有明北埋立事業計画(旧有明貯木場)のあらましと問題点
2000.9.
1.臨海副都心開発計画としての旧有明貯木場の埋立計画
 東京湾埋立地の中央部を舞台に13年前の開発基本構想に始まった臨海副都心開発。448haを青海地区、台場地区、有明北地区、有明南地区の4地区に分け高層の業務・商業ビルを数十本も林立させ、21世紀の初頭完成の段階では、就業人口106.000人程度、居住人口63.000人、一日の出入人口450.000人を数える東京で7番目の副都心を建設するというもので、有明北地区の旧有明貯木場の埋立計画はこの臨海副都心開発計画に当初から盛りこまれ、計画発表当初から、都民による計画反対と見直しを求める市民運動が展開されている。
    1985年 5月 第2回世界テレポート会議(東京)
 1986年10月 東京港将来像検討委員会報告
     11月 東京都第2次長期計画
(臨海部を7番目の副都心に位置づける)
 1987年 6月 「臨海副都心計画基本構想」発表
 1988年 3月 「隣家副都心開発計画+豊洲・晴海開発基本構想」発表
 1990年6〜8月 臨海部第一次進出企業公募始まる
      11月  進出企業当選者発表
 1991年 3月 臨海開発関連予算凍結
      4月 鈴木俊一氏都知事再選(都議会社会党が与党化、開発賛成にかわる)
      7月 臨海開発関連予算解除
     10月 都の開発計画「見直し」決定
        (住宅1.000戸増、スケジュール2年延期)
1993年3月  第一次進出予定企業12グループ中8グループが契約
 1997年11月 第二次進出応募企業80件95社の事業者登録を決定
 1998年2月 有明南3区画の事業予定者決定
 1999年12月 進出事業者追加登録要綱発表
 2000年3月     〃   36件36社の事業登録を決定

 2000年3月10日 有明北地区埋立事業願書を運輸省が受理
      8月17日    〃         免許を運輸省が認可
      9月 7日 埋立工事説明会
      9月13日 埋立工事着工を強行


2.計画見直しの世論が関連予算を凍結、「見直し」のチャンスが生まれたが…
 臨海副都心開発基本構想から4年、バブル経済の崩壊がすでに始まり開発計画批判の都民世論が高まり、1991年の都知事選挙を前に危機感をもった開発推進派の自民党や公明党をふくめ開発関連予算を否決・凍結させましたが、鈴木都知事が再選されると、それまで開発計画に反対の態度をとっていた社会党(現・社民党)が鈴木知事与党にくわわり、開発推進へ態度をかえたため計画の抜本見直しのチャンスが失われた。都議会政党では共産党だけが臨海副都心開発計画の見直しを求めている。この構図は、青島都政の4年間(1995年4月〜1999年4月)、石原都政誕生後(1999年4月〜)もかわっていません。
基本計画(1987.6)
推進計画(1995.3)
対象面積
448ha
442ha
就業人口
10.6000人
90.000人
居住人口
63.000人
42.000人
出入人口
450.000人
 
成熟期
2004年
2016年
財源
開発者負担の原則
一般会計(税金)の投入
土地利用
(事業費負担のあり方)
新土地利用方式
(土地の賃料、権利金でまかなう)
土地売却方式の導入
土地賃料の値引き
3.計画の見直しを
   求めてきた市民運動

「臨海副都心開発計画+豊洲・晴海開発基本構想」発表の翌年、1989年9月に35団体、162名の結集を得て「臨海部開発問題を考える都民連絡会」(略称・「臨海都民連」)が発足、“東京の海と魚住権を守れ”の集会、開発関連の各種事業アセス公聴会での口述、シンポジュームの開催、現地見学会、「汐風と人間文化都市構想」発表、パンフレットの作成と普及、情報開示請求など、さまざまな運動がおこなわれています。
 臨海副都心開発計画地域の8割を占める江東区でも1991年9月に「都民のための臨海部開発を求める江東区民の会」が発足、同年12月には臨海広域幹線道路計画」に反対し開発計画の見直しを求める「中央区の会」が発足、ともに臨海都民連に結集して市民レベルでの見直しを求める運動を展開している。この間、有明貯木場埋立反対を求める釣り舟・遊漁船事業関係者の運動もとりくまれてきました。

4.1995年 開発計画「見直し」のチャンスがふたたびおとずれたが・・
5年前の4月、青島幸男氏が「世界都市博覧会の中止」「臨海開発の見直し」を公約し都知事に選ばれた。5月末に世界都市博覧会の中止を決定したが、その後、臨海開発計画推進の都庁幹部と都議会開発推進派の巻き返しに屈服した青島都知事がとった行動は、諮問機関「臨海開発懇談会」を設置し開発推進のために利用した。「臨海開発懇談会」は都民に開かれた懇談会として7ヶ月(17回開催)をかけて、異例の答申(開発推進の「A意見」と抜本見直しの「B意見」の両論併記)がだされ、委員の多数がB意見を主張しました。
 都民とマスコミの関心を呼んだ「懇談会」の結論は開発計画の抜本的見直しを方向づけるものでしたが、3ヶ月後に青島都知事は開発推進(A意見)の道を選び、翌年の1997年3月「臨海副都心まちづくり推進計画」を発表しました。
 こうして、ふたたびおとずれた有明貯木場の埋立計画を含む「臨海開発副都心計画」見直しのチャンスは、計画見直しを都民に公約した青島都知事によって奪われてしまいました。

臨海副都心開発フレームの変更

5.民意なき愚行・江戸前の海・十六万坪の埋め立て
 開発継続の方針が出されて以後、臨海部の未利用地をターゲットに企業による暫定的利用がいくつか進められていますが、東京都が資本金の多くを出資している第三セクターのほとんどが開業当初からの赤字経営を続け、東京都が公的資金を湯水のように投じても改善の見通しのない経営破綻状況になっており、臨海開発へのこうした公的資金の投入が都財政破綻の原因の主な理由になっています。
 有明貯木場の埋め立ては1997年3月の開発推進計画策定後における最大の事業計画であり、「臨海広域幹線道路計画」と合わせ、大手ゼネコンや大銀行など大企業の利益のための事業として進められようとしています。
6.
(1) 疑問視されている埋立目的

埋め立て理由に道路建設と住宅建設、まちづくりが示されていますが、道路建設は高速晴海線や幹線道路4本(計20車線)を建設するもので、臨海部はいま大気汚染がひどく、全域で環境基準を超えており交通騒音を含めて改善が求められている地域です。道路建設計画そのものの是非が問われているが、技術的にも埋め立てなければできないものではないこと。住宅建設計画も、この周辺では1996年以後建設されたり、建設中、計画中の集合住宅だけで1996年以後をみても、17.000戸を超えており、さらに増加することが予定されています。臨海部には住宅用地として利用できる土地がたくさんあり、海辺環境の破壊・埋め立てをしてまで住宅用地をつくる必要はありません。

(2) 都民から水辺をとりあげ、魚介類の最良の棲息地をうばう
 埋め立ては、「都民が水辺に親しめるように整備する」ために必要だといっていますが、都民から水辺を奪ってきたのが行政(東京都)です。護岸整備を理由に渚を壊し、直立護岸を建設して都民から釣り場や水辺を取り上げてきました。ハゼ釣りをはじめ、釣りは子供からお年寄りまでが楽しめる庶民のレジャーであり文化です。旧有明貯木場周辺にはマハゼの産卵孔が多く存在していると考えられ、十六万坪は江戸時代からの浅場で、藻場や漁場としての歴史をもち、東京湾の奥に残された「江戸前の海」に唯一残された浅場です。
 隅田川の河口の真水と海水が適度に混じり、マハゼの成長と棲息の場として最適な場所です。
東京都港湾局が示した埋立事業アセスの水生生物などの生息状況調査の内容は都合のよいデータ−だけを比較して並べたもので、内容も信憑性も疑わしいとの指摘が強くあります。
 また、環境庁が1999年2月にまとめた汽水・淡水魚類のレッドリストの見直しで絶滅の危惧が指摘され、東京都環境保全局がまとめた「東京都の保護上重要な野生生物種」(1998年度版)で絶滅の恐れがあるとしてランクAに位置づけている「エドハゼ」がこの十六万坪での生息が確認されており、絶滅の危機からの保護が求められています。こうしたハゼをはじめ、魚介類の宝庫である「十六万坪」を自然の形で今後も存続させるべきです。

(3)
 水辺の環境のほかに、景観、排気ガスなどによる大気汚染や交通騒音など環境破棄が心配されています
臨海広域幹線道路を港区、中央区、江東区内に建設する計画が進んでいますが、環境評価もきわめて問題のある内容です。近隣の中央区を含め臨海部は現状でも環境基準をオーバーしている場所です。都の環境影響評価書(1992年2月)では、2010年の時点で281.000台の通過交通が予測されていますが「開通後は、二酸化いおう、一酸化窒素は指標を下まわる。二酸化窒素は平成12年度は指標を上まわるが、平成22年度には下まわるので影響は少ない」と結論づけています。どのような根拠で、このようなになるのか都環境保全局からはまったく明らかにされないままです。 効果的な環境対策が望めない以上、いま最も効果的な対策は、埋め立てを中止して道路建設計画を見直すことです。

(4)
旧有明貯木場埋め立て事業

○埋め立て事業費  ※(1) 520億円
○公園・道路などの整備  100億円
○民間9社への補償金   129億円

 小 計         749億円
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有明北土地区区画整理事業

○土地区画整理事業 ※(2) 480億円
○    90億円


 小 計         570億円
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 合 計       1,3190億円
 ※(1)埋立事業費には400億円の起債利息120億円を含む
 ※(2)土地区画整理事業は有明北地区(141ha)の86haの区域

東京都は、埋立事業には関連する費用を含めると約600億円が必要と説明してきましたが、その後、関連事業費を含める1.319億円が投入されることが明らかになりました。しかも、埋立事業は都港湾局の埋立事業会計で支出し、埋立後の造成地は臨海特別会計に無償で譲渡することが決められています。まさに「臨海開発」の会計赤字を都民のお金で埋めるもので許せないことです。
こうした問題点を含んでいるのに、東京都は埋立事業計画の見直しはおろか、まともな解決策すら示せないでいます