「秋深し、となりは何をする人ぞ」とは、誰の句だったか?

何だかシミジミする。


よく聞かれる質問に、「今は何を撮ってるんですか?」「次回作は?」というのがある。

映画の完成時に取材しに来てくれる新聞記者の方々からも、インタビューの最後に聞かれることが多い。

「誕生したばかりの子ども(映画)が可愛い」という話をしたすぐ後に、

「次は?」と聞かれたって答える気になるか、とムッとしながら「秘密です」と言うと、

大体ちょっと不満そうに、うなずき笑いをする。


「秘密」は大事だと思う。

「秘密と嘘と言いわけはイケマセン!」とガキの頃から親や先生たちに言われ続けて、

当然のようにそう思っている人も多いかもしれないが、

必ずしもそんなことはないと私は思っている。

そりゃあ、秘密も嘘も言いわけもしないで生きていければいいけど、

「秘密や嘘や言いわけ」という杖がないと、

歩いて渡り切れないのが人生ってもんじゃないのかなぁ・・・。

私は「スミマセン、スミマセン・・・」と

ただただ頭を下げながら映画を創らせてもらって来たような奴だから、

映画創りにおいても「秘密と嘘と言いわけ」は基本、肯定したいのだ。


「本当」に見てもらいたいものが、観客の心のなかに見えてくるように、

想像力をおおいにかりたてるためにこそ、

ときには映像を見せず、多くを語り過ぎず、“秘密”を大切にすることは、映画表現のヒミツだと思う。

「本当」に思ってほしいこと、考えてもらいたいことを観客が自分で探り当てるように、

そのものズバリの現実ではない、“嘘(イメージ)”の映像や音を駆使することも、映画創りで欠かせない。


「本当」のことを映像だけで伝えるのが難しいシーンには言葉を当てがい、

まるで撮影できなかったことの“言いわけ”のように、

ナレーションや字幕スーパーを使って観客にメッセージを届けようともする。

「ドキュメンタリーはただ目の前にあるものを撮ってつなぎ合わせて観せるだけだから楽なもんだ」と

思ってる人もいるみたいだけど、けっこう大変なんだから。

「秘密も嘘も言いわけも」総動員して創り込んでいるのだ。


もっといえば、そもそも「本当」というのがどおいうものかが、

ホントに自分がわかっているのかが、私の場合、疑わしい。

わかっていないから「本当」をつかみたいと思って、映画を創っているのだ。

創り手が「本当」を知ってて、そこに誘導するために映画があるわけではなく、

観客一人ひとりが、自分の「本当」にたどり着くことこそが、映画だと思うから。


毎回、そんな具合に悪戦苦闘したあげくに、一本の映画が完成するのだ。

そんなドキュメンタリー映画の傑作が二本、同時に公開・上映される。

前作『妻の病−レビー小体型認知症−』と新作『ゆめのほとり−認知症グループホーム 福寿荘−』だ。

観に来てほしい。

両作とも映画に登場する主人公たち、被写体が、この上なくステキだから。

もしも私の映画に取り得があるとすれば、

写っている一人ひとりが上等だということだ。

こればっかりは秘密にしないし嘘じゃない。もちろん言いわけであるわけがない。

「伊勢さんの映画は登場人物で持ってますよね」と、ずっと言われて来た。

今回も、そう言われている。それでいい。


新宿K’s cinema(ケイズシネマ)で11月21日(土)朝10時から(『妻の病』)と朝11時40分から(『ゆめのほとり』)、

二週間にわたって上映してくれる。

その後、大阪、名古屋、横浜、山形、広島、静岡、浜松、金沢、富山・・・のミニシアターで、二本立て上映の予定だ。

劇場上映に併行して全国各地での自主上映も積極的に取り組むつもりだ。よろしく。


(問合せ:いせフィルム TEL.03-3406-9455)









 

秘密と嘘と言いわけ

伊勢 真一