愛読書

エッセイ編
ショージ君のにっぽん拝見(その他東海林さだお氏著作)
東海林さだお著
文春文庫

(その他東海林氏エッセイは文藝春秋社・朝日新聞社などより刊行)


 若く多感な時期にはいろんな、もの・人から影響を受ける。
青春期にこれらのものから受けた影響は容易にはぬぐい難い。
ベットリと油の如く染みついて、大人になってからも随所でこの影響が顔を出してくる。

 こう見えても私はかつて、文学青年を志そうとしていた時期があった。
決して冗談では無い。人生のジの字も知らぬ、イガグリ頭のクソガキが、三島由紀夫の「金閣寺」なぞを読み、川端康成の「掌の小説」は・・・などと友人に誇らしげに語っていた時期もあった。
 三島由紀夫の格調高い小説は、当然のことながら、このイガグリ君の理解のレベルを遥かに越えたところに存在していた。当時川端康成の「川」程も理解できていたか知らない。

 結局イガグリ君の興味は、ビートルズ等の音楽に、その大半を注がれることとなる。

 そしてやがて、イガグリ君の格調高き文学青年への道を、完全に閉ざすような文学に、このイガグリ君は遭遇することとなる。

 それは一つが筒井康隆氏、小松左京氏、星新一等のSF作品、そしてもう一つがここでとりあげる、漫画家東海林さだお氏のエッセイであった。
 これらにより、イガグリ君の中の、理想的純文学青年像というものは、完全に、こっぱ微塵に崩壊することとなり、イガグリ君の人生の進路は大幅な修正を余儀なくされることとなった。

 イガグリ君は、最初はその名も「ショージ君」という漫画により、東海林氏の作品との出会いをすることとなる。
このモテナイ男の悲哀を描いたような、ちょっと枯れたギャグ満載の作品は、少年誌の熱血的・劇的漫画とは対照的な、少し大人を感じさせるクールな作品として、イガグリ君こと私河童星人の心につきささった。
 そのうち、このショージ君の作者、東海林さだお氏が、エッセイでも面白い作品を残しているということで、ジャズピアニストの山下洋輔氏などと共に紹介されている記事を、ある日目にすることとなる。

 ここからは雪崩れのように、東海林氏のエッセイの世界にのめりこむこととなった。
こうして文学青年を志していたイガグリ君の青春期は、東海林氏の洗礼をドップリと受けることとなる。

 こうして現在。
 自分でいうのもなんであるが、このHP自体、東海林氏の影響がかなり随所で見受けられるような気もする。
 東海林氏ご自身は、太宰治の影響を受けたと、どこかのエッセイで述べておられた。
 冷めたような自虐的な、それでいてユーモラスな語り口は、確かに多分に太宰の影響を感ずる。
 そうなると、こういう三段論法が成り立つ。
  1.東海林さだお氏は太宰治に影響を受けた。
  2.河童星人は東海林さだお氏に影響を受けた。
  3.ゆえに河童星人は太宰治に影響を受けた。
 と。

 しかしここでこういう説を述べると、熱烈な太宰ファンの方々から、この程度で何が太宰の影響を受けただ!、とお叱りを受けそうなので、やめとく。あくまでも東海林氏に影響を受けた、ということで止めておく。

 ところで東海林氏のエッセイは、何が素晴らしいかといえば、とにかく面白い。
 主として、いろんなことのレポート的な文章が多いのであるが、単なるレポートにはならず、そこには東海林氏が、いろんな味つけをした、東海林節がある。一つのことを表現するのに、自分で言葉を選んで面白く味つけしていく。これは、絵や音楽を作っていく、創作過程と同じものではないか?そうか!東海林氏の文章は芸術と同じなのだ!・・・などという誉め方をすると、まず間違いなく東海林氏は疎まれるに違いなかろう。なので誉めるのは、ここで止めにしておく。

 ちょっと補足させてもらうと、私河童星人のこのHPのいくつかの文章は、かなり東海林氏を意識したものになっており、私的には、ちょっとキザな言い方をさせてもらえば、「東海林氏へのオマージュ」的意味合いを込めたものになっているものもある。暇があったら皆さんもそれを探して、「確かに。」と首肯していただきたい。
 ちなみに、ここでくれぐれも断っておくが、「東海林氏へのおまんじゅう」では無い。
いくら私が東海林氏を崇拝しているからと言って、お彼岸なんぞに東海林氏へお饅頭を送る、などということは無いので、その点くれぐれもご了承いただきたい。

 東海林氏は現在も精力的に活動を続けており、本業の漫画はもちろん、「丸かじり」シリーズなどの食べ物に関するエッセイや、椎名誠氏との対談等、多彩に活動をしておられ、その作品群は、あまりに多彩すぎて、私河童星人も最近は追いついていけない程の量になっている。

 そんな多彩な東海林氏の作品に簡単に触れてもらおうと、なんと東海林氏自らが、ご自分で選出された、いわば、東海林エッセイのベストアルバムとでも言うべき「なんたってショージ君」が昨年文芸春秋社より発刊された。これは入門書と銘うってあるので、まさにこれから東海林ワールドに触れて見ようと思う方にはうってつけの書である。愛蔵版と銘打ってあるので、是非愛蔵していただきたい。税込み¥2600。

 それから言い忘れていたが、ショージ君はモテナイ。
東海林氏は我々モテナイ男性にとってのジャンヌダルク、いつだってモテナイ男性の味方なのである。

(2000.2.19)


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