春だなぁ・・・と、ボンヤリ編集室の窓外を眺めていたら、
もう初夏と言ってもおかしくない陽気が続いている。
半袖で街を歩くような季節だ。
新作『シバ –縄文犬のゆめ-』の東京・新宿ケイズシネマでの封切り上映は、
満員御礼も出るほどの盛況だった。珍しい。
三週間の上映期間中、毎日顔を出し、
「よろしくお願いします!」と頭を下げ続けた成果か?
何だか選挙運動みたいで恥ずかしいけど、
これも自主製作で映画を創り、観てもらうカントクの大切な仕事なのだ。
カッコつけたって、しょうがない・・・。
モーニングショー(午前10時半から)だったので、
朝の上映を終えると、その足で西日暮里にある編集室に向かい、
次なる作品『妻の病 –レビー小体型認知症-』の編集に取り組む日々。
あぁ、絶好の編集日和だ、と春爛漫の光と風を恨めしく思いながら、
ただただ編集機のモニターと睨めっこを続けた。
自分では、作品創りのペースがとても遅い、と思っているのに、
時々「伊勢さんは、凄いペースで創り続けてますね・・・」と言われ、戸惑う。
そんな時には、「ブレーキが壊れちゃったんだ」と言うことにしている。
いつ頃からか忘れたけど、ブレーキだけでなく、色々ブッ壊れちまったことは確かだ。
創作意欲にかられて「創りたい」というよりも、
「創らないわけにいかないんだ・・・」というのが正直なところかな?
「創らない」と病気になってしまうような「病気」なのだ。
撮影してる時も、編集してる時も、
ハーハー、ゼーゼー、息を吐き出しながら山登りをしている感じだ。
全然平ちゃらで映画を創っているように思ってもらいたいから、
「楽勝、楽勝!」なんてそぶりしてるけどさ。
完成したら嬉しく楽しいことばかりかといえば、そんなこともない。
上映の場で、前に出てお喋りするのは苦手だし、けっこう作品の評価も気にする。
「みんなにデクノボウと呼ばれ 誉められもせず 苦にもされず・・・」なんて、
雨ニモ負ケズのような心境には到底なれない。
でも、宮沢賢治だって最後には「そおいう人に私はなりたい」って言ってるから、
そんなふうにはなかなか成れない、ということだ。
次なる作品『妻の病』の編集は、今、七合目半くらいかな・・・?
もうちょい踏ん張れば、八合目、九合目、そして頂上。
この頃になると、映画の神様が雲の隙間から降りて来てくれる筈なんだけど。
それを信じて、どんなに投げ出したくなっても、いつもグッと堪えて来た。
映画の神様が、ほんの一瞬、優しく微笑む時、その時を逃さず、耳を澄ませていると、
私だけに囁くように、映画がどう成りたがっているか、何を物語りたがっているのかを、
そっと教えてくれる。
その通り素直に編集し、仕上げていくと、「傑作」というやつが出来るのだ。
「大切なものは目に見えない・・・」と言ったのは、星の王子さまだったか?
「大切なことはワカラナイ・・・ほとんどワカラナイ」と私は思う。
ドキュメンタリー映画の監督がそんなことでは困る、と言われるかもしれないが、
本当にワカラナイ。
特に自分のことが一番よくワカラナイ。
『妻の病』の中で、主人公の石本浩市さんが、レビー小体型認知症の妻・弥生さんに、
「夢のようだね・・・」と語りかけ、弥生さんは、小さく頷く。
《Life is like a Dream, isn’t it ? 》
いせフィルムのスタッフ・遠藤くんがイメージしてくれた仮チラシには、
英語のキャッチフレーズが添えてある。とても気に入っている。
ワカラナイ ワカラナイと、いつも言いつのっているカントクが、
ワカラナイままに創った最新作『妻の病 –レビー小体型認知症-』、ぜひ観に来てほしい。
で、ワカラナイことをそのままに、共感してほしい。
※7月5日(土)日比谷図書文化館 地下一階ホールにて、
午後1時から 映画『妻の病 –レビー小体型認知症-』完成上映会。
(午前11時からは、『妻の病』の主人公・石本浩市さんも出演している『風のかたち ドクター編』の上映)