*注意
このSSは壊れSSです。
このSSにはパロディネタが多数存在しています。
このSSにはシスプリネタが多数含まれております。
このSSのシスプリネタは、作者がシスプリ未経験なため間違っている物が多々あるでしょうが、笑って許してやってください。



シスプリウオーズ☆


「よぉーしっ!たまにはダッシュでもやろっかなーっと」
 そんなことをわざわざ言葉に出しながら、ビセットは訓練室のドアをくぐった。たまには、と本人は言ってるものの、実の所、ビセットがダッシュの訓練をやる割合は結構高い。魔法攻撃系よりも物理攻撃系の方が得意な彼にとっては、どうしても訓練室に入り浸ってしまう傾向がある。
 それはさておき、ビセットが意気揚揚と訓練室に入っていくと、そこには先客が居た。
(ん?あれは…なんだ、ルシードじゃん)
 ビセットが先客に気づいて視線を遣ると、そこにいたのは若くしてここBFのリーダーをしているルシード・アトレーだった。
 彼は今ダミー破壊をしている。余程真剣に打ち込んでいるのか、ビセットがやって来た事にはまだ気付いていないようだ。
 ビセットは何となくその背中を見詰め…ふと、いたずら心が湧いた。
(そうだっ!)
 ここで、SSタイトルのシスプリが関わってくるのである。
 詳しく説明すると、ビセットは、実はルシードが今現在シスプリにはまっている事を知っていた。そして、都合よく自分の声優(笑)は女性。つまり何がしたいのかと言うと、シスプリ流の『兄』の呼び方でからかってやろうと言うのだ。
 はっきり言ってと言うか、どれだけ回りくどく言っても碌な思い付きではない。
 ちなみに、この世界にゲーム、果てはシスプリなんてあってたまるかという意見は尽く無視です。どちらもメディアワークスのゲームだからと言う事で目を瞑ってください。(爆)
(ん〜…なんて呼んでやろっかな〜♪)
 色々な呼称を思い浮かべながら、あれこれ考えるビセット。
 因みに、ビセットが、ルシードがシスプリにはまっている事を知っている理由は、実は彼もシスプリにはまっているからだと言うのはここだけの秘密だ。
(でも、兄チャマは譲らないぞっ!)
 …更に言うなら、四葉萌えと言うのはもっと秘密である(爆)。
(ん〜〜〜…よしっ、これにしようっ!)
 ようやく決まって、ふっふっふっと含み笑いしながらルシードの背中に声をかける。
「よっ、あにぃ♪」
「ふざけた事をぬかすなぁぁぁーっ!!!」
「うわらばぁぁぁーーーっ!」
 ビセットがそう言った途端、ルシードの強烈な右フックがビセットのテンプルを捕らえた。ビセットはそのまま勢いよく吹っ飛んで、床をツーバウンドしたあと、頭から訓練室の窓に突っ込む。普通なら、どう考えても大怪我は免れないだろう。が、
「い、いきなり何すんだよ、ルシードッ!?俺じゃなかったら大怪我してたところだぞ!!」
 頭の数箇所にガラスの破片が刺さっているものの、たいしたダメージも無い様子であっさりと立ち上がるビセット。さすがはBF1の耐久力を持っているだけの事はある。
「何をするか、だと?」
 それに対するルシードの瞳は嚇怒の炎で萌えて…もとい、燃えていた。
「ビセット、貴様こそ、自分が何を言ったのか分かっているのかっ!?」
 何故か、既にキャラクターが違っているルシード。そのまま、怒りに拳を握り締めて、血涙までも流しそうな勢いで言い放つ。
「貴様如きが言うに事欠いて『あにぃ』だとぉっ!?お前は今、俺を含めて推定全国26,874,913人の衛萌えの『あにぃ(はーと)』を敵に回したっ!その罪、万死に値するっ!!よって貴様は死刑っ!!!」
 とてつもなく無茶な三段論法だ。
「な、なんで推定なのにそんな細かい数字なんだよっ!」
 今のルシードの台詞で突っ込むべき所はそんな所ではなく、むしろルシードが衛萌えだと言うところだと思うが、いかがか?
「ビセット、お前に釈明の余地はない。藻屑と消えろっ!」
「なんでそんなことで死ななきゃなんないんだよっ!だいたい、衛なんかのどこがいいんだよっ!」
「衛なんか…だとぉっ!!」
 ルシードの瞳が、声が、烈火の如き激情に染まる。それは、聞く者全てに逆らえない原始の感情での恐怖を与えるに足るものだった。しかし、ビセットは怯まなかった。
(オレは負けないっ!四葉、力を貸してくれっ!)
 そして、ルシードを真っ向から睨み返して、毅然と言い放った。
「へんっ…衛なんて、運動バカの癖に球技全般がからっきしの、なんちゃってスポーツ少女じゃないかーーーっ!!」
「なっ…!!」
 怒りのあまり言葉を失うルシード。
「はん!まったく、ボクって一人称使えばボーイッシュだと思ってんの?笑っちゃうね。今時ボーイッシュなスポーツ少女なんて流行らないのにさ」
 ルシードはわなわなと全身を震わせていたが…やがて、不意にそれを押さえ付けてにやりと唇の端を上げた。
「な、なんだよ」
 その様子に少しうろたえるビセット。
「……百歩、いや、億歩譲って、お前の言う事も一理あると言う事にしてやってもいい。だが、チェキなんて怪しげな隠語喋ってる腐れ探偵被れなんかよりは数億倍衛の方がマシだ!」
 そう、ルシードはビセットの萌え妹が四葉であることを知っていたのだっ!これぞ正に愛のなせる業!
「なっ…!」
「『チェキチェキ♪』なんぞ幼稚な言葉を使いおって、媚を振りまいているのが丸分かりだっ!だいたいあれで名探偵のつもりだと?ノータリンの阿呆がバカ丸出しにごっこ遊びしているだけだ。あんなのは、シスプリの恥部だなっ!」
「る…ルシィィィィィドォォォォォォォオオオオッ!!!」
 怒髪天を突く勢いで激怒したビセットが、そのまま怒りに身を委ねてルシードに殴りかかった。そして、まるでマシンガンのように矢継ぎ早にパンチを連打して浴びせ掛ける。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!」
「ヤダバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 ドガァァァァァァァァァァァァッ!!!

 ルシードは思い切り派手に吹っ飛び、そのまま壁に叩きつけられた。だが、
「ちっ…」
 なぜか、ビセットが舌打ちする。その次の瞬間、ルシードは何事も無かったかのように服のホコリを払いながら立ち上がった。
「気は済んだか」
「浮身か…」
「ふっ…お前の技など、俺の前では児戯同然だ」
 浮身…相手の攻撃を受けるとき、同時に自分も後方に跳んで、その衝撃のほとんどを空中に逃す最強の防御術。派手に吹っ飛ぶ見た目とは裏腹に、それによって被るダメージは零に等しい。
「ビセット…お前の負けだ。大人しく『衛ちゃん、萌え〜♪』になると誓うのなら、命だけは助けてやる」
「だれがっ…!ルシードこそ、四葉を貶した言葉を取り消さないと、許さないからなっ!」
 ビセットの言葉に、ルシードは苦渋めいた吐息を漏らして、うめく。
「フッ…所詮は炎と氷。交わる事など、無いのかもしれないな」
 いや、二人ともどっちかって言うと炎属性だろ?
「キィーーーーーーースッ!!」
 作者の突っ込みを無視して、大声で絶叫するビセット。そのまま、炎の魔法(ブレイズ)でルシードへの攻撃を敢行する。…どうでもいいが、キースって誰だ?
 一方、ルシードもそれを同じくブレイズで相殺した。
 って、魔法使用許可取ってないだろ、お前ら?
「シスプリはリリンが生み出した妹萌えの極みだよ。そして、衛はその中でも最上の位置に当たる。正に好意に値するね。これが何を意味するのか分かるかい?好きってことさ」
 ルシード…あんた、誰?もしかして声優ネタ?
「くっ…本当は、戦いたくないのに…」
 こっちはエミ○オか?
「でも、誓ったんだ。四葉(の名誉)を守るために、ボクも戦うって。行くよっ!」
 そう言って、ビセットは胸の前で印を結ぶ。…どうやらエ○リオでは無かったようだ。
「我、汝に契約する!………ゲッシュ・ズイオードッッッ!!」
 片手で五紡星を切り、力ある言葉と共にその中心を両手で突く。…この元ネタが分かる人、作者と友達になってください(爆)
「何ぃっ!?ロスト・レガシィ(古代遺産魔法)だとぉっ!?」
 驚愕の叫びと共に、ルシードが灼熱の炎の球に包まれる。そして、イクスプロージョン。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 断末魔の叫びが訓練室に木霊する。
「殺ったか!?…へーんだ、ざまぁみろっ!」
 いつのまにか元の口調に戻っているビセットが、跡形も無く消し飛ばされたルシードを見て得意そうに胸を張る…って、殺すなっ!
 まぁ、しかし、主役はこんな所では死なないらしい。
「…今の攻撃は中々面白かったですよ」
 調子に乗るビセットの背後に、突如としてルシードが現れた。また口調が変わっているが、気にしてはいけない。
「なっ…オレの魔法は確かにルシードを捕らえていたはずじゃあ…」
「簡単な事です」
 指を口の前に持ってきて、出来の悪い生徒に言い聞かせるように説明する。
「体の一部を切り離して、本体は精神世界(アストラル・サイド)に非難させたんですよ。まぁ、もっとも。おかげで無傷と言う訳には行きませんでしたけどねぇ」
 あー、もう何がなんやら…
「ま、魔族めぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「これで、終わりです」
 ビセットの背後に、虚空から黒い錐が忽然と現れてた。
「くっ!」
 間一髪で避けた所に、更にもう一つ黒い錐が現れる。最初のは囮だったのだ。そして、その黒い錐があわやビセットの体を貫こうとしたとき…
「いったい何やってるんですかっ!?…ひっ」
 血相を変えたメルフィがバンッと激しくドアを開けて入ってきた。しかし、同時にルシードとビセットの二人に睨みつけられて、思わず悲鳴をあげる。視線で人が殺せるかとも思えるほどの、殺意に満ちた眼光だった。
 突然のメルフィの登場に一瞬硬直する二人。だが、立ち直りはビセットの方が早かった。黒い錐が止まった隙を突いて一気にその下を掻い潜り、そのままルシードとの間合いを詰める。
「…油断大敵、一撃必殺、盛者必衰、呉越同舟!」
 意味不明な四字熟語を並べて、合わせた両手のひらをルシードの腹部に置く。ルシードもビセットの狙いに気付いて身を捩るが…遅い!
「とったぁっ!!激璧背水掌っ!!!」
 ビセットが両手に己の全魔力を集めて一気にルシードに向かって放出する。ほぼゼロ距離から送られてくる魔力の波動を、ルシードは避けるすべも無くまともに体に受ける。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 断末魔の叫びと共に、ゆっくりと前のめりに倒れる。吹っ飛ばなかったのは、逆にその威力の全てがルシードの体に叩き込まれた証拠だ。
「いくら装甲が厚くても、この距離ならっ!」
 勝利の確信とともに、どこかで聞いた事があるような台詞を吐くビセット。――が、
 次の瞬間、ルシードは、むくりといともあっさり立ち上がった。
「…中々効いたぞ。だが、俺のタマァ取るには、ちぃとばかし足りねぇみてぇだな」
「なっ…あれを喰らって無傷だと?四捜の室長は化け物か?」
 いい加減、どっちがどっちだか分からなくなって来たが、両者は再び間合いを取って対峙した。そこへ、先程睨まれた恐怖からようやく復活したメルフィが静止の言葉をかける。メルフィの背後には、いつのまにか他のBFのメンバー達も集まってきていた。
「いい加減にしてくださいっ!!!」
 いつもならメルフィがこう言えばルシードもビセットも黙って従うのだが、今回はそうではなかった。
「止めるなメルフィ。始末書なら後でいくらでも書くっ!だが、今は譲る気は毛頭ねぇっ!」
「オレもだぜっ!絶対にお前だけは…ルシードだけはっ!絶対に許さないからなっ!」
 お互い一歩も引かずに、尚も睨み合っている。
「この勝負が決するとき、即ち、それはどちらか一方の死をもってのみと知れ!」
「北斗神拳の前に、敗北の二文字は無い」
 二人の言葉と共に、再び凄まじいまでの魔力が交錯する。メルフィ達はその中に入る事が出来ずに、訓練室のドアの前で見ている事しかできなかった。
「…いったい、どーなってんの?」
 バーシアが呆れたようにメルフィに訊ねる。しかし、メルフィは首を横に振るしかなかった。
「それが、私にも分からないのよ。いったい、何がここまで二人をかき立てていると言うの?」
 目前の、言葉通りの死闘に、立ち尽くすしかないメルフィ達。
「仕方ない。しばらく様子を見るしかないな」
 結局、ゼファーが消極的な意見を述べ、それ以外にどうしようもなさそうなので、その意見に従うしかなかった。
 場面は再びルシードとビセットの戦いの場に戻る。

 ドゴォォォォォンッ

 ルシードの放った火炎の炸裂球が空中で破裂してビセットを襲う。
「ビセット!お前は分かってねぇんだっ!衛は運動少女に見えて、球技がまるで駄目と言う欠点を持っている。だがっ、そこにこそ萌えを感じるんじゃねぇかっ!」
 その火の粉を避けながら、負けずとブレイズを撃ち返すビセット。
「分かってないのはそっちだろっ!あの『チェキ』って言う独特の幼さと愛しさを併せ持つ言葉遣いに萌えない奴は男じゃないんだっ!」
 そこへ、
(なっ…)
 ビセットが放ったはずのブレイズが、まっすぐビセットに向かって戻ってきた。
(――逆流してくる!?…違うっ!これは、強い力で押し戻されてるんだっ!)
 そう、ビセットがブレイズを放つと同時に、ルシードも同じ魔法を放っていたのだ。そして、魔力の強いルシードの魔法が、ビセットの魔法を押し切って向かってきたのである。
 そのまま炎に巻かれるビセット。だが、多少は相殺してあるので大したダメージは受けていない。そこへ、ルシードが冷ややかに言い放った。
「忘れたのか、ビセット。魔力の強さでは、俺の方が遥かに上だと言う事をな」
「確かにそうだったな。…だがっ!」
 ビセットは言葉と同時に、懐に隠し持っていたナイフを素早くルシードへと投げつけた。なんでそんなものを懐に隠し持ってたのかは突っ込んでいけない。まぁ、17歳だからと言う事にしておいてくれ(笑…えない)。
「――!?」
 慌てて身を捩ってナイフをかわすルシード。ビセットはその懐に一気に潜り込んだ。そして、相手の脇腹にぽんと拳を突きつけて、言った。
「こと、接近戦においちゃ、魔力の強さなんて欠片も意味が無いんだぜ――耳元で爆竹鳴らすだけでも、人間を悶絶させる事はできるんだからな」
「このっ…!」
 怒りに顔を歪めながらも、迂闊に動く事が出来ずにうめくルシード。そんなルシードを、ビセットは頭で軽く押した。
 反射的に、ルシードは僅かにそれを押し返して――
 ずだんっ!
 その動きに重ねるように、ビセットは全身の筋肉を伸縮させて拳を突き出した。
「がっ……」
 なすすべも無く吹っ飛ぶルシード。動きに合わされたため、先程見せた浮身でダメージを逃す事も出来なかった。
 ――寸打。相手と密着した状態で拳を押し付け、相手の動きに合わせて打撃を放つ、チャイルドマン(誰だよ、それ)の暗殺術の中でも最も難しい奥義の一つだ。それ故に、拳を当てられた時点で、その回避はほぼ不可能となる。
 ルシードは更にすかさず追い縋ってくるビセットの踵をなんとか避けて、そのまま床を転がって距離をとった。そして、自分がやや劣勢であるにも関わらず、不適な笑みを浮かべる。
「確かに素手での戦闘能力ではお前の方が上だ。だが忘れたのか?俺には、まだこれがあると言うことをっ!」
「…しまった!?」
 ビセットはルシードの言葉からその狙いに気付き、そうはさせじとルシードに迫る。だが、ルシードのほうが早かった。
 手を頭上に掲げ、ルシードは吼えた。
「魔剣よ、来ぉーーーーーーーいっ!!」

 ドカァァァァァァンッ!!

 次の瞬間には、爆発の煙と共に掲げた手の内に一振りのソードが現れた。それを突進してくるビセットに向かってそのまま振り下ろす。
 ゴウッ!!!
「うわっ!」
 咄嗟に横に転がって避けたビセットのわきをすり抜けて、灼熱の火柱が通り過ぎる。
 それを驚愕の面持ちで見詰めていたビセットに、ルシードは高々と言い放った。
「これで、また形勢逆転だな」
「炎の魔剣…」
 ビセットが呟く。炎の魔剣…それは、ルシードの呼び声に応じていつでも現れ、その刀身に炎を秘めると言う、伝説の剣だ。彼が戦闘シーンでどこからか武器を取り出していたのはこう言う事情があったのか!(嘘です)
「剣を使った接近戦では俺の方が上だっ!」
「ちぃっ!」
 ルシードから立て続けに送られる斬撃を、横に転がってなんとか避けるビセット。しかし、圧倒的なリーチの差と、ルシードの強烈な斬撃の前に瞬く間に窮地に追い込まれてしまう。
「もらった!」
「うわっ!」
 一瞬の隙を突いたルシードの攻撃を避け損ねて、ビセットは床に尻餅を突いた。正に絶体絶命だ。
「…あの世で、衛を侮辱した事を深く詫びるんだな」
 そして、ルシードは悠然とビセットを見下ろし、剣を振り上げた。
(くっ…もう、駄目なのか?)
 心中で呟いて、目を閉じるビセット。しかし、諦めかけた彼の脳裏に一つの言葉が浮かんできた。
『死中に活ですよ。ビセット――』
(――先生ッ!)
 通信教育で空手を習得したビセットに先生がいるのか?と言う疑問はまたまた無視。
「これで…終わりだっ!!」
 言葉と共にルシードが剣を振り下ろし――
 刹那、ビセットはカッと目を見開いて、懐から取り出した何かでルシードの斬撃を受け止めた。
 何か……それは、ただのプラスチック製の紐だった。
「ば、馬鹿なっ!鋼鉄すらも断ち切る炎の魔剣が、そのようなプラスチック製の紐で止められただと!?」
「…もっとよく見るんだな」
 ビセットの言葉に、ルシードはそれを紐をまじまじと見詰め…その先に小さな人形が付いている事に気がついた。
「ま、まさかそれは…四葉携帯ストラップッ!?」
「そうだっ!この携帯ストラップは、言わばオレと四葉の魂の絆!どんな武器をもってしても、それを断ち切ることなどできないっ!」
「ちいっ!!」
 悔しそうに歯噛みするルシードに、ビセットはもう一度告げた。
「…この四葉携帯ストラップの紐と、お前の剣が何を描いているか、よく見るがいい」
「これは……十字架!?」
「そうっ!それがお前に最期を告げる死の十字架だ!
 喰らえっ!オレと四葉の魂の絆を―――グランドクロスッ!」
「――――――ッ!!」
 激しい光の奔流が、ルシードの剣とビセットの四葉携帯ストラップ(笑)が作る十字架から放たれて、ルシードを飲み込んだ。
「はぁはぁはぁ…殺った、のか?」
 それを呆然と眺めるビセットの手の内で、四葉携帯ストラップがぼろぼろに崩れる。
「…許してくれ。だけど、ルシードを倒すには、こうするしか他に手が無かったんだ」
 砂塵となった四葉携帯ストラップを握り締め、俯いて悔しそうに呟くビセット。その固く閉ざされたまぶたの下から、僅かに光るものが見えた。
「……その心意気、敵ながら天晴れ」
 が、聞こえてきた言葉にはっと顔を上げる。
 徐々に収まってきた光の奔流――その向こうに、ルシードが両手を組んで前に突き出した姿で立ち尽くしていた。さすがに無傷とはいかなかったのか、体中のそこかしこから血を流している。
「そ、そんな……オレの、魂を懸けた攻撃ですら、奴には通用しなかったと言うのか?」
「いや、違う」
 絶望にうめくビセットに、ルシードは頭を振って両手で構えていたものを見せた。
「そ、それは…アニ○イトで売られている衛ラミカード!!」
 ア、ア○メイトって…?(汗)
「衛萌えの証にと、常に左胸の内ポケットに隠し持っていたものだ」
 愕然とするビセット。…どうーでもいいが、そんなもの常に持ち歩いてるなよ。
「…そ、そんな貴重なものを…お前は…?」
「ああ…お前が魂を懸けた以上、俺もそれと同等の犠牲を払わなければ、到底無事では済むまい」
 言葉と同時に、ルシードの構えていた衛ラミカードが砂のように崩れた。
「…さらば、衛ラミカード。お前の犠牲は、決して無駄にしない」
 静かに言うルシード。しかし、その瞳にうっすらと浮かんでいるものは…悔恨の涙。
 そんなルシードを見て、ビセットはポツリと呟く。
「…お前とは、生れ落ちる場所が違っていたら、親友になれたかもしれないな」
 て言うか、お前ら親友云々以前に同僚だろ?
「そうかもしれないな。もし、俺とお前が同じ妹萌えであったのなら…あるいは…」
 ルシードも同じように呟き返す。――だが、
「だが、俺が衛萌えの『あにぃ(はーと)』であり、お前が四葉萌えの『兄チャマ(はぁと)』である以上、この戦いは逃れ得ぬ運命にあったのだ!」
「ああっ!オレは戦う!四葉のために!!」
 再び睨み合って対峙する。ルシードはグランドクロスの一撃で魔剣を失った上にいくつもの傷を負い、ビセットの方もかなりの体力と魔力を消耗している。一見、ルシードの方が不利そうだが、実力差を考えるとこれで五分五分だろう。
 そして、先程までは二人の戦いのあまりの迫力に呑まれて黙っていたメルフィ達だったが、一旦区切れたためようやく口を開く余裕が生まれた。
「いつもの魔物の戦いよりも数百倍は真面目に戦ってるわね…」
 バーシアがやれやれと呆れたように言う。
「衛とか四葉とか、いったい何のことなのよぉーーーーーーーっ!?」
 頭を強く振りながら、ヒステリックに叫ぶメルフィ。今回の騒動は既に彼女の理解の…いや、常識の範疇を大きく上回っていた。
 そんなメルフィ達を尻目に、今もルシードとビセットは派手に魔法を撃ち合いながら戦っている。
「衛が朝のジョギングに『あにぃ』を誘ったりするのは、大好きな『あにぃ』と少しでも一緒にいたい思い同時に、大好きな『あにぃ』にいつまでも健康でいて貰いたいという気持ちの表れなんだ!その健気な気持ちになぜ萌えてやらない!?」
「四葉がしていることは確かに探偵ごっこかもしれない…でも、あれは大好きな『兄チャマ』の事をもっとよく知りたいから、探偵のように『兄チャマ』のことを『チェキ』してるんだよ!そのいじらしい気持ちがどうしてルシードには分からないんだ!」
「…なんだか、低次元と言うか、理解できない次元と言うか、決して理解したくない次元の言い争いね(汗)」
 ルシードとビセットの言葉を聞いて、そんな呟きを漏らすバーシア。
 その時、バーシアと一緒に来ていたのにも関わらず、今まで一回も出番の無かったフローネが、何かを決意したように、はっきりと言った。
「…私が、二人を止めてみます」
「待て。お前では無理だ」
 ゼファーは、フローネがしようとしている事に気がついて、それを止めた。
「そうかもしれません…でも、やってみる価値はあると思うんです」
 真剣な表情で、フローネ。その決心は固く、決して揺るぎそうに無いように見えた。
「…分かった」
「ちょっ、ちょっとぉ!もしかして危険なことじゃないでしょうね?」
 二人のやり取りからそう感じたのか、バーシアが慌てて口を挟む。ちなみに、メルフィはと言うと、先ほどヒスを起こしてからずっと放心状態だ。…真面目すぎると言うのも考え物である(笑)。
「心配要りません、バーシアさん。そんなたいしたことする訳じゃないですから」
 フローネは一度振り返って小さく微笑むと、訓練室(すでに忘れられているだろうが、今ルシードとビセットが戦っている場所だ)に向かって一歩進み出た。
 そして、一度大きく深呼吸して、広い訓練室全体に響き渡るほどの良く通る声で叫ぶ。
「お兄様、止めてーーーーーっ!!」
「「お前はタイヤキでも食ってろっっ!」」
 声を合わせてすかさず言い返すルシードとビセット。
「うぐぅ…」
 どこかで聞いたことがあるような言葉を呟きながら、フローネはすごすごと引き下がった。
「…やっぱり、声優が同じなだけじゃ駄目みたいね」
 バーシアが呟く。…と言うか、なぜ知ってる?
「いや、もしルシード達が咲耶萌えだったのなら、フローネでも止められただろう。もしくは、フローネの声優が小林由○子か半○友恵だったのなら、あるいは…」
 …ゼファーまで。いや、彼ならむしろ不思議は無いが。
「いいんです。どうせ私はタイヤキでも食べていればいいんですから。最近PS2版も発売されましたし。クスン」
 何気にヤバイ発言をしながら、堀江由…もとい、フローネはやおら膝を抱えて座り込んで、人差し指で床に『の』の字を書き始める。
 とりあえず、いじけているフローネを無視…もとい、そっとしておいてあげる事にして、ゼファーとバーシアがルシード達に視線を戻すと、彼らは先程のフローネの介入などまるで無かったかのように、今も死闘を繰り広げていた。
「なぜだっ!?なぜっ、衛の良さが理解できないんだっ!?同じ妹属性を持っている(爆)ビセットなら分かるはずだっ!」
「ルシードこそ、なんで四葉に萌えないんだよぉっ!?」
 すでにそれぞれの萌えを称えるネタも付き、ただ単に主張する言葉のみが虚しく戦場…もとい、訓練場に響き渡っている。
 しかし、それでも両者の攻撃はやむ事を知らず、あたりに爆発と破壊を撒き散らしている。
「…どうやら、俺が止めるしかないようだな」
 そして、ついにゼファーがその重い腰を上げた。それを訊いたバーシアが、真剣な顔でゼファーに問う。
「…止められるの、あなたに?あの二人の戦いを…」
「止めて見せるさ」
 そう言ってニヒルな笑みを残し、ゼファーは訓練室へ入っていった。ちなみに、今の二人のやり取りに元ネタは無いです。
「止めるんだ、二人とも」
 決して大きくは無いが、しかし、よく通る声。その声は、ルシードとビセットの二人の動きを止めるに十分足る物だった。
「「なんだ?」」
 声を重ねて同時に振り返るルシードとビセット。何気に息ピッタリである。
 ゼファーは先程のように大きくは無いがよく通る、聞く者の耳を決して素通りさせない声で、言った。
「お前たちは一つ、大きな勘違いをしている」
「「?」」
 二人はゼファーの言葉の意味が分からずに、怪訝な顔をする。そんな二人に対し、ゼファーはきっぱりと言った。
「確かに、衛も四葉も、十分萌える妹だろう。それは認めてもいい。…だが、一番萌える妹は――千影だ」
「「はぁ?」」
 ルシードとビセットが間抜けな声を出して聞き返す。ちなみに、それを聞いていたバーシアは思いっきりこけていた。
「ブルータス、お前もか?」
 こけた時に打った背中をさすりながら、そんなことを呟くバーシア。さり気にネタを披露している所はさすがだ。
 そして、ルシードとビセットはと言うと、一度顔を見合わせた後、同時に吹きだした。
「わはははははははっ、よりによって千影だって?」
「ぎゃはははははっ、ゼファーって、たまにとんでもないギャグかますよなー」
 可笑しくてたまらない、と言った様子で腹を抱えて大笑いする二人。先程までの殺気などとうに霧散していた。
「何が可笑しい?」
 やや憮然とした声で聞き返すゼファー。
「だって、千影って、そもそも人間じゃねーじゃん。魔族ぅ?一体何なの、それ?って感じ」
「だよな。だいたい、『兄くん』ってなんだ?ぜってーそんな風に呼ぶ奴なんかいねぇっつーの」
「黒魔術とかやってそうだし…あっ、実際やってるのか」
「イベントも夢落ちっぽくて分かりにくいし」
 好き放題に言うルシードとビセット。彼らは気付いていない。ゼファーの表情が段々凶悪な物へと変化しつつあることに。
「…お前たちは、千影の良さを知らないだけだ」
 何とか、感情を押し殺した声を搾り出すゼファー。しかし、その声には隠し切れないほどの怒りが滲んでいる。
「そうか?だとしたら、あいつが何考えてるのか良くわからん奴なのがいけないんだろ?」
「そうそう。落ち着いた雰囲気って言えば聞こえはいいけど、なんか暗いし」
「もう影を持つキャラクターの流行なんて去りつつあるのに、時代錯誤も甚だしいな」
 ブチィッ!
 今、ゼファーの中で何かが確実に切れる音がした。ゼファーの体からどす黒い妖気が膨れ上がる。
「「なっ!!」」
 その時になって、ようやくルシードとビセットの二人はゼファーの変化に気がついた。が、時既に遅し。
「お前たちは、今、決してやってはならない事をした」
 凄まじいまでの殺意を帯びた魔力を放ちながら、ゼファーがゆっくりと二人に近づいていく。足を怪我をして現役を退いたとは言え、元第四捜査室室長の名は伊達ではなかった。
 その証拠に、ルシードとビセットの二人はすっかりゼファーの圧倒的な魔力に気おされ、萎縮してしまっている。
「…千影を侮辱したこと、覚悟はできているな」
 その声を聞いてルシードは思う。こいつとはそこそこ長い付き合いになるが、かつてこれ程までに殺意に満ちた言葉を聞いたことがあっただろうか?と。
 ビセットは思う。このままではヤバイ。何がとは言えないが、とにかくヤバイ。今、俺たちは決して起こしてはならない凶悪な虎の尻尾を踏んでしまったのだ。と。
 そして、その様子を外から見ていたバーシアは思う。もー付き合ってらんない。と。
「ま、待てよ、ゼファー。あれは軽い冗談で…」
「そうそう、ジョークだよ。あんなの」
 必死で言い訳をする二人の言葉に耳を貸さず、ゼファーは先ずバーシアに向かって言った。
「…バーシア、今から多少騒がしくなるから、訓練室のドアを閉めてくれ」
「わ、分かったわ」
「決して勝手に開けるな。そうなったらどうなるか、俺にも保障はできん」
「き、肝に命じておく」
 そして、ゼファーはルシード達に向き直り…笑った。見る者の背筋を凍り付かせるような、凄惨な笑みで。
「今からお前たちに、千影の良さをたっぷりと分からせてやる。…その体でな」
「「ひぃっ!」」
 その悲鳴を最期に、バーシアはバタンッ!と力いっぱいドアを閉めた。
 そして再び思う。神様に頼まれたって、このドアだけは絶対に開けてやんない。と。
 それから間もなくして、事務所を揺るがさんほどの断末魔の叫びが聞こえてきたが、バーシアは聞こえない振りをした。
 何気なく周りを見回すと、放心したように胡乱なメルフィと、未だに床に『の』の字を書いていじけているフローネの姿が目に付いた。
 ティセとルーティの二人は食料の買出しに行っていた事を思い出す。アタシも適当に理由つけて付いて行くんだった、などと今更後悔してもどうにもならない事は分かっている。
 もう一度、メルフィとフローネに目を向けて、バーシアは再三思う。アタシも、現実逃避できれば楽だったんだけどなー。と。
 そして、バーシアが出した結論は、
「庭でタバコでも吸ってよ」
 時折聞こえてくる悲鳴をBGMに、バーシアは庭で一人寂しくタバコをふかしていた。



 幸運にも、と言うべきだろう。ルーティ達が事務所に帰って来た頃には、既に訓練室の悲鳴は止んでいた。
「あれ、バーシア?こんなところでどうしたの?」
 庭でタバコを吸っているバーシアに気付いたルーティが訊ねる。
「ん?ああ、ちょっとね?」
「またサボリ?いい加減にしておかないとルシードも怒るよ」
「バーシアさん、ご主人さまを怒らせたら、駄目ですよぉ」
 バーシアは暢気そうな二人に、羨ましそうな視線を向けて、言った。
「今日に限っては、それもないから安心して」
「「?」」
 その言葉に、二人は不思議そうに顔を見合わせる。
 とりあえず、バーシアを置いて事務所に入ると、放心したように立ち尽くしているメルフィと、床に座り込んで『の』の字を書いているフローネの姿が視界に入った。
「はやぁ?二人とも、どうしたんでしょうかぁ?」
「さ、さぁ、そっとしておいてあげなよ」
 二人の尋常でない様子からよからぬものを感じ、そう言うルーティ。懸命な判断だ。そこへ、訓練室のドアが開いて、ゼファーが姿を現した。なんだか、妙に清々しいと言うか、晴れやかな顔をしている。例えるなら、何か大きな仕事をやり終えた満足感に満ちたような…
 ルーティは今だかつて、これ程までに晴れやかなゼファーの顔を見た事が無かった。
「二人とも、今帰ってきたのか?」
「あ、うん。丁度帰ってきたところ」
「はい、お砂糖もお塩もちゃんと買いましたし、忘れ物は無いですぅ」
「そうか、ご苦労だったな」
 ゼファーはティセに労いの言葉をかけると、そのまま食堂を通り過ぎて自分の部屋のある廊下に出て行った。
(…なんか、今のゼファー、妙に機嫌よさそうだったよね?何かあったのかな?)
 ルーティは先ほどのゼファー様子が少し気になって、何とはなしにゼファーの出てきた訓練室のドアを開けて、室内を覗き込んだ。
 そこは、一言で言うなら、荒廃していた。
 窓は全て砕け散っていて、床にはところどころクレーターができており、トレーニングに使うバーベルやダミー人形がそこら中に何かに吹き飛ばされたかのように散らかっている。防御訓練に使う巨大なダミー人形の上半身が吹き飛ばされているのが、なんとも生々しく惨劇の様子を伝えていた。
(な、なんで外から見たとき気付かなかったんだろう……じゃなくてっ!何なの?この有様…)
 ルーティは部屋をぐるりと見渡し…その中央くらいでへたり込むように座っているルシードとビセットの二人を見つけた。
 二人とも焦点の合っていない空ろな瞳で虚空を眺めており、その口からはうわ言の様に何事かを呟いている。
「あはははははは…千影サイコー」
「千影萌えー」
 バタン
 二人の呟きが聞こえてくるのと同時に、ルーティはドアを閉めた。
(………見なかった事にしよ)
 懸命な判断である。



 かくして、訓練室をほぼ全壊にまで追い込んだ激しくも情けない戦いは終わりを告げた。
 魔法は無断使用であったのだが、事務所の人間の誰もがこの件については触れたがらなかったため、結局この件は不問となった。
 ルシードとビセットの二人は、あの後思いの他早く忘我状態から復活したが、本当に千影萌えになったかどうかは定かではない(笑)


お終い






後書き
どうも、KINTAです。
シスプリ購入記念に思いっきり偏見と先入観を込めてSSを書いてみました。
て言うか、悠久のキャラを使う理由は無いですね、コレ(笑)
え〜と、四葉、衛、千影ファンの方、これは冗談なんで笑って見逃してやってください。 それでは。

 

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