「頼まれたことは出来るだけ断らない…」を仕事上の信条にして、

ドキュメンタリーのナリワイを生きて来た私に、「柴犬」を映画にしてみない?と声をかけて来たのは、小学生の時の同級生だった。

自分が惚れ込み飼っている「柴犬」が、我が作風にマッチすると思ったのでしょうか?

数年前から熱心にプロポーズされていた私が、「やってみるか」と思い立ち、クランクインしたのは、2011年の3月、あの東日本大震災の直後でした。


「柴犬」と言えば、タヌキ顔でCMにも登場して人気者の犬と思われがちですが、

私達の映画の主人公は、キツネ顔・オオカミ顔の世間的には馴染みの薄い、少数派の「柴犬」です。

映画の中心人物の一人、天然記念物 柴犬保存会 会長・照井光夫さんと私は、ほぼ同世代。

ゼロから「柴犬」の世界に導いてくれ、私達スタッフはすっかり、キツネ顔・オオカミ顔「柴犬」ファンになってしまいました。

何が可愛いって…映画を観てもらえれば、その魅力は充分にわかるはずです。


照井さんは、十代後半から「柴犬」の虜になってしまい、今では30頭近い犬と共に

日々を過ごしています。柴犬保存会の創立者である中城龍雄氏の弟子を自認する照井さんは、縄文時代に私達の先祖が狩りの戦友として暮らしを共にしていた日本犬を理想とし、仲間達と「柴犬」をその理想に戻す保存活動を半世紀に渡り、夢中になって取り組んで来ました。

「縄文犬のゆめ」を追って来たのです。


本当は「柴犬」諸君にインタビューして、彼等の中に生きているにちがいない縄文の記憶について

聞きたいことが一杯あったのですが、カメラとマイクを持った怪しい奴等に心を赦すほど、「柴犬」はヤワではないので、照井さんをはじめ愛好者たちに色々聞いて回りました。


誰もが口を揃えて「とにかく、私のことを愛してくれる」「言葉だけでなく、心もワカッテくれる」

「どんな敵とも、勇敢に斗う」「強く、そして優しい」「絶対に裏切らない」と、ベタ褒めだった。

「犬の面倒を見ている、というより、犬が私達を見守ってくれているようだ」とも言っていた。


照井さんが「私達の柴犬は、全く少数派です。でもたとえ少数でも、縄文時代に生きた犬、

日本犬の祖先に近い純粋な柴犬を、私達が守り続けなければ…」と思いの丈を語ってくれた時、

決してメジャーとは言えない、ドキュメンタリーのナリワイを生きて来た私の少数派魂に火がついたのです。


縄文の昔から、私達人間はどれほどの進歩をしたのでしょう…

縄文の記憶を秘める犬達が、じっと私達を見据え「ウ〜…」「ワン!」「ワン!ワン!!」と

吠え続けている。


我等が「柴犬」たちに寄り添い撮影したヒューマンドキュメンタリー

 『シバ 縄文犬のゆめ』


犬たちの記憶に触れ、私たち自身の記憶を呼び覚ます物語に思いを巡らせてもらえたら嬉しい。


「ウ〜…ワン!!」

 

ウ〜…ワン! 

    —映画『シバ 縄文犬のゆめ』完成近し!!—

伊勢 真一