新作『妻の病 −レビー小体型認知症−』の上映が、いよいよ始まった。

反応はスコブルいい。

私の作品としては珍しくメディアからの問合せも多い。

認知症に寄せる社会的関心が強い、ということだろう。


10月25日(土)からの伊勢 進富座での先行上映、

11月2日(土)の高知・南国市での完成上映会、共に大入りだった。

主人公の石本浩市さんが、そのことを喜んでくれたのが何より嬉しかった。


『妻の病』が映画として共感を呼べるものになったのは、

石本さんと弥生さんの夫妻が、自らの病のことを包み隠さず、

カメラの前にさらけ出してくれたからだ。

「レビー小体型認知症」と「うつ病」のことを……。

なかなか出来ることではないと思う。


石本さんは同じ小児科医の細谷亮太氏、

月本一郎氏らと共に企画した映画『風のかたち』製作の時、

小児がんの子どもたちに

「伊勢さんたちの撮影に協力して自分のコトバで自分の病気のことを話すことは、

同じ病気で悩む仲間たちを励ますことになるんだ」と説得してくれたらしい。

「子どもたちにカメラの前に立ってほしいと言ったからには、

妻や自分自身の病気のことも隠さず話したい。

そうすることで、次に続く同じ病気に苦しむ人を、

少しでも楽にしてあげたいと思った」と彼は言う。

「読んでください。」と

弥生さん発症前後からの自分の日記まで私に託してくれた。


ドキュメンタリーは撮るというよりも、撮らせてもらうナリワイだ。

別に卑下して言うわけでなく、そおいうものなのだとつくづく思う。


完成後の今も、石本さん夫妻のそれぞれの病との厳しい闘いは続いている。

「弥生も私も、今はシアワセです」と映画の中で語ってくれた石本さんにとって、

『妻の病』は“ひとときのユートピア”なのかもしれない。

石本さん夫妻に限らず、

多くの悪戦苦闘の日々を生きている一人ひとりにとっての、

わずかな安らぎ……。

そおいうドキュメンタリー映画があっても、いいじゃないか。

私は“ひとときのユートピア”をこそ描きたい。

「映画」と呼んでみたい。


自主製作の処女作・映画『奈緒ちゃん』以来、私の作品はずっと

「こんな甘っちょろいのはドキュメンタリーではない。こんな映画では世の中は変らない」と

言われ続けて来たような気がする。

何を言われてもけっこう。

世の中は変らないかもしれないが、

もしも、たった一人のヒトの心が、ほんのちょっとだけふるえて、

「生きなきゃ」と思えるような映画を創れたら、上出来だ……。文句あるか?


誰に何と言われようと“ひとときのユートピア”としてのドキュメンタリー映画を、

くたばるまで創り続けるのだ。

映画『妻の病 —レビー小体型認知症—』、

足を運んで、心をふるわせてくれたら嬉しい。






※映画『妻の病 —レビー小体型認知症—』劇場上映:

2014年12月20日(土)〜2015年1月9日(金)まで(1月1日は休館)

東京・新宿K’s cinemaにて 毎朝10時半から1回上映

※2015年1月12日(月・祝)11時から

ヒューマンドキュメンタリー映画館 日比谷(日比谷図書文化館 地下1階ホール)にて上映

※全国各地での自主上映を募っています

 

ひとときのユートピア

伊勢 真一