いつか・・・きっと・・・
「トウヤ、カスミが来てるよ。早く学校に行かニャいと…」
「……」
「トウヤ!!」
「…悪い、休むって言っておいてくれ…」
「でも、あれからもう3日もたってるのよ?カスミとも1回も会ってニャいし…」
「…」
「…わかった。でも明日からはちゃんと学校にいってよね」
「…」
ヤマトは俺の部屋をでていった。たぶんカスミに言いに行ってくれたんだろう。
あれからもう3日…まだ3日かもしれない。異世界アガルティアに呼び出された俺は
仲間達と共にヴォ−リアを復活させて人類を滅ぼそうとしたデビッシュを倒し、世界を救った。
でもレオ−ネを救えなかった。
真直ぐな瞳で俺を見つめてくれた…俺のことを大好きといってくれた…
俺の一番大切なあいつを…レオ−ネを俺は救えなかった!
ガシィッッ!!
また壁を殴る…いつから俺はこんな自虐的な性格になっちまったんだろう。こんな事をしても無駄、自分を、そして心配してくれるカスミ達を傷つけるだけ…解っていてもこのどうしようもない気持ちにケリをつけることができなかった。
「バカ、また壁をニャぐってるわね」
「トウヤちゃん…」
玄関で話していたカスミとヤマトが心配そうに2階を見上げる。
「トウヤはわたしが見てるから心配しニャいで。カスミは学校に行って。遅刻しちゃうわよ」
「私…トウヤちゃんに何もしてあげられないのかな…」
思い詰めた表情でカスミが呟く。その目には涙が溜まっていた。
「だめよカスミまで暗くなっちゃ!!大丈夫トウヤは強いわ。今ちょっとニャやんでるだけよ」
姉のような、母のようなそんなヤマトの言葉だった。
「うん。トウヤちゃんのことお願いねヤマトちゃん…」
「まかせて!!」
カスミは涙を抑え、今できる精一杯の笑顔を見せて学校へ向かった。
「カスミまで泣かせちゃダメだよトウヤ…」
この世界に帰ってから俺はほとんど自分の部屋から出なかった。テレビを見るわけでもなく、
音楽を聴くわけでもない。ただベッドに横たわっていた。夢でレオ−ネに会えたから。
『ボクの服、どうしてくれるのよ!』
始めて話した時あいつ裸で、怒ってたよなぁ。
『うん。あっ気にしないで。これで我慢するから』
俺の服破いておいて、気にしないでだからな、レオ−ネらしいよ。
『これってさ、なんかデートみたいだよね?』
館内を案内してやった時はしゃいでたよな。デートだって言ってやればよかったかもな。
『ねっ掃除手伝って』
リーボーフェンに部屋をもらって喜んでたよな。掃除てつだってやればよかった。
『ボク…トウヤを信じていいかな?』
俺を信じてくれたお前を…助けられなかったんだな…
『うん。このとおり元気、元気。ボク、完全復活だよ』
俺を心配させまいと思って無理言いやがって。
『やったー!ありがとう大切にするね!』
一緒に写真とったぐらいですげぇ喜んでくれたよな。
『ボクは自分を、みんなを…そして、トウヤを信じる!』
信じてくれた女の子一人俺は助けられなかった…
『ボク…全然後悔してないよ。だって、トウヤと一緒にいられた今日までの時間…
とても楽しかった…幸せだったもん』
俺はお前を少しでも幸せにしてやれたのか?
『トウヤがいてくれたらボク、頑張れそうな気がするんだ』
お前は頑張りすぎなんだよ…
『トウヤのためならなんだってできる』
俺はお前の為に何かしてやれたのか…
『ボク信じるよ。この気持ちを。トウヤを好きだっていうこの想いを!』
俺を好きにならなければ、もしかしたら…お前は…
『トウヤはボクにたくさんのものをくれた…でもボクはなんにもしてあげられなかった
…だから、これ…ボクの宝物だから…これ、持っていて欲しいの…』
俺がお前に何をあげられたっていうんだ?
『ねぇ、トウヤ…ボク…トウヤの役に立てたかな…?』
あたりまえだ!お前がいなきゃ、世界は…でも…お前は・・・・・・
…………辛いだけだな…思い出したくない事まで思い出しちまう。でも俺はそれでも…
たとえ夢の中だけでもお前に会えるなら……
(ちがうよトウヤ…)
暗闇の中、声が聞こえる。大切だった、いとおしい声が…
「レオ−ネ?レオ−ネか!?」
(ひどいよトウヤ、ボクとの思い出は辛い事だけなの?)
「姿を見せてくれよ!夢の中でも俺は…」
(ダメ!ちゃんと思い出して。ボクが好きなトウヤはそんなんじゃないよ。ボク、トウヤに出会えて本当に幸せだったんだ。今のトウヤは生きてるだけだよ、ちゃんと思い出して)
「レオ−ネ…」
『ボク…トウヤのこと好きになって…本当によかった…』
レオ−ネ、だけど…
(トウヤ。ボクの言ったこと全部本当の気持ちだよ。本当に好きになってよかった)
『ボク、とっても幸せ…ずっとトウヤの特別でいたいな…』
だから俺は…ずっと…
(そうじゃない、そうじゃないよトウヤ。ボクはトウヤの特別になりたいけど枷にはな
りたくないっていったじゃないか!ボクは忘れないで欲しいだけ。大切に心にしま
って欲しいだけ)
『みんなのために、トウヤのために死にたい…ボクの分まで生きてほしいもん』
闇の中から光…そこにレオ−ネがいた。
(そうだよ。やっと思い出してくれたね。こんな所にいちゃダメ。生きて、ボクの分
まで一生懸命生きて、トウヤ)
レオ−ネが俺を抱きしめる。
涙が…止まらなかった。
(右手、血がでているよ、自分を大切にしてね)
レオ−ネは俺の右手にそっと口付けした。
「…レオ−…ネ……」
(トウヤ、最後に言えなかった言葉をいうよ…)
だいすき
「10時か…」
カスミが来てから2時間くらい寝てしまったらしい。夢を見た。いつもと同じレオ−ネの夢。
でもいつもと違うレオ−ネの夢。
俺は胸ポケットにしまっていたレオ−ネの写真を両親の写真盾のとなりに置いた。
「ごめんなレオ−ネ、お前の宝物少しシワ付けちまった、許してくれよな」
写真のレオ−ネは笑っていた。
ガチャッ
「あれ、トウヤその格好…」
心配してくれていたんだろう。ヤマトは俺の部屋の前で座っていた。
「ああ、ヤマト学校に行ってくる。まあ3時間目には間に合うだろ」
「…そう、行ってらっしゃい」
ヤマトはそれ以上何も聞かず、付いてくるとも言わなかった。
「ありがとうな、ヤマト」
「カスミにもちゃんと言いニャさいよ」
「わかってるよ」
カバンを持った右手に傷はなかった。
3日ぶりの晴れやかな青空、その空の色はレオ−ネの美しい髪を思い出させる。
「行ってくるよレオ−ネ、精一杯生きて、いつか…な」
大好きだよ、トウヤ…
いつかきっと…