造したら一生怨むわよ」
「わかったわかった」
小動物と思って麻酔の分量を減らしていたから早く目が覚めたのだろう。ガボンはヤマトにもう一度先程と同程度の分量の麻酔を打ち縫合を始めた。
ヤマトは20分後目を覚ました。
2
「…と、いうワケニャのよ」
ヤマトは別世界の、しかも別の平行宇宙から来た事。そして自分はガボンに手術された事を話した。(ちなみに先程自分が別宇宙から来ていた事を本人も忘れていた事は話していない)
「…驚いたな、つまりお前さんを手術したのは別宇宙の俺ってことか」
「アタシのことはヤマトでいいわよ。それにしても…自分ではニャしていても無茶なはニャしニャのによく信じてくれたわね?」
「別世界があるって事はアガルティアでは前々からわかっていた事だからな。他に別宇宙があったってさして驚きゃしないさ。それにそんな改造が出来る奴は俺以外にいないって自信もある」
「はぁ、そう…」
ヤマトはチョット呆れた表情でガボンを見た。
「で?ヤマトはどうして別の平行宇宙に来たんだ?いや、それ以上に平行宇宙ってのは自由に行き来可能なのか?」
ガボンは核心に迫った質問をした。
「そ、それは…」
その時廊下が騒がしくなった。
『…それでヤマトは大丈夫なのか?』
『トウヤ落着いて…』
「廊下が騒がしいな、誰だ?」
「トウヤよ、アタシの手のかかる弟」
その事についてガボンはあえて突っ込まなかった。
「そうか、で?そいつにはお前が無事だって話していいのか?」
「まだ手術中だって話しておいて。アタシの正体はまだ話してはいけニャいの…」
「…よくわからねぇが、手術中だと言えばいいんだな。詳しい話はしてくれるんだな?」
「ええ、わかってる。お願い」
ガボンは廊下にでた。
「?!」
「…(ほう、いい目をしてやがる。こいつがトウヤか)」
ガボンは緑の髪の青年と目が合った。
「お、おい…ヤマトは、ヤマトはどうなんだ!?」
「…(本当に知らねぇんだな)落ち着け。とりあえず一命はとりとめた」
「よ、よかった…」
「だが、内臓に深刻な損傷を受けておりこのままではそう長くは保たん。助かる方法は人工臓器と交換することだ。おまけに生体バランスをとるためには身体の80%を人工の代替器と交換する必要もある。俺も動物でこれほどまで大掛かりな手術は始めてだが、なあに、なんとかしてみせる」
ガボンはおそらく何も知らないであろうトウヤに、つじつまを合わせるため先程見たばかりのヤマトの状態をこれから手術するかのように説明した。
「なんでもいい!!とにかくヤマトを助けてくれ!」
「よし!任せておけ!」
「…頼む…」
「心配するな。必ず助けてやる」
ガボンは手術室に戻った。
「…しまった!脳も改造するとか言っておけばよかった」
「どうしたのガボン?」
「…いや、それよりあいつ必死な顔してたぞ?かわいそうじゃないか?」
「トウヤは優しいから…ガボン、あニャたにはニャせる事は出来るだけはニャすわ。そしてあニャたにお願いしたい事があるの」
「…わかった。とりあえず話してみてくれ」
ヤマトは2つの使命にかかわる事以外を全て話した。
「…バカな話だな。そんな事をして、その子が喜ぶわけがないだろうに」
「いったでしょう?トウヤはバカニャのよ。だからアタシがついていてあげニャいと」
「お前もバカだ…」
「わかってるわよ!…ガボン協力してとはいわニャいわ。でも一つだけお願いがあるの」
「何だ?」
「それは… …」
「何!バカな、何故そんなバカなマネをするんだ?!」
「…アタシは使命の為に鬼にニャらなきゃいけニャいのよ、だから…お願い、アタシを助けて!」
「それがお前を救う事になるのか?そんなことが…」
「そう、そうね、アタシは救われるわ。これから起こる不幸を知らないフリをすることができる。お願い、耐えられニャいのよ、アタシは使命を守らなければいけニャいのだから」
ヤマトは涙を流していた。
「…わかった。だが失敗してもしらないぞ?」
「あニャたならできるわ」
ヤマトはもう一度手術台に乗る。
「俺も忘れた方がいいのか?」
「大丈夫。あニャたには大まかにしかはニャしてないわ。後は判断に任せるわ」
「解った。麻酔打つぞ?」
「今度は途中で起きない量打ってよ?怖いんだから」
「俺を信頼しろ」
ヤマトは使命の為もう一度眠りにつく。
ヤマトの使命
「永遠のトウヤのパートナー」そして「時の歯車を回さない」為に…
「今晩わ」
「…」
「…あの、あまり無理をしては…顔色もよろしくないようですし…」
「…手術を…受けているんだ…」
「…はい…存じております…」
「…?」
その時手術室前の廊下で、トウヤは髪を編んだ少女に話し掛けられていた。
皮肉にも彼女はトウヤと、そしてヤマトを励ます為に手術室前に現れていたのだ。もしそのことをヤマトが知っていたら彼女はこの決断をしたであろうか?この後ヤマトに赤いリボンをプレゼントしてくれた少女を。少女の名は後にアルフォリナと解る。
その名前は、時の歯車をこれ以上回さないためにヤマトが消した記憶の1ピースだった。
それは出会いの物語〜
「ちょっと、君いつまで見てるんだよH!!・・・えっ?!」
何故だか解らない。しかしトウヤは彼女から目が離せなかった。
そして・・・涙が止まらなかった。
「君、どうして泣いてるの?」
「やっと・・・会えた・・・」
「えっ?」
彼女は複雑な気分だった。初めて会った青年は裸の自分を見て泣いているのである。
(ボクの裸が見れて泣くほど嬉しい・・・ってゆーんじゃないよねぇ?)
トウヤの涙の意味は解らなくて当然であった。当の本人でさえ理由など解らないの
だから。
「・・・レ・・・お・・・・・・ネ」
「えっ?!今、ボクの名前・・・」
2人の時が・・・止まらなかった。
「あっ!ねえ君!」
最初に気付いたのは彼女だった。
「えっ?」
「さっきの小さいコ、流されてるけど・・・いいの?」
「ああっ?!しまった忘れてた!!」
トウヤも正気に戻る。ヤマトを助ける為走り出した。
「あっ、チョット、ボクの服も!!」
「あーっ!おめぇはこのシャツを貸してやるからこれで我慢しろ!ヤマト待ってろ!今たすけにいく!」
トウヤは自分のシャツを彼女に渡し、今度こそ走り出した。
「…」
彼女は渡されたシャツを持って途方にくれる。
「うー、あきらかに短いよねぇ…コレ…あっいいこと思いついた!ボクって天才かも」
ビリビリッ!!
トウヤのシャツを破く。
「…これでよしっと…」
そして破れたシャツをビキニのようにして着けることにした。
「これでもけっこうスース−するなあ…」
ギシリ!!
このとき、時の歯車が・・・軋んだ!!
そう動き出す事なく軋んだのだ!!
「ケホッ、ケホッ」
「ヤマト大丈夫か?」
トウヤは自分も流されそうになりながら何とかヤマトを助けることができた。
「・・・死ぬかと思ったわよ!トウヤは助けに来てくれニャいし・・・」
「わるかったよ。なんか身体が急に動かなくなったんだ」
「・・・そう、アタシの命より女のコの裸が大切だったのね・・・」
「悪かったって。それより身体の方は大丈夫なのか?」
「・・・誤魔化されてるきがするけど・・・えーっと・・・」
バチン!!
「んニャッ?!」
「どうしたヤマト?!」
「・・・ん、わかんニャい。ニャんだか一瞬頭の中に火花でも散った感じがしたんだけど…別に問題はニャいわ」
「ガボンに見てもらうか?」
「…それはイヤ」
「…」
2人は先程の少女の所に戻った。
「ふぅーまったく…あやうく俺まで流されるところだったぜ…おわっ!な、なんだその格好は!」
「え?なんかヘン?」
この後トウヤは自分のシャツが再製不能である事を知り、そして少女の名を知ることになる。
彼女の名は「レオ−ネ」トウヤの最も大切な少女との出会いだった。
2人は出会った。そして時の歯車は動かない。
ヤマトが唯一動かす筈であった時の歯車は軋むだけだった。
そしてヤマトの記憶も戻らない。封印のパスワード「reoone」は川に落ちた時
ヤマトの記憶から流れ落ちてしまったから・・・
・・・時の歯車は動かない。
・・・変わりに残酷な運命の歯車は回り続けていた・・・
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