春。

旅回りの一座のように、相撲部屋の力士のように、週末には巡業(自主上映の旅)が続いている。

東北巡業は新緑が見事だった。


福島・飯舘村から宮城・亘理町を巡る

『傍(かたわら)~3月11日からの旅~』の

撮影地を再訪する旅…

その日は11日。

東日本大震災の「月命日」の日だった。

計画的避難区域の飯舘村には、人影がなかった。

田んぼには雑草が生え、タンポポが風に揺れていた。

悲しい光景だった。

映画『傍(かたわら)』の中で、雑草の生えた田んぼに佇み、

飯舘村に暮らしていた友人・小林麻里さんが、

「人間はやっちゃいけないことをやっちゃったと思います。

もう取り返しのつかないことを。

で、いまだにまだやめようとしない…」と、

呟くシーンを想う。


宮城・亘理町の災害臨時放送「FMあおぞら」ではこの日、

「月命日」恒例の、東日本大震災で被災し亡くなられた、

ひとりひとりの名前の読み上げをやっていた。

まだしばらくは、名前の読み上げを続けるつもりだ、と

リーダーの吉田圭さんがマイクに向かって語りかけていた。

私達も、撮影させてもらったお墓で手を合わせる…

墓前には花やお菓子や飲み物がたんと供えてあった。

「忘れないぞって、自分に言い続けることでしょ」

映画の中でサトロがうわずった声で語り、うなずいていたシーンを想う。


恒例の「はなまき映像祭」は、もう12年目になる。

ブドリ舎と呼ばれる小さな掘建て小屋のようなライブスペースに集まり、

ドキュメンタリー映画を観るささやかな「映像祭」だ。

『傍(かたわら)』の東北初上映をここでやってもらった。

人数は少なかったけどね…

ひとりでも多くの人に観てもらいたい、

とも思い、

ひとりだけでも観てもらえたら充分、

とも思い、

誰にも観てもらえなくてもいい、

とも思う。


それじゃあ自己満足だ、創らなければいいのにと言われるかもしれないが、

創らないわけにはいかないのだ…

自分のことは自分が一番よくわからない。


そして山形上映。

敬愛する細谷亮太医師の郷里で、

『風のかたち』『大丈夫。』『傍(かたわら)』を上映してもらう。

故郷に錦を飾る上映会、ということで、地元の方々が大いに気合いを入れてくれて、

前売り券がソールドアウトするほどだった。

よかった、よかった…


私にとって、巡業の何よりの楽しみは、ボンヤリ車窓風景を眺めることかな…

ハラハラするほど見事な新緑に心揺れながら、東北をあっちゃこっちゃ移動した。

色々なことを感じ、考え、想い、時にはヒトリゴトを呟きながら

旅をしている。

春の巡業はまだまだ続く。


旅の空を見上げ、大きく息を吸う…

祈再会。

 

春の巡業

伊勢 真一