Monologue2002-51 (2002.11.8〜2002.11.11)
 「2002.11.11(月)」晴・トンビ

 「鳶(トビ)が鷹を生む」・・・、広辞苑では「平凡な親がすぐれた子供を生むことのたとえ」とある。
 つまり世間一般に「鳶」(以降トンビ)という鳥は、それ程高いランクに位置づけされた鳥類では無いようだ。下手すればカラス辺りと同じ括りに括られそうでもある。
 だが僕の中ではトンビは常に”カッコイイ”鳥だった。いや、今だってそうだ。

 少年の頃、日曜の午前中になると、屋根の上に干された布団に寝転がって晴れた空をボンヤリ眺めていることが良くあった。
 まぶしい太陽、どこまでも青い空・・・。
 その内遠くから、青い空にユックリと自由な曲線を描きながらやってくる一つの影が見えてくる。トンビだ!。

 思わず僕は起き上がって、その影の美しい輪郭を確かめようと、まぶしい日の光に目をこらして見る。
 その飛ぶ様は実に雄大で、自由で、大らかで、やさしく、何よりも美しく芸術的だ。
 トンビの飛ぶ姿は、まさに僕にとって、これらの美徳の象徴であり、それらを有した”音楽”にも比するものであった。
 僕はしばし、その姿に見入ってしまった。
 その内、下の階から昼食を告げる母の声が聞こえ、この少年にとっては大層幻想的な日曜の体験は無事終了するのだった。

 僕の田舎は海のある街で、トンビのいる風景は日常的なものであった。
 現在東京の内陸に居住していると、あの少年時代の幻想的な空間が、やはり特殊なものであったという思いを強くせざるを得ない。
 只それ故改めて振り返ると、そのイメージは今でも僕の中で強烈に、僕をして善なるものへの憧れを生じせしめる動機となっている、そう思えてくるのである。

 「2002.11.10(日)」晴・二人の女神様

 休日の路線バスは空いてて良い。路線バスに乗るのはチョットした小旅行気分だ。
 僕は大抵始発の停留所から座って行く。僕が良く乗るところでは最初からだとほとんど座れる。
 只たまに停留所を幾つか通過して行く内に次第に混んできてしまうという事態も当然発生する。こんな時せっかく座ってゆっくりしていたところをムサクルシイおっさん達に取り囲まれてしまうという事態も当然発生するのである。
 それでそのリスクを最小限に食い止める為に僕は1番後ろの端の席に座ることにしている。

 この日も例によって、とある路線バスの1番後ろの席に乗った。
 そして発車直前、僕は着席しつつドキドキハラハラしていた。僕の前の二人がけの席が空いてるのである。
 やっぱりムサクルシイ男性は勘弁願いたい。是非とも女性、若い女性と言わないまでもオバサンでもいいから女性をお願いします、と祈っていた。

 すると二人組の女子高生と思われる制服を纏った女性が、我がバスに向かって駆けて来るのが窓越しに見えた。
 もしや!。嬉しい予感に胸が高鳴った。
 案に違わず彼女達はなんと我がバスに駆け込んだのである!。
 乗車し前払いの料金を支払うと彼女達はドンドン奥に歩み寄って来て、遂に僕の前の二人がけの空席を見つけた。彼女達も二人組。ちょうど良いではないか!。
 そして程なく、まるで神の思し召しの如く、彼女達は僕の前に座ったのである!。
 目の前で上気した顔をほころばせながら楽しげな気を発散させている二人を見て、僕は「天使だ・・・」と思った。

 それもそれ、彼女達が醸し出す、ある種”かしましオーラバリア”みたいなのが、ちょっとしたオッサンなど寄せつけないような雰囲気を僕等の周辺に形作っている。さすがだ。
 もう天使を超え「女神だ・・・」とすら思った。

   *   *   *

 御二人の女神様達は着席するなり御会話をお始めになった。すぐ後ろの僕にもハッキリと女神様の御言葉が伝わってくる。実に有り難き光栄である。
 御二人の御会話の御内容より、どうやら御二人は僕と同じ終点まで御同行なさっていただけることが判明した。
 僕は女神様達より賜る”かしましオーラバリア”の最終まで存続し得ることに、これからの旅の安寧を思い喜び、且つ感謝を捧げるのであった。

 お二人の内一人の女神様、仮に女神様A、としよう、女神様Aは紛うこと無きコギャル風で小柄ではあらせられるが、その見目は麗しきお姿にて、我々の用いる世俗的な用語で言うと”結構カワイイ”御容姿であられた。性格は今時の女子特有の活発さをお持ち合わせておられ、語り口は非常なる早口にあらせられ、このバスにおいてはこちらの女神様Aが、その高速トークを存分に駆使し終始御会話の主導権を掌握なさっておられようだ。
 もう一人の女神様、仮に女神様B、としよう、女神様Bはスラリとしたシナヤカなお姿にて、女神様Aのような派手さは無く垢抜けない感じも見受けられるが、我々の用いる世俗的な用語にすると”なかなかカワイイ”容姿ではあられた。性格は大人しくは無いが、人を押しのけて前に出てくるタイプでは無さそうであった。
 お二人は推測するに中学の同級生で高校は別々の学校に御進学されたらしい。

 御会話の御内容より、女神様達は終点にて下車の後、何か御企画開催のご予定をされている、とのことであった。
 御友人の男性諸氏がご参加されるとのことで、我々の用いる世俗的な用語で言う所の”合コン”に準ずるようなものを御企画なさっておられるようであった。

 女神様達には、もうお一方(ひとかた)御仲間がおられたようだ。
 その女神様、仮に女神様Cとしよう、は待ち合わせ場所の変更情報を事前に得ることができず僕等の乗ったバスへの御同乗は叶わなかったようだ。僕も女神様Cの無念を思いしばし黙祷する。
 その為女神様Aが女神様Cに、このバスの終着駅へ向かいそこで落ち合うようにするとのことを、今時の女神様の必需である”携帯”でのご連絡にて御指示なさっていたようであった。

 この女神様Aは並々ならぬ行動力がおありのようで、女神様Cへの御指示の後、ふと何かを思い付かれたらしく「○○ちゃんも呼ぼ!」と仰せになりながら再び今時の女神様の必需である”携帯”、しかも今度は”携帯メール”にて、御友人のどなたかとご連絡を取られていたようだ。
 そしてメールを送信するや否や、間髪を入れず、御相手のより○○ちゃんなる新女神様より、”申し出を受くることに異存無し”との御返信をお受けになっていたようだ。
 こうして新人材の確保も滞り無く済ませ新しい女神様が又御仲間に加わり、御企画は尚の事盛大に執り行われるようなのであった。
 この間ものの数分、女神様Aにあられては、先程の女神様Cとのスケジュール調整といい、世俗のテレビ局のプロデューサーも舌を巻くくらいの機動力、そして人脈をお持ちのようなのであった。

 御会話の御内容は女神様Aを取り巻く男性諸氏の話題になったようだ。
 女神様Aの御発言からは、H高校、K高校と言った僕も一度は名前を聞いたことのある高校の名前が散見せられた。
 女神様Aは、その高校の男子生徒像を論評されておられた。
 たまに女神様Bが”貴女の説明せらるる男子生徒像は換言すると、かくなるや?”と言った御意のご質問を投げかけなさると女神様Aは”貴女の言わんとするは大方是なれど、ある(もの)は否なり。なんとなればそれは・・・”といったような意の内容を、実例を挙げながらこと細かに御説明をされていた。
 この御説明を伺っていると、その論評も結構緻密で繊細なものであることがわかり、女神様の御容姿からは想像のつきかねる意外な洞察の御深さが明らかになり、改めて感服する僕なのであった。

 ちなみに女神様方は言葉の語尾に「てか」並びに「とか言って」なる御言葉を付加せられることを常とされていた。この2単語は頻出しまくっており、女神様かなりの御愛用のようだ。
 「てか」というのは、おそらく我々の世俗的な言葉で言う所の「〜と申しますよりは」に当たる言葉であるようだ。一昔前に女神様方が頻繁に愛用されていた同意の「てゆ〜か」が、更なる進化を遂げ短縮され、めでたく現在の形となったものが、この「てか」であると思われる。発音上「てか」は、「て」と「か」がくっつきほとんど一文字に聞えるくらい敏速に御発音されるのが正しい用法の様だ。一瞬、おそらく0.1秒位の内に「てか」を発音するのが女神様流の正式な発音法らしい。
 「てか」にはオプションで「さ〜」なる接尾辞が付加することもあり、女神様Aの御発言から例を引用させていただくと、
 「てかさ〜、それってアタシに対してじゃん!」などというように用いるようだ。
 「とか言って」については、おそらく我々の世俗的な言葉で言う所の「〜などと申しております」に当たる意の言葉であるようだ。女神様Aの御発言から例を引用させていただくと、
 「アタシが、もう帰るーって言ったらー、ジュンがー”フザケンナヨテメー”とか言ってー・・・」などと言うように用いるようだ。

 更に話題は女神様Aと、その御友人の男性諸氏との昔の御遊興の一時に関する思い出話に進んで行った。
 僕は今時の女神様達のこと、さぞや我々一般中年を刺激し得る過激な話題が飛び出すと思いきや、なぜか”鬼ごっこ””缶蹴り”をなされた、というお話ししかなされない。
 僕は、いやきっと”鬼ごっこ””缶蹴り”は暗喩であり、それに隠されたもっと深い女神様達の狂乱の宴が催されたに違いないと思ったのであるが、やはりどう聞いても”鬼ごっこ”と”缶蹴り”のようだ。

 女神様Aの仰しゃる所の”ポコペン=缶蹴り”において、かつて女神様Aは学生服を着用しつつ尚且つ”鬼”を御担当なされた過去がおありのようで「フツーやんないよねー!、これでー(この恰好で:御自分の制服を指差しつつ)ポコペンー」などと仰せになっている。
 僕は、絶対制服を着用しながら缶蹴りの真似事をさせる新種の”プレイ”だと睨んだのであるが、どう伺っていてもやはりポコペンはポコペンであり、そこからはイメクラ紛いの艶のある話は出てこないのであった。
 この一時を以ってしても、この女神様達の実に可愛げなる御様子が偲ばれるのであった。

 女神様達の”かしましオーラバリア”の御威光・御効力は尚も僕をお守り下さっているようで、ほとんど男性は近寄ってこない。行程の中程で女神様方の4倍以上はあるかと思われる年齢の老婦人、すなわち”大女神様”すら僕の近くにやってこられ、この神聖なる女神様の御威光は、その力を弥増すのであった。

 バスが終点に近づいた頃、先程からしばしばお二人の女神様の間で話題になっていた、女神様Bの兄上の写真を、女神様Bがご自分の携帯に格納された御写真の中から、女神様Aにそれを御披露なさった。
 すると、それを御覧になった途端、女神様Aの御目つきが変わった。
 「えー?、ケッコー、カッコイイジャン、さ○か(女神様Bのお名前)のお兄ちゃん!」。
 女神様Aは既に興味津々な御様子だ。
 今まで女神様Aは、女神様Bに対し、かなり上から物言う的な態度であったが、兄上がカッコイイことがわかると、女神様Bに対し急に品をつくられるようになった。僕から言わせてもらえば、もはや御”豹変”に近いとさえ言えた。女神様の御技恐るべし、である。
 女神様Aはしきりに女神様Bに次回の兄上紹介を御要請している。あわよくば女神様Bの母上と懇意になりたい、などとすら仰しゃられている。「そっちの方がイイカモー」などとも仰しゃられている。是非今度女神様Bの御自宅を訪問したい、などとも仰しゃられている。
 相当な御取り入りようである。よほど女神様Bの兄上がお気に召したようだ。

 以降バス下車までは、ずっと女神様Bの兄上の話で御終始していた。御取り入りも一層勢いづいておられたようだ。
 もしかしたら女神様Aはこの後の御企画のことなどスッカリ御忘却なさってしまわれれたのでは無かろうかと、他人の僕がいらぬ危惧をもよおすくらいであった。

 こうしてバスは無事東京の下町K駅に到着した。
 僕は女神様達に同行し、女神様Cを始めとして、他にも一体どんな方々と待ち合わせしており又遊興あそばせるのか、是非とも確認して置きたかったのであるが、一歩間違うと、ストーカーに間違えられる恐れがあったので、止むを得ず当初の予定であったイトーヨーカドーに、折れた折り畳み傘の新しいやつを買いに向かうのであった。

 「2002.11.9(土)」晴・どうやら実現

 東京地方はとても澄み切った夜空ですな。
 11月1日の当HPでお話しした、ちょっといい感じの夢の話であるが、どうやら今日実現したようだ。
 あまりにも下世話な話なので、ここで詳しくお話しするのは控えさせていただくが、まあ、悪夢だけでなく良夢も実現することがわかり、ちょっと希望も見いだせたような今日此の頃である。

 「2002.11.8(金)」晴・異変は催促

 今回も冬が早めに来てしまったようだ。
 どうも今年は梅雨といい冬といい早めに来ており、やはり何かしら異変がおきている気がしないでも無い。

 僕は地球の異変、というのは僕等の外にある自然が勝手に起こすものでは無く、僕等と繋がっている自然が僕等に何らかの変化を促す為に起っているのだと考えている。

 だから現在の地球温暖化などの異常も、僕等の生活習慣・考え方・人との接し方、そうしたものの何かを変えて行く、進歩させて行くように地球が僕等を、せっついている、のだと思っている。

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