スラッグリロード記
Rev98.08.13 画像データ追加
1.はじめに
リロードって何?
リロードとは撃ち終わった空薬莢を利用して再度雷管、火薬、ワッズ、および
弾を詰め再使用することを言います。
ライフルの世界では当たり前に行われているリロードが国内の散弾の世界では
ほとんど行われていません。これは何故か?単純に言ってしまうと日本ではリロ
ードを行う利点がほとんどないからです。
コストは後程詳しく述べますが、クレー射撃のトッラプ・スキートの装弾(7半、
9号)はほぼ1発30円前後の価格です。日本においてこれを下回るリロード
コストは難しいのです。更に、散弾銃射撃のメイン競技である公式トラップ・
スキートの装弾は認定された装弾を使用します。通常練習時と試合の時にまった
く性格の違う弾を使うことは考えられませんからここでもリロードのメリットを
見出せません。
このため散弾のリロードは日本においては一般的ではありません。しかし、米国
などでは各パーツの単価が安く、自分でクレーを放出し(それ用の簡易放出機が
市販されている)練習するなどするため結構盛んに散弾のリロードも行われてい
るようです。
しかし単価の高い弾もある
では、日本ではまったく散弾のリロードはメリットを見出せないのでしょうか?
公式クレー射撃ではなくスラッグによる静的射撃(ランニングボアを含む)はど
うでしょうか?また、狩猟に使用する散弾は?
特にスラッグ弾の単価は高く、ここにリロードの意義を見出せそうです。また、
静的射撃が主な目的になるとクレー射撃とは違い弾の性能がストレートに結果
に現れます。このため、ライフルと同様の精度は望めないもののそれなりに研究
する楽しみも出てきます。
狩猟に用いる散弾ではコスト的には難しいものの、今問題になっている鉛散弾
による生態系への汚染を考えるとスチール、ビスマス等の散弾をリロードする意
義はあるかと思います。個人的には信頼のおけるメーカー製スチール装弾が一刻
も早く国内で発売されることを望みます。また、発売されても高価な場合にはリ
ロードのメリットが生まれるかもしれません。
2.必要器材
それでは、実際にスラッグリロードを始めるためには何を用意すればよいので
しょうか。
(1)リローダー ☆LEE LOAD-ALL II
・空薬莢から使用済み雷管を外し、メタル部のリサイズ。
・雷管装着
・火薬投入
・ワッズおよび弾の挿入
・クリンプ(散弾の口を閉じる方法)
が行えるリロード用機器です。通常クリンプはスタークリンプの6枚、または
8枚です。市販スラッグに多いロールクリンプを行うには別途ロールクリンパ
ーが必要になります。
12G、20G、410等の区別があるので自分の使用する銃に合った
リローダーを用意する必要があります。
(2)雷管
撃針に叩かれ発火するもの。
100発単位で販売されています。
(3)散弾用火薬
ライフル用の火薬ではないので注意。
通常8OZ缶です。
(4)弾頭
スラッグ弾頭の場合、型と鉛を用意して自作する場合も多いのですが、
今回ドイツのBRENNEKE弾頭が入手できたのでこれを使用します。
(5)ワッズ
BRENNEKEには弾頭についてくるので別途購入の必要はありません。それ
以外の弾頭では必要になります。
(6)空薬莢
クレー射撃場でただで拾える射撃用散弾の撃ちがら。多くの種類があるの
でどれが自分の銃と相性が良いか(精度が出るか)を見極めることが大事
です。また安全性にも気を付けたいものです。
詳しくはリロード手順の空薬莢の収集の項を参照してください。
(7)秤 ☆パウダーメジャー用品
火薬の単位は通常グレインなのでグレイン秤が便利です。最低でも0.1gの
精度が必要でしょう。1グラム単位の料理用の秤で代用するのは勧められ
ません。
上皿天秤でも良いのですが普通天秤など持っている人は少ないので用意す
るならデジタルのグレイン秤が操作が簡単かつスピーディーに作業出来き
ます。
※リローダーには一定量の火薬を出す機能がありますが、精度を考えると
個々に火薬の量は計測したいものです。
またLEE LOAD-ALL II では29.5grまでのブッシュしかないので30gr以上
を使用するスラッグリロードには使い勝手が良くありません。
注意 (2)、(3)の雷管と火薬は火薬等譲り受け証を予め貰っておく
ことが必須です。つまり銃砲所持者以外は購入できません。当然購入
先は銃砲火薬店になります。
3.スラッグリロード手順
ここでは、LEE LOAD ALL-II(リローダー) を使用し、BRENNEKE弾頭を使った
リロード手順について説明します。
(1)空薬莢の収集
空薬莢はクレー射撃場に捨ててあるものを拾って来て使用します。
たくさんある薬莢のどれが良いかはそれぞれの主観ですが、一般的な
注意点としては、
・傷や錆のないもの
・変形していないもの
・発射ガスの汚れがひどくないもの
・メタルベースの高いもの
・Win AA のようにリロードベースとして良く使われるもの
等を選びます。個人的には自動銃のエクストラクタの引っ掻き傷も
気になるので2連銃で撃ったもの(射撃場ではほとんど)を選びま
す。クレーを撃つ人なら自分で撃った薬莢を回収してくるのがベタ
ーでしょう。
(2)使用済み雷管の取り外しとメタル部リサイズ ☆ステーション1
これはリローダーの一番左にリサイズ用治具(黒い鉄製リング)を
はめた空薬莢をのせハンドルを操作することにより簡単に出来ます。
(3)雷管装着 ☆ステーション2
治具を着けたまま薬莢を左から2番目に移動し雷管をセットしてハ
ンドルを操作することにより治具が外れ雷管がセットされます。
薬莢によっては雷管の入る穴が大きく新しい雷管が緩い場合があります。
このような薬莢は発射時のガス漏れが考えられますので使用しないよう
にしましょう。雷管の穴を小さくする治具も別途ありますが、緩ければ
使わない方が安全です。
使用雷管例:フェデラル209A
(4)火薬投入
必要量の火薬を計量します。リローダーにはハンドル操作で火薬を定
量薬莢に挿入する機能がありますが、スラッグリロードの場合、正確に
秤で計量すべきと考えます。この時、デジタルのグレイン秤とパウダー
トリックラーがあると便利です。なくても0.1グラム単位で計量できる
秤と薬匙があれば代用出来ます。
ライフルと違って散弾の火薬はダブルチャージの危険性があるので十
分注意してください。また、火薬は散弾専用のものを用意します。
使用火薬例:SR4756
(5)ワッズおよび弾の挿入 ☆ステーション3
火薬の挿入が完了したら薬莢をリローダー中央に移し、ロート上の
パーツの上にプラスチックワッズを置き、ハンドル操作でワッズを薬
莢に挿入します。次に同様にして弾頭を挿入します。
(6)クリンプ ☆ステーション4
拾ってきた薬莢の元のクリンプ形式に合わせて右から2番目の奥(6枚)
または手前(8枚)に薬莢を置いてハンドル操作でクリンプの折り型を
付けます。次に右端に薬莢を移して最終的にクリンプを閉じで出来上
がりです。 ☆ステーション5
4.コスト
スラッグリロードを行うために必要なパーツの値段例(98.7.29調べ)
・雷管 100個1500円 1個15円
・火薬 8oz 10000円 37gr約55円
・弾頭 BRENNEKE Classic 1個105円
・空薬莢 free
計 1個175円
比較 ロットウエルセミマグナム 1個約260円
単純に比較すると1個当たり85円安くなり、初期投資を考えても250個作れば十分
元は取れます。ただし、手間賃等作業時間は自分の楽しみということでコスト換
算していません。
・初期投資
リローダー 8000程度円
秤 1万数千〜数万円
(最低でも0.1g単位。0.1gr単位が望ましい)
※ 弾頭を型から自分でキャストするとより低コストになります。
しかし、BRENNEKEの型は市販されていないので弾頭はフォス
ターまたはレイマンのサボット他になります。
5.精度
これが一番の問題です。リロードの精度としては弾速、グルーピング(集弾率)
があります。
今回はスラッグですので実猟領域である100mの距離で市販装弾並みのグルー
ピングを目標とします。
弾速については弾速計を用いて計測することができますが、弾速計は持っていな
いためグルーピングのみの計測で精度を測ります。
グルーピングは使用する弾、銃との組み合わせでいろいろに変化します。
あくまで私の銃の場合での結果になります。
ケース ミロク(#7.5-24g)、マタレリRC(#7.5-24g)
雷管 フェデラル209A
弾頭 ブレネケ クラシック
火薬 SR4756
クリンプ スタークリンプ
使用銃 BERRETA A301 26inch smooth bore* サンドバッグ委託
ボシュロム 1.75〜4.5倍スコープ
50m (1)ロットウエルセミマグナム 5発グルーピング** 6cm
(2)31gr BRENNEKE Classic 5発グルーピング 5cm
(3)37gr BRENNEKE Classic 5発グルーピング ×cm
100m (1)20cm
(2)20cm
(3)20cm
* 元28インチ半絞り銃身を2インチカット。若干絞りが残っているので
完全な平筒にはなっていません。
**グルーピングはセンターセンターで計測
結果
50m 今回37grは試射していませんのでデータなしです。
市販装弾であるロットウエルと31grともほとんどグルーピング
に差がありません。
BRENNEKEのカタログ上での50mグルーピング値は5cmですか
ら手詰めでもほぼカタログデータ値が出せたと思います。
※50mの標的紙は子供がおもちゃにしてしまったため電子化で
きませんでした。
100m ロットウエル、31gr、37grとも同じ20cmとなりました。
しかし、各弾とも5発の内1発のみ大きく外れている弾痕があり
ます。
☆100m標的(RW+37gr)
☆100m標的(31gr)
皆同じ弾頭、銃、射手ですので何処に原因があるのか?
クリンプの整形が上手く行かなかった場合にずれている感じです
が市販のロットウエルも1発大きく外れるので??です。
ちなみに一番外れている弾痕を除いた4発グルーピングでは
(1)17cm
(2)10cm
(3) 6cm
でした。特に37grは上下1cm左右5cm程度の50m並みの
精度が出ています。
薬量が多い分ドロップが少ないかと思いましたが、今回の試射で
は以下の結果でした。
50m 100m
(1)+5cm −10cm
(2)+6cm − 3cm
(3) − 3cm
ただし(3)の場合まとまった4発グルーピングでは−7cm程
度となっています。いずれにしろ銃砲年間のブレネケ射表の数値よ
りかなり大きな数字になっています。
結局、今回の試射では市販装弾より多少なりとも精度が高いのではない
かという嬉しい結果になりました。サンプル数が少ないのでまだまだ研
究の余地はありますが、リロードとはいえ実猟に関して言えばまったく
問題なさそうです。
参考 レミントンの RXP-RS Target Load を上下2連で撃ってみました。
(ミロクM7000SP シリンダーチョーク 脱着式照星、照門装着
サンドバック委託)
50m 6cm
同様の条件で27gr 20cm
射手がスラッグ射撃始めての者で、かつオープンサイトとしてはさ
すがターゲットロードと銘打っているだけのものは有りそうですね。
27grの精度が悪かったのは弾のせいか腕のせいかが良く分からな
いので(別の銃では31grで5cmが出ている)再度試射する必要
が有りそうです。撃った感じはRXP-RSよりソフトだった様なので
50m標的射撃専門であれば弱装弾の研究も価値が有りそうです。
どの薬莢でもガス漏れの兆候は見られませんでした。
6.重要注意点
・リロード結果の責任について
散弾スラッグのリロードについて、リロード方法、薬量等を書い
てありますが、これらの方法を用いてどのような結果が生じても筆
者は一切の責任を負いません。リロードは各自の自己責任において
安全に十分留意して行ってください。一歩間違うと異常腔圧による
銃破壊・暴発等が起こり得るのも手製リロードです。市販装弾の製
造物責任はメーカが負いますが、リロードではリロードを行った本
人に責任があることを忘れないでください。
7.その他
・空薬莢について
今回ミロクの空薬莢を使って見ましたが他の薬莢と違って空薬莢
のクリンプ折れ後がはっきりしていなくクリンプ整形で失敗する物
が結構ありました。また、NIKEの薬莢は雷管ポケットが緩い物が多
いようです。結局何時も使用するマタレリRCが一番良かった感じ
でした。評判のウインAAは射場に落ちていなく懇意の銃砲店にも
なかったので使ってみていません。
・より詳細な情報について
もし、散弾、特にスラッグリロードについて興味のある方はメー
ルで連絡してください。私もスラッグのリロードは始めたばかりで
ノウハウの集積はこれからです。一緒に研究してみようという方大
歓迎です。
また、Nifty FSHOOTフォーラムでは多数のリローダーが意見交換を
行っていますのでこちらにアクセスできる方はフォーラムに来てみ
てください。(注 私はスタッフではないですが・・・)
・参考文献
レイマン 4thエディション
銃砲年間 96〜97