183.5話 さようなら西山 勘九郎


 

 

ガラリ! と中華料理鬼丸飯店の扉が西山勘九郎の手によって勢い良く開かれた。

 

「鬼丸美輝! 今日も俺の挑戦を受けてもらうニャ!!」

 

そんな物騒な第一声に対し

「あっ、おにいちゃん! いらっしゃいませ」

 

頬を薄く染めたポニーテールの少女、鬼丸飯店看板娘、鬼丸美輝が可憐な笑顔で答えた。

 

ガシャン!!

 

 

・・・と、けたたましい音をたてて西山勘九郎は自身で閉じたばかりの扉に頭から突っ込んで血に塗れた。

 

10年間敗北し続けた勘九郎、無残な敗北の歴史でも物理的ダメージゼロで血塗れになりつつ

 

ダウンしたのは初めてであった。

 

「ってそんな解説余計なお世話ニャ! どういう嫌がらせだ鬼丸美輝!!」

 

頭から大量の血を噴出しつつ叫ぶ勘九郎。

 

「きゃああ! 頭から大量の血がっ! 大丈夫ですかおにいちゃん」

 

「ゴフッ!」

 

怖気で血を吐く勘九郎。

 

「そ、それをやめ・・・」

 

 吐血しながらも必死で何かを訴えようとした勘九郎の頭を抱きとめ、美輝は必死に介抱した。

 

「しっかりしてくださいおにいちゃん!」

 

「ゲフッ!」

 

「いやあっ! おにいちゃんしっかりして」

 

「ウゲォッ!!」

 

「死んじゃいや おにいちゃん!!」

 

「・・・」

 

ついに泡を吹いて白目を向く勘九郎。

 

水揚された魚のようにピクピクと痙攣する姿が痛々しい。

 

「・・・もう勘弁してやったらどうだい美輝」

 

 まるで強烈な二日酔いになっているような表情で鬼丸飯店店主、鬼丸真紀子は答えた。

 

「お母様どうしましょう? おにいちゃんが・・・」

 

「きゅ、救急車を・・・」

 

「それは世間体が悪いねェ・・・いつもみたいに路地裏にでも放置しておきなよ」

 

「お母様なんて酷い! もういいです私が看病します」

 

 美輝は信じられない物を見るような目で母、真紀子を見つめた後、

 

「よっこいしょ」と可愛らしい掛け声と共に気絶した勘九郎を肩に担いで

 

 2階に上がっていった。

 

「・・・まああんな不気味な美輝がいるよりマシかね」

 

 

 

「おーす、おかみさん頼まれたネギ持ってきた・・・ってうわ! なんですかこの血溜まり?」

 

 鬼丸飯店の隣で八百屋を経営している太田が血塗れの玄関と破壊された扉を見て声を上げた。

 

「ああ、あきちゃん悪いね、いつものデカイのが来て扉に頭突っ込んでたんだよ。すぐ片すよ」

 

「・・・致死量越えてますよこの量」

 

「美輝がある意味トドメ刺してたからね、今上で看病してるよ」

 

「・・・は!?」

 

 信じられない発言を聞き思わず聞き返す太田。

 

「だから美輝が上であのデカイのを看病してるんだよ」

 

「はああ?・・・あっ!?」

 

 青ざめたおかみさんの表情、致死量越えそうな血溜り、看病というありえない展開。

 

太田は恐るべき想像をした。

 

「・・・バラして埋める気ですか?」

 

 

・・・ありえる。

 

 

「何言ってんだい・・・また酔ってんだよアレは」

 

「あ、あー・・・でも何でそれで勘九郎が出血したんですか?」

 

「『おにいちゃん』とか言われて血吐いてたよ、なんだったんだいアレ?」

 

「『おにいちゃん』!? あれか!!」

 

「何か知ってるのかい?」

 

「先日美輝ちゃんが子供の頃よく遊んでくれた兄の様に慕っていた人が勘九郎と

 

 判明しまして、・・・何だ美輝ちゃん内心じゃ結構嬉しかったのかな?」

 

「へえ、ん? なんだい、まさかそれって?」

「・・・自分も先日その想像に至って寒気を感じました」

 

 見慣れぬ天井。・・・これはまだいいニャ。

 

記憶にないが布団で眠っていた自分。・・・『邪魔』という理由で鬼丸美輝に気絶させられた後

 

土中に生き埋めにされた事に比べれば許容範囲ニャ。

 

そう、問題はそんな事ではない。

 

 

 自身にかけられている布団に頭を乗せた状態で安らかな寝息をたてている鬼丸美輝。

 

 

これが問題だった。

 

「・・・俺が動いて鬼丸美輝を起こしたら殺されるとゆー罰ゲームか?」

 

あまりにも理不尽で過酷な罰ゲームが最もあり得る可能性として勘九郎の脳裏に浮かんだ。

 

 

・・・そして青ざめた。

 

 

「じょ、冗談じゃないニャ! ここは脱出して再起をはかるしかない!」

 

 例えるなら、目が覚めたらライオンの檻に放り込まれていて、しかし運よく眠っているライオンに

 

気付かれる事無く檻から脱出する。

 

そんな命懸けのゲームに勘九郎は挑まざるおえなかった。

 

「頭を乗せられている左半身は動かす事は不可能ニャ。ならば」

 

ズボッっと布団から右腕を抜き出す。

 

 そして右腕の力だけで布団から這い出ようと力を入れて・・・鬼丸美輝込で布団毎前に移動した。

 

「これは駄目ニャ。いかん脱出経路はある筈、考えろ」

 

 鬼丸美輝は俺の左半身をガッチリと押さえている。自由になるのは右腕のみ。

 

 

右腕で殴り飛ばして脱出?

 

 

「殺されるより酷い目にあわされそうだニャ」

 

失敗する事前提なのは気付いていないらしい。

 

「そうだ! 右腕で鬼丸美輝の頭をゆっくりと持ち上げてその隙に布団から脱出! そして持ち上げた頭を

 

 元の位置に戻してここから立ち去れば俺の勝ちだ」

 

 いつの間にか気付かれる事無くこの部屋から脱出する事が勝利条件となっていたがその事に本人は気付い

 

ていないらしい。

 

勘九郎は布団に頭を落として眠っている美輝のおでこを右の手のひらでゆっくりと持ち上げた。

 

「ぬ、なかなか難しい体勢だが・・・(スヤスヤと寝息をたてている美輝の顔を見て)上手く行きそうだニャ」

 

更に美輝の頭を高く持ち上げる。

 

「今だ!」

 

ガバッと自身の上体を起こした。

 

「ヌッ!?」

 

 

クラリ・・・と立ち眩みを起こす勘九郎。

 

 

「ぐっ、そういえば先程の戦闘(?)で頭を強打していたニャ!」

 

 

 立ち眩みは一瞬、しかしその際右腕の意識が一瞬消えていた。フッと重さが消える右腕。

 

 

手のひらからゆっくりと布団に落ちかかる鬼丸美輝。

 

 

「まずいニャ!!」

 

 

咄嗟に鬼丸美輝の頭を掴み・・・そこなった!!

 

ブチブチ・・・と美輝の上着のボタンが弾け飛び、形の良い胸があらわになる。

 

「あ・・・あ、あああ・・・ッ」

 

 ガクガクと震え青ざめる勘九郎。

 

 頭を掴みそこなった右腕は、よりにもよって美輝の上着襟首を掴み、勘九郎の力と重力の付加に耐え切れ

 

なかった上着のボタンが派手に弾け飛んでしまった。

 

「ん・・・あ? なんで西山が私の布団で寝てるんだ・・・・・・いいいいいいッ!!!!!

 

 目を覚ました美輝は自身の置かれている状況に混乱しつつも勘九郎の腕を振りほどき、

 

あらわになっていた胸元を両手で押さえつつ真っ赤になりながら後ずさった。

 

「き、きさま・・・」

 

真っ赤になりながら勘九郎を睨みつける美輝。全身が小刻みに震えている。

 

「ま、待つニャ! お前はトンでもない誤解をしているニャ!!」

 

美輝は後ろを向くとガラリとタンスを開ける。

 

(む? 服を着替えるつもりか?・・・まだ冷静ニャ、話を聞く余地があるとゆーことだニャ)

 

 そんな勘九郎の淡い期待は振り返った美輝の右腕に光る巨大な斬馬刀(旧オカモチ)によってかき消された。

 

 

ブオン!!・・・と剛刀が唸り、勘九郎が数瞬までいた布団が真っ二つにされ・・・羽毛が宙に舞った。

 

 

「殺す気かッ!?」

 

「殺す?・・・そうだねえ・・・人間どこまで細切れにされたら死ぬのか試すのも一興さね」

 

どす黒い瘴気を発しつつそう呟く美輝。

 

「せめてワケを聞け鬼丸美輝! これはあまりにも理不尽だニャ!!」

 

「ふん、じゃあ遺言ぐらい聞いてやるよ、言ってみな西山」

 

「遺言・・・そもそも何故俺がココに・・・ん?」

 

美輝の言葉にいつもと違う違和感を感じ考え込む勘九郎。

 

「・・・なんだい?」

 

いぶかしげに声をかける美輝。

 

「鬼丸美輝、お前、今?」

 

「あ? 私がなんだってんだい?」

 

(気のせい? いや、さっきも確かに言ったニャ!!)

 

意識せず口元がほころぶ。

 

だが美輝にはニヤリと不適に笑ったように見えた。

 

「・・・!!」

 

ゾッ として身震いする美輝。

 

「・・・いい度胸だ」

 

「ん? いや待つニャ! 違う、今のは違うニャ〜!!!」

 

※拷問シーンは自主規制

 

ボロ雑巾のような姿でゴミ収集場所に放置された状態で西山勘九郎は笑っていた。

 

「勝ったニャ」

 

何が!?

 

「まあとりあえず当初の目的は果たしたニャ。次は・・・今までの分の恨みだよなあ?」

そうは言いつつも晴れやかな顔で空を見上げる勘九郎。

 

「さて・・・」

 

ガサリと左手の下敷きにされていたチラシが目に付きなんとなく手に取る。

 

スーパーテッコツ堂社員募集のチラシ。

 

「決闘はしばらく封印して就職活動するかニャ」

 

拾ったチラシをポケットにしまい、勘九郎は・・・歩けないので這いずりながら前えと進みだした。

 

 

 

 

おしまい


 

あとがき

 

初めて美輝ちゃんが勘九郎の事を西山と呼んだのが最終話において、勘九郎を厨房で鉄球の足枷を繋いがせて

 

奴隷のようにラーメンを作らせている際の「コラ西山! もっとテキパキ動かんか!」とゆー(苦笑)

 

そして無敵看板娘Nにおいてまた名前を忘れられるとゆー(涙)

 

まー勘九郎復活して良かった良かったw 

 

 

つか勘九郎のニャーは美輝ちゃんに苛められている時に

 

美輝『おら、お前は猫だ、ニャーと鳴け!w』

 

勘九郎『誰が鳴くかっ!!(怒)』

 

ドゴッ(ボディをえぐられる音)

 

美輝『何だって?』

 

勘九郎『い、痛い・・・ニャー(涙)』

 

とかそんな陰残なエピソードがあると思ってたニャーw。