「Remember Flame 0 」



 

この世に「諸行無常」・「盛者必衰」と言う文字がある。

東洋の言葉で、読み方は解らない。が、意味は誰かに教えてもらった記憶がある。

人は必ず死ぬものであり、栄えた者も、いつかは衰える。

確かその様な意味であり、「人」である為には仕方の無い事だ。

逆に生き続ける事自体が「人」としたら苦痛になるのだろう。

情操教育や教育の場で教えられるものではない。

人の根底の又奥深く、その奥の奥の真暗な闇の中に刻まれた「死」に対する人の「恐怖」と「思慕」

だが、自分自身はその「死」と言うものが解らない。

 

学生時代の…「知人」が「死んだ」と聞いたのは昨日の事だ。

それは同時に世界中の人々の「恐怖」と「思慕」が消え去ったという事になった。

 

知人の死、消えた悪夢。

喜ぶべきなのだろう。

本当は悲しみに暮れなければならないのだろう。

犠牲になった知人に感謝をしなければならないのだろう。

勇気や、人々に対する博愛の精神なら、無駄な位持ち合わせていた奴で。

誰でも好きになれるあの性格には、自分自身辟易したものだ。

 

葬式に参列はしなかった。

理由は「死体が無かった」からだ。

吹き飛ばされたのだろう、生きていたという…存在していた「証拠」まで消え去った。

だから、行っても無駄だろうと思った。

 

…………

 

本当は。

認めたくなかったのかもしれない。

死体が無い、と言う事は死んだ事にはならない。

そう思う事で、自分は浅はかにも「希望」を持って居たかったのだろう。

 

大嫌いだった。

顔を見るのも嫌だった。

学生時代、

毎日毎日自分を探し出し、挨拶し、人を散々口説いて、怒って、笑って、人を変な事に巻き込んで。

それで居て反省もしない。

挙句「楽しいから良かったでしょ?終わり良ければ全て良し!」なんてしゃあしゃあと言って来る、大馬鹿者。

何時も余裕で自分を追い抜き、それでいて時々凄く余裕の無い表情で自分の所に来る。

「お前の事だと、僕は必死なんだ。解らないだろうけど、必死でもがいてお前の所に来てる。」

馬鹿を言うな、何を言っているんだ。

「解らない?」

解るか。

早く何処かへ行かないかと思いながら、話していた。

たしか、こんな事を言っていた気がする。

「全ての人は、お前の事を憎みも嫌っても居ない。なのに何故お前は全ての人を嫌うんだ?」

嫌った覚えは無い。

下らないから…話も、見もしないだけなのに。

 

自分にあれこれと付き纏ってくれた御陰で

自分は一人で居る時間の使い方を忘れた。

一人で居ると、堪らない孤独感に襲われるようになった。

部屋に一人で居ると、待つのは扉を叩く音。

来訪者。

何時も、一人で居る時。

扉を叩く音を、来訪者を、待っていた。

下らない。

今も、

来訪者を、待っている。

来もしない来訪者を、待つ。

 

知人が死んでから、何日経っただろう。

特に何かをやる事も無く、ボーっと毎日過ごしていた。

何かをやる気力も無く、やる事を捜す事も億劫になって。

明るくなる世界、暗くなる世界。

日が昇り、落下する。

それを眺めていた。

悲しくは無い、苦しくも無い。

ただ、世界が凄く住み難くなっただけ。

 

世界が住み難くなってから、又何日か経った日。

空を見上げた時に、

世界を護る太陽が、

空を切断する鳥が、

来訪者が永遠に扉を叩かない事を

自分に言の葉の剣を渡して伝えた。

 

剣を持った自分は、

世界の全てになったであろう知人を、

「憎悪」「嫉妬」

そして「思慕」を込め

世界の全てに刃を向ける。

 

切り裂いても世界は普通に動いていく

居ない事が当たり前になっている。

自分から流れる、透明で不鮮明なものが

例え地面を通したとしても

届く事は無いだろう。

 

やっと気付けた。

自分は、届けなければいけないものを

抱えたままだったんだ。

届ける事の出来ない物が、

溢れ返るこの世界。

 

理由を問質す事も出来ないこんな世界で

何をする事が出来る?

消える。

輝いていた「過去」と共に、

それは炎が燃える様に消えていく……

 

「Remember Flame」

 

その後、学校長と名乗る者が

手を引いて住み辛い世界へと

自分を連れて行った。

知人が死んでから、

49日経った時だった。