丸帆亭 萬釣報 #34  2000.3/25 更新                   
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"つり人”5月号、有明問題関連記事、
とても力の入ったものです。やはりオオタカまで居ました。
無責任ながら思い切って全文掲載いたします。
つり人5月号の有明関連記事、全文掲載!P.1

十六万坪、それぞれの価値観と水の中の真実

有明北地区埋立問題を考える 連載 5
浦 壮一郎 写真・文

 有明北地区〔十六万坪)の埋め立てへの関心は、すでに釣り人だけの問題から都民全体、
ひいては国民全体の問題へと広大する様相を見せ始めた。海上デモ、そしてシンポジウムの
開催により、都議会だけでなく国会議員の口からも事業の問題点が語られる存在となってき
ている。世話の関心が高まれば、止められない公共事業はない。
無知を露呈した茶番劇
2月29日の都議会本会議において、埋め立てを推進する自民党と港湾局双方が答弁を行なっ
た。それは川島忠一議員が東京港のハゼの生息状況を質問したのに対し都側が答えたもので
港湾局は次のように語っている。
 「マハゼは東京港のほぼ全域に生息する魚であり、春に比較的深い水域でフ化したのち、
秋頃にかけて浅い水域で成長していく。夏から秋にかけての釣りシーズンには、大井ふ頭中央
海浜公園、お台場海浜公園などで釣りを楽しむ多くの都民に親しまれている。環境影響評価に
あたっての調査結果では、有明北地区の巣穴の密度は多摩川河口に比べると50分の1程度しか
ない。
有明北地区がマハゼの唯一の生息地でないことはもちろん、聖地といえるような実態にはな
い」と。
"十六万坪に巣穴が少ない。だから十六万坪はハゼの聖地ではない”とするこの答弁は穴だら
けである。ハゼの聖地ではないなら、なぜ多摩川に近い羽田などの船宿が、わざわざ十六万坪
でハゼを釣るのか。都内はおろか千葉県からも船宿が集結するのか。釣船屋の船長たちも
「ここ20年、多摩川河口で釣りをしている船はない。十六万坪にハゼが少ないなんて大嘘
だ」と憤っている。
また、大井ふ頭中央海浜公園やお台場海浜公園でも多くの都民が釣りを東しんでいるという
が、それは単に
都内の海岸練のほとんどを立ち入り禁止にして釣り人を縮め出し、そこ以外で
はサオをだすことはおろか、水辺に近づくことすらできなくしてしまっただけのこと
である。
そのお台場海浜公園ですら、人工的なビーチを作り、多くの生物を殺し、釣り人を締め出しているのが現状だ。
さらに答弁では、ハゼが秋頃にかけて浅い水域に移動し成長することを認めており、これは
同時に、平均水深3mと浅い十六万坪で成長していることを認めているにひとしい。そして一
番の論点は巣穴という言葉にある。
巣穴というと、そこを住みかにして生活しているかのようなイメージを人々に植えつける
が、ハゼの巣穴とは産卵孔のことである(65ページの『城ヶ島ノート」に詳しい)。ハゼ釣
りをする人ならご存じのとおり、ハゼは秋の深まりとともに、深場に移動する。深場に落ち、
成熟したハゼのみが産卵のための穴を掘るのである。
したがって、浅場である十六万坪に巣穴が少なくても何ら不思議はないし、ハゼの聖地では
ないとする根拠にはならない。むしろ、巣穴の多い場所は純粋な生息地とはいえないくらい
だ。周辺の深場で産卵しているからこそ、港湾局白らが説明しているように、春にフ化した稚
魚が十六万坪に集結するのだ。
このようなことからも、都議会での茶番劇はむしろ、埋立事業を推進する側から見れば逆効
果だったと言わざるを得ない。無理矢理に事業の正当性をアピールしようとしても、結果的に
無知を露呈しただけだ。いや、無知ではなく、むしろ知能犯のごとく、都合のよいデータしか
公開していないのかもしれない。
その証拠に、『臨海部開発を考える都民連絡会』が行なった情報開示請求に対する都の回答
では、マハゼの出現個体数は他水域より大幅に多いことが明らかになっている。
それによると、
個体数はお台場東側11、同西側1に対し、有明旧防波堤東側106、同西側120
(98年9月の調査)と示されており、ほかとは比べ物にならないほどハゼが多い。
つまり、十六万坪がハゼの聖地であることは都側の調査でも明らかなのだ。しかし、いまだ
に巣穴のデータのみを掲げ、ハゼは少ないとウソの主張を繰り返しているのである。また、
答弁にある巣穴についての調査も充分ではなく、多摩川河口と有明北地区は別の調査機関に
よるもので、調査方法も同一であるか疑問が残る。

野烏渡来地としての価値、そしてシーバスの存在が大きな原動力に

埋立反対運動は、わずか数月月のうちに飛躍的な広がりを見せ始めている。それは三番瀬の
運動との連携、そして、日本野鳥の会・東京支部との情報交換にも及び、釣り人と一般市民、
そして野鳥愛好家が横のつながりを持ち始めたことに大きな意味がある。特に野鳥の専門家
による調査(次号で解説予定)で、十六万坪は貴重な野鳥の渡来地であることが明確になって
おり、カモやサギのほか、干潟を重要な餌場とするシギや千鳥が数多く棲息していることが
分かっている。このことは干潮時に現れる十六万坪の干潟の存在が、野鳥たちにとって重要
な役割を担っていることを証明している。
 さらに、十六万坪ならではの風景といえる明治時代の石垣堤防、その雑木林ではなんと
猛禽類の
オオタカが確認されている。食物連鎖の頂点に立つ貴重な猛禽類が、大都市東京の
海、江戸前に棲息しているというのである。これも十六万坪がいかに豊かな生態系を保持して
いるか、その象徴のひとつといえる。
このように、野鳥の生息地という面でも今後専門家を交えた長期的な調帝が必要なことは明
らかであり、反対運動もまた、ハゼの聖地という、面だけでなく、野鳥の聖地としての広がり
を持つことになるはずだ。
一方の釣り人側は、これまでハゼ釣り愛好家が責極的に反対運動に関わってきた。しかし
十六万坪はシーバス(スズキ)の有望ポイントという一面もあり、今後はルアーマンの発言が
期待されている。
シーバスフィッシングの愛好グループ『レッドヘッターズ』の会長であり、ジャパンゲーム
フィッシュ協会(以下JGFA)常任理事、同協会のタグ&リリース魚属保護委員会代表の古山
輝男さんは、まだJGFAの総意ではないとしながらも、「個人的には埋め立ては絶対反対で、
東京湾を守る運動にはできるかぎり協力していきたい」と語る。また、JGFAではタグ&リ
リース活動を通じてシーバスの生息調査を行なっており、今年の夏までには具体的なデータが
出るとしている。
 それらを把握した上で、積極的に発言したいというのが古山さんの考えのようだ。
ここ数年、若い釣り人たちの関心はハゼよりもむしろシーバスのようなルアーターゲットに
ある。シーバスの有望ポイントである十六万坪に対し若者が関心を持ち始めたことは、
東京湾を都民の憩いの場として守り続けていくための大きな原動力になる。今後の取り組み
に期待したいところだ。
 そもそも、なぜ十六万坪がハゼの聖地であるのかを考えてほしい。
大量のハゼを育むということは、ひるがえってゴカイやエビ、カニなどのエサが船富にある
ことを意味する。意外に知られていないが、春、東京湾ではゴカイなどのイソメ類がいっせい
に生殖活動を行なう。それが〃バチ抜け”だ。バチ抜けを合図に、それまで深場に落ちていた
シーバスの群れが運河や浅場に集まる。イワシやサッパなどのベイトフィッシュが少ないこの
時期、産卵後の体力回復に大いに役立っているのがイソメ類である。
 当然、イソメが生息する干潟を埋めてしまえば、ハゼばかりかシーバスの成長にも影響を
与える。事実、2月末の大潮時、十六万坪でハチ抜けが始まったのを合図に、シーバスが盛ん
に釣れだした。これこそ、大昔から変わることなく続いてきた自然のサイクルなのである。
 釣りあげたシーバスが吐き出した大量の未消化のゴカイが、それを如実に物語っている。
大都会の一角に、ゴカイ、ハゼ、シーバス、そして野鳥まで加えた見事な食物連鎖のピラミッ
ドが築かれた水域、それが十六万坪なのだ。
そんな貴重な水域を埋めてしまっても、
自然への影響は軽微と言い切る都には、怒りをとおり越して呆れるほかない。