題名:突然

 

 

 

 「暑いねー。」

 「うん。」

夏。街の公園では、蝉が、まってましたとばかりに、声を上げる。

そして、太陽はこれもまた、これでもかと言うほどに日差しを石畳に

降り注いだ。街のメインストリートとなる石畳の通りは

体いっぱいに汗をかきながら走る馬車の蹄の音と、これまた汗をかきながら

声を上げてアイスキャンデーを売るおじさんの声が響く。

もちろん、通りを歩く人たちはみんな薄い服を着て、同じように

暑さを我慢しているようだった。

 「んっ・・それにしても、夏ってやだなーあたしは。」

 「そうかな。」

二人の少女がソフトクリームを片手に歩いていた。

片方の少女は白い丸い帽子を。もう1人の少女は大きな麦わら帽子を

かぶっていた。

 「でもさぁあ?こんなに暑いのに、長袖なんてどうしちゃったの?」

白い帽子に髪をショートにした少女が麦わら帽子の背中まで黒い髪を伸ばした

長袖の少女に言った。

 「日に焼けちゃうし。」

 「夏なんだよ?」

 「まっかになっちゃうんだよ。わたし。」

残りわずかのコーンを口にほおりこんで、白い帽子の少女は言う。

 「海にも行けないじゃない。そんなことじゃ。」

 「わ、わたしは、いいよ。」

 「だぁ〜めっ。なんといっても、あなたがこなきゃ、いい男が集まらないでしょ?」

 「・・・・。」

非難の目に白い帽子の少女が咳払いを1つする。

 「まぁ、ことばのあやってやつで。」

 「そんなわけないでしょっ。もう。」

麦わら帽子の少女も食べ終えて1つため息をつく。

それから、視線の先に見えるとおりで子供たちが

消火栓の水を石畳に撒き散らして遊んでいた。

 「へぇ。気持ちよさそうね。あれ。」

白い帽子の少女もそれに気づいて視線をそちらに移す。

その少女の声に何か含んだものを感じたのか麦わら帽子の

少女が拒否する声を上げる。

 「やだよ。わたし。」

 「ほんと、勘のいい娘ね。あなたは。」

 「服が濡れちゃうでしょ?」

 「いいじゃない、別に。ほら、ごらんなさいよあたしたちと

  同じくらいの年の男の子も混じってるじゃない・・あ〜あ。

  頭から水をかぶちゃって・・。ほんと、子供みたい。でも、

  遠いからわからないけど、結構いい男じゃない?」

白い帽子の少女が、麦わら帽子の少女に笑いかけた。

麦わら帽子の少女は、じぃっとそれを見ていた。

白い帽子の少女が大きい声を上げる。

 「ねー!きもちいいー!?」

麦わら帽子の少女は顔を真っ赤にしてそれを

やめさせようとしたが、白い帽子の少女は歩いていってしまう。

通りの大人たちやほかの同年代の子供たち。

みんなが笑って・・いや微笑んでいた。

 「あぁ!気持ちいいよー!」

先の同年代に見える少年が声を返してきた。

白い帽子の少女はもう、消火栓の水がかかるか、かからないか

というところまで近づいて子供たちやその少年に

話しかけていた。

麦わら帽子の少女も仕方なくそれに続く。

その途中で投げだしたような、置かれているだけのような

旅行鞄が目に入ったが気に留めなかった。

目の前に小さな虹が見える。

子供たちはきゃっきゃと笑い、少年を蹴飛ばしたり

呼びかけたりして、端から見たらなにをしているかわからない。

でも、楽しそうだった。

 「楽しそうだね。」

麦わら帽子の少女がそういうと

同年代の少年はその少女の顔を見て表情を和らげた。

 「やぁ!」

それから、麦わら帽子の少女の名前を呼んで続ける。

 「まいったよ。エンフィールドと違ってローレンシュタインは広すぎ。

  予約を取った宿は見つからないし、それにどこに行けばいいのかわからないしさ。

  くわえて、この暑さだろう?この子たちに誘われて

  遊びだしたら・・。」

 「ばかっ!」

麦わら帽子の少女は大声を上げた。

普段、そんなことは滅多にしない少女だけに

白い帽子の少女は驚きの表情でそれをみた。

しかしその視線の先の麦わら帽子の少女が見せた表情は

一度も見たことがなかった。

麦わら帽子の少女の声に子供たちも立ち止まり少年と

少女を見比べるように視線を行き交わせる。

 「なにをやってるの!?いくら暑いからって。」

 「いやぁ、だってさー。」

 「だってもなにもないよっ」

しまいには少女の目に涙さえ浮かんでくる。

少年は後ろ頭を手でかいてから手を広げて言う。

 「気持ち・・・いいよ?」

 「もうっ、しらない!」

消火栓から吹き出す虹に向かって、少女は少年の胸に飛び込んだ。

勢いに麦わら帽子は石畳に落ち、少女の黒い髪と頬に流れる水は太陽の光に

照らされて輝く。

少女は、ほんの一瞬、少年の唇を重ね虹の中で言葉を紡ぐ。

ずっと心の奥底に詰め込んで我慢していた言葉を。

その言葉は少年と少女には、ほかの消火栓から噴き出す水の音よりも

ずっと大きく聞こえた。

 「ずっと、ずっと逢いたかった!」

 

 


作成日:2002−05−29

 

このSSはみのむしの館ver2.1HP管理人みのむし様から頂きました。

 

ちゃっかり7万ヒット記念にさせて頂きました(笑)

みのむしさんありがとー♪

 

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