Monologue22 (2000.6.2〜2000.6.4)

 「2000.6.4(日)」・蜂と神様

 今日のNHKBS2の「おーいニッポン」という番組で山口県を特集していました。
その中で山口県出身の往年の詩人金子みすずについての特集があり、その中で紹介された詩の一つに、私は非常に感銘を受けたんですな。
それは「蜂と神様」という詩で、こんな詩であります。

 蜂はお花のなかに
 お花はお庭のなかに
 お庭は土べいのなかに
 土べいは町のなかに
 町は日本のなかに
 日本は世界のなかに
 世界は神さまのなかに

 そうして、そうして、神さまは
 小ちゃな蜂のなかに

 感銘といいいますか、ショックといいますか、簡単に言うと背筋がゾクっといたしました。
なにかこう、月の裏側を見てしまったというか、望遠鏡で外国が見えてしまったというか、初めて外国に降り立ったというか、とにかくそれは、ガーンと私の脳天を直撃いたしました。

そうか、こんな簡単な言葉で、宗教的なもの哲学的なもの、深遠な真理に近づいていくもの、そういったものを表現できるんだ・・・

この間のゴールデンウイークの旅行から、最近ちょっと詩というものについて考えることが多いのでありますが、また改めて詩の力を思い知った今日此の頃であります。 

 「2000.6.3(土)」・飽きてみたい

 人間同じものを何回か見ると飽きてしまう、ということがありますな。
何年も暮らしてる女房の顔なんか、飽きてしまう、なんてことも時々聞きますな。

でも何回見ても飽きないものがあって、とってもとっても困る。
もう飽きてほしい本当に。

ゴキブリ。

今日呑気にテレビなんぞを見てると、背後でカサカサと音がしたので、振り返ると、それはもう大きな茶褐色の物体が、うごめいておりました。

戦慄ですわ・・・

もう彼が出てくると、それまでの全ての作業を一時中断せざるを得ない。
彼対策の作業に全力を傾けなければならない。

昔は殺虫剤を撒いて、それを浴び逆上した彼らが反逆の乱舞を起こしたりして、それはそれは恐怖の惨劇が繰り広げられたものでした。
最近はゴキブリホイホイなど、彼らを静かに仕留める道具が発達し、昔ほどの混乱は減ってまいりました。

それでもやはり恐怖感というのは、全然減りませんな。
ゴキブリホイホイを設置した後も、背後で何か、本当に微小な音がしただけで、ヒエーっと飛び上がってしまいます。よく見たら、コンビニの袋がちょっとしなだれただけだったりします。寿命縮まるわ、ほんとにもう・・・

なぜか急にタバコの量が増え、用も無いのにコンビニに出かけたりと、かなり彼らのおかげで、自らの健康を損ない、時間を無駄にしたりと、人生の歩みを妨害されている感を非常に強くいたします。

クソー、ゴキブリめ〜〜。オレノ人生邪魔すんじゃねえ!

「大体昆虫自体、邪魔こそすれ、何か役に足ったこと在るのか!」と、他の昆虫にまで八つ当たりしたくなってしまう・・・

あ〜、飽きてしまいたい・・・ゴキブリに・・・。 

 「2000.6.2(金)」・戦いの場

 トイレは私にとって憩いの場であって欲しい。
そうだと信じている。涙ながらに信じている。

トイレとは、それまで溜まった邪悪な気を一気に放出し、スッキリし、リフレッシュする場でありたい。

 ところが、たまに、そうもいかなくなる時がある。
全然憩えず、それどころか「し烈な戦いの場」と化している時すらある。
トイレは私にとって、時として戦場なのである。

 ウォッシュレットの便器で便座の上に水を飛び散らせたまま出て行く不遜の輩がいる。
まあ、これくらいは対応策が無いことは無いので、怒りに震えながらも何とか我慢はできる。

しかし対応ができず、止む無くこちらが撤退せざるを得ないという状況がある。

私は大抵便器や個室が幾つかあれば、一番端のものから選んでいく。
なるべくなら隣に誰もいない状態で、せいせいとしたいのである。大も小も。

 まだ誰もいないトイレで私が個室に入ると、たまに後からすぐ隣の部屋に誰かが入ってくる時がある。
もちろん、「他の個室が空いている」のにもかかわらずである。
なぜかすぐ隣に寄り添うように入ってくる輩がいる。恋人の横に寄り添うが如く。
横の壁から、ズボンやベルトの擦れる音がシャカシャカと聞こえてくる。まるで「今、僕君の隣入ったからネエ〜」とアピールせんばかりに。
この時点で私は、早くもディープダウンしてくる。
個室が2つ以下のトイレなら、いたしかた無い。が、個室が3つ以上ある広いトイレだったら、なるべく離れてしたほうが、お互いのために良くは無いか?

 静かなトイレで、そっと寄り添うように隣に入られては、気になってゆっくりできない。こちらの音も聞かれるし、相手の音も、時には苦渋に満ちた息遣いさえ、よーく聞こえてくる。全然手に取りたくないのに、手に取るように聞こえてくる。
「オーッウ!」とか「カーッ!」とか、「ウッ」とか、その音色は実に様々である。
その人のいろんなもの、いわば人生の鳴咽すら聞こえてくる。俳優でもないのに、よくもこんなところでこんなに劇的にうめけるもんだと、逆に感心する。私に対して「君だけに、この僕の秘密のウメキを聞かせてあげルヨ」などと言ってるような気がしてきて、それがいっそう私の神経を逆なでる。
他に誰も入ってこないようなすいている時に、この静かなトイレで彼と二人っきりの寄り添う時間が永遠であるかのように地獄的に流れていく。
 

ま、ウメキだけで終わってくれるとすれば、とりあえずそんなに苦しむことは無い。

 しかしこれよりも何よりも嫌で恐ろしい忌むべきことがある。
当たり前なのであるが、匂ってくるのである、あの臭い匂いが。
たまたま私の使用する便所の換気機能が弱いのかもしれないが?

 隣に誰かが、駆け込んできてブリブリバリバリ〜と、一しきり爆音が出つくした、次の瞬間、信じられないほどの静寂がやってくる。
が、そう思った、次の刹那、恐ろしいほど静かに、しかしまさに地球滅亡の時の地獄からの使者のように着実に、プ〜ンとウンチの匂いがだけが有無を言わさず私を襲ってくる。
大抵出たてのホヤホヤのウンチの匂いは強烈である。それはそれは臭い。
鼻を直撃する。まさにこの「直撃!」という表現がピッタリだ。鼻がヒン曲がる、とは良く言ったもんだ。
あの臭気は、只ノホホンと存在しているだけでは無い。
あきらかに悪意をみなぎらせ、主体性を持って我々を「攻撃」してくるのだ!。

もちろん私は逃げることなどできない。私の体を酸気のある鋭い臭気がヌメヌメと被いつくしていく。
私に対して「僕の秘密のウメキの後は、君だけに、この僕の秘密のウンチの香りを胸イッパイかがせてあげルヨ!」などと言ってるような気がしてきて、それが更にいっそう私の神経を逆なでる。

 隣人には、汚物を一旦放出した後すぐ水を流せば臭気の大半を消せるという案はもちろん無さそうである。これは水がもったいないと言われそうだしね・・・。

 とにかく私は、こりゃ、たまったもんじゃないと、もうこの時点で、のんきにウンコなどしていられず、ゆっくりリフレッシュする作業を、強制中断し、急いでトイレを脱出する作業にかかる。リフレッシュ気分もここで敢え無く「撃沈」する。
このままでは、私の衣服に強烈な臭気が染み付き、リフレッシュに来たのに、下手すると「ウンコの匂いつけにきた」になってしまう。

 ときどきウンチの臭気と一緒に、男性化粧品の匂いが漂って来て、「あ!、これA部長!」などとすぐわかってしまう時がある。
「こんなとこで、A部長のウンコの臭気なんか吸いたくねえ!」
「日頃女の化粧品のいい香りも吸えてねえのに、なんでA部長のウンコの臭気なんか吸わなくちゃならんだ!」と怒りも頂点に達する。
息を止めつつ、とにかく完全撤退作業を急ぐ。

 ところが、である。
こんな時にあろうことか、なんと隣からも、ペーパーをカラカラさせる音が聞こえる。
こういう時に限って、私が出ようとしてるのに、あろうことか隣も急いでいるのかしらんが、わざわざ私と同期をとるようにして出てこようとしている時があるのである!
あたかも私と「一緒に出てきたい!」とでも言いたいかのように!。
ご、ご、ご冗談を!・・・
こっちは、アンタと一緒にいたくないから、こうして無理に急いでるのに!

 これだと、部屋を出た瞬間、バッタリ鉢合わせするという最悪のケースが考えられる。いわゆる「カブッて」しまう恐れがある。
出る時で無くても、手洗い場でカブることは必至だ。
これだと、「あー、さっきの、あの凄い音の主、君ね」とか「昨日焼き肉食ったみたいね」などといろいろとわかってしまう。下手すると、相手が「僕たち二人だけの秘密持っちゃったね」とにじり寄ってきそうな忌まわしき予感さえする。トイレを個室にしている意義さえ問いただしたくなってしまう。
これも是非とも避けたい事態である。

 結局私は、相手のペーパーがカランカラン、シュッシュシュッシュ言う音を慎重に聞き分けつつ、「あ、今ふいたのね」「あ、これからズボン履く作業ね」と的確に判断しつつ、相手の出て行くタイミングと何とかはずそうと、鼻をつまみ息も止めて神経を集中する。

 たまに、相手が諸作業を終えたようなので、てっきり、さあやっと出て行くゾ、と思いきや、急に静寂がおとずれてしまって、相手の動作が止まってしまい、すぐに出ていかない時がある。
こういう時のこちら側の対策も超ムズカシイ。

 こちらとしては、相手が出て行くと思って、待機しているので、相手が出て行ってくれないと、そのまま時間だけが経過していってしまうことになり、お互い牽制でもしあってるかのようなあまり好ましくない状態に陥ってしまう。
これは、避けたい事態である。こういう時はもちろん、どこかでタイミングを図って、こちらが先に出て行くしかない。
うまく行けば、こちらが出ていっても相手は、しばらく入室したままなので、タイミングをはずす作業が一応成功裡に終わったことがわかる。

 ところが、これだけ慎重にタイミングを図ったのに、あれだけ最後間をおいておきながら、私が出て行くと、途端にゴソゴソ自分も出て行こうとしだす奴がいるので、もう信じられない!。まるでどうしても私と一緒に出ていきたいかのように!・・・ムカツク〜ウ!
私は「なあ?、そ〜んなにオレと一緒に出たいんか?、なあ?そんなに一緒に出たいんか?オレと?!」と、心の中で泣き叫ぶ。
ここまでくると、もしかしてこいつ変態じゃねえのか?!と、こちらもツイツイ悪意に満ち溢れてきてしまう。
誰か知らぬが、相手の「ヒャッヒャッヒャッ、ついてくよ〜、君にピッタリついてくよ〜」と、うすら笑ったような、化け物顔が連想され、私の頭の中をグルグル回りだす。

 私はこういう場合だけは、もう石鹸もつけずに手をシャっと洗うだけで、パッと急いで出てくるしかなくなる。
手を洗っていると、今にもそいつが出てきそうで、気が気では無い。そいつが早く出てたきそうなのが、アリアリと伝わってくる。
部屋の中でそいつが立ち上がった気配がし、ドーッと水の流れる音が聞こえる。もう今にも出てきそうだ・・・。
そして、次の瞬間「カシャッ」と、鍵が開く音が聞こえる。一瞬戦慄を覚える。私はもうその音を聞くか聞かないかのうちに、「ヒエ〜〜」と、逃げるようにトイレを後にする。

 なんでトイレごときでこんなに、苦労しなくちゃいかんのだと、悔し涙にくれる。
これじゃ、戦国武将が排泄時に敵に襲われるのを防ぐために、周りを武将で囲ませたなどというのと、同じレベルの苦しみになってきてしまうじゃないか・・・

・・・と、こんなふうに、一見静かな便所では、こんなスパイ大作戦さながらの(?)過酷な戦いが、密かに繰り広げられていたのである。

こんなことをしていると、当然ながらリフレッシュなんぞできやしない。

トイレが混んでるときはやむを得ない、しかし頼むから、すいてたら隣に入らないでクデ〜・・・!

これが女性が隣に入ってくるっつうなら、全然話は違うんだけどな〜・・・。

 ああいう人は自分は隣に入られて、嫌じゃないのか?そんなに人にウンチしている音を聞かせて、匂いをかがせたいのか?
向こうだって、他が空いてるのに、わざわざ誰かの隣に入るのが嫌じゃないのか?
僕がおかしいのか?気にし過ぎなのか?もしかしてトイレに一人で入るのが恐いのだろうか?それでくっついてくるのか?
オヤジのウンチの匂いを好きになれという神の思し召しなのか?
神はモテナイ独身者にそういうことさせるのか・・・?だとしたら神なんて大嫌いだ〜!

まったく?だらけである。本当理解できぬことだらけである。

 中国などでは、便所に仕切りが無いと聞く。中国に生まれなかったことを、本当に感謝する。

こうしてウンチごときにあれこれ気を病み、モテナイ独身者は意外なところでストレスをためていく。

今日も後から隣に寄り添うように臭いやつが入ってきやしないか、ビクビクしながら、端っこのトイレに入る今日此の頃である。 

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