『マルフォイ先ぱーい!』
『こらセブルス、そんなに慌てて走ると転ぶぞ?』
『うわっ!』
『はは、だから言っただろ・・・?ほら、掴まって』
『いったぁ・・・・す、スミマセン先輩』
『全く・・・気をつけてくれよ?その可愛らしい顔に傷でも付いたら大変だ』
『そんな・・・・可愛くなんか・・・ない、です』
『ふふふ、照れた顔も可愛いぞセブルス』
『もー!マルフォイ先輩!あんまりからかわないでクダサイッ!』
『からかってなんかないさ』
『・・・・僕男なんですケド・・・・・』
『性別なんて関係ないぞ。私は君以外はどうでもいい』
『先輩・・・・・』
『セブルス・・・・』
「・・・・何してるんですかマルフォイ先輩」
「おお、おはようセブルス」
刺すような暗い視線を背に受け、ルシウスは口の端に笑みを乗せ振り返る。
その先には顔を顰め仁王立ちになっているセブルスがいた。
「それで、アンタは一体何をしてるんだ僕の部屋で!」
「いや、来てみたら君は寝ているし。ぐっすり寝入っているのに起こすのも忍びないからね。
暫く愛らしい寝顔を拝見した後、暇だしこうして課題に取り組んでいたんだ」
「愛ら・・・!?・・・ッもうそんなことはどうでもいいですけど!何ですかその課題は!」
「これか?一応出された課題は”マンドラゴラの更年期障害と老年期における痴呆の相互関係”なんだが」
「その台詞群のどこにマンドラゴラが出てくるんですか!!!」
「マンドラゴラについて書くよりこっちの方が楽しいしな」
「楽しいとかそういう問題じゃないでしょう!」
ルシウスは椅子に深く腰掛けてにっこり笑い、苛つきが最高潮に達しているセブルスを
舐めるように見上げた。
「私にとってはそれが問題なんだよセブルス。大体僕はこんな課題出さなくても
成績は絶えず満点だからね。この世で、権力に勝るモノは存在しない」
「・・・・」
「しかも私にはそれに加味条件として絶対不可侵の実力まである」
「随分と自信たっぷりですね」
「事実だからな。謙遜しても仕方ないだろう?」
「・・・それはそうと、もしかしてその”課題”はそのまま提出するんですか」
「当然だろう。だから書いているんじゃないか」
「やめてくださーーーーーーーーーーーーーーーーいッッッッ!!!!」
キミイガイドウデモイイ
「セブルス」
「マルフォイ先輩?」
夏の陽射しも和らぐ木陰の下、昼休みの読書に耽っていたセブルスの前に現れたルシウスは、
訝しげなセブルスに小さめの黒い袋を手渡し頬笑んだ。
「これは・・・・・」
「以前、実験で使いたいと言っていた薬草だ。保管庫にもうそれしかなかったんだが」
「確かに言いましたけど・・・これ持ち出し禁止じゃないですか」
「”持ち出し禁止”などという規約は私の前では机の上に置いてある日記に等しいのさ」
「何かよく分かりませんが・・・。今日授業で使うことになってたのに
何故か無くなってたって先生がぼやいてましたよ」
「ははは、私は君以外なんてどうでもいいからな」
「・・・・・・」
「セブルス?」
ルシウスは長身を折り曲げ、黙ってしまったセブルスを覗き込んだ。
規則校則に五月蠅いセブルスの事だから、返してこいと怒鳴られるものだと思っていたが。
「先輩」
「ん?」
「ありがとうございます」
ちら、と悪戯な光を瞳に浮かべ、普段の大人びた風貌からは想像できない
好奇心旺盛の笑顔を見せたセブルスに、愛おしさと共に苦笑が滲み出る。
「いつもそうやって年相応の反応が出ていればな」
「何か言いました?」
「いや、何も・・・ところでセブルス」
「はい?」
「報酬は君からの熱い口付けでどうだ」
「・・・・この薬草お返しします」
「冗談だよ。研究に打ち込みすぎて身体壊すんじゃないぞ」
キミイガイドウデモイイ
「ここ、いいかな」
「・・・ここじゃなくても席は沢山空いてますが?先輩」
「じゃあ隣失礼するよ」
「・・・・・」
少し遅い夕食を取っていたセブルスは、ルシウスを視界に認め思い切り顔を顰めた。
大体、承諾を求めておきながら人の返答を待たないとはどういう了見だろう。
しかしルシウスの行動に一々腹を立てていたら全くキリがないので、セブルスは一つ大きなため息をつくと
隣の気配は無視して少し冷めたスープを口に運んだ。
「・・・セブルス」
「あまり食事中は話しかけないで欲しいんですが」
「そのスープは美味しくないのかい?」
「美味しくも不味くもありません。大体味はどうあろうと必要な栄養素が採れればいいでしょう?」
「いや何、先刻から君の眉間の皺がスープの減り具合に比例して濃くなっていくのでね」
「それはスープじゃなくアナタのせいです」
「手酷いな。好きな人と少しでも一緒にいたい健気な男心なんだ」
「僕を巻き込まないでください!」
セブルスがテーブルを強く叩くと、がちゃり、と音を立て食器が踊った。
コーヒーカップが倒れ、焦茶色の液体が側面を滑り、端を伝って雫となる。
「なぁ、セブルス」
「・・・・・・・・・何ですか」
「もし君以外の人間を全て消し去れば、君を世界という鳥籠に閉じこめることができるわけだ」
「・・・何を、言ってるんですか?」
「君以外どうでもいいんだよ、私は」
白い床を彩る茶色の水たまりにぽつり、と苦い雨が降る。
瞬間訪れた沈黙を掻き消すように、ルシウスはにっこり笑って指を鳴らした。
食器も、食べ残しのスープも、散乱したコーヒーも、一瞬にして消えて無くなる。
「さ、食べ終わったら部屋に戻るか。エスコートするよセブルス」
「・・・・・遠慮しますっ!」
キミイガイドウデモイイ
「久しぶりだなセブルス」
魔法薬の授業を終え、職員室に向かうセブルスが見たのは見覚えのある背中。
間違えようの無い威圧感と存在感は昔のままで。
「・・・・マルフォイ、先輩?」
廊下には、少しだけ年齢が刻まれた目元以外何も変わっていないルシウスが佇んでいた。
「君が教職員というのもなかなか面白いな」
「何しに来たんですか先輩」
「逢いに来たんだよ、君にね。それ以外に私が此処に居る理由は無い」
「・・・・・・・・・・・」
「昔より一層美人になったな、セブルス」
「・・・すみませんが午後の授業の打ち合わせがあるので」
「残念だが逃がすつもりはない」
ルシウスは側をすり抜けようとしたセブルスの細い腕を掴み、壁に押しつけた。
強い束縛にセブルスの顔が歪む。
「マルフォイ先ぱ・・・・・っ!」
「愛してるよ」
苦痛の色が滲むセブルスの表情を愉しそうに眺め、ルシウスはそのままセブルスに深く口吻た。
口内を蹂躙し、唇の端から伝い落ちる唾液を舐め取る。
「・・・・・・・ッ、なに、するんですか・・・・っ!」
「別に初めてじゃないじゃないか」
「そうですけど・・・せめて時と場所を考えて下さい!」
「どこがいけないんだ?」
「大体こんな真っ昼間から学校の廊下なんかで!生徒に見られたらどうするんですか!」
「見られたくないのか」
「当たり前でしょう!・・・ほら、誰か来る。早くどいてください!」
向こうからぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。
恐らく生徒だろう。セブルスはため息をつきルシウスを押しのけた。
そして今度こそ立ち去ろうとルシウスに背を向けるが、彼の呟きに眉を顰め振り返る。
ルシウスは笑っていた。
ぱた ぱた ぱた、
「見られなければいいんだな」
ぱた ぱた ぱた、
「え?」
ぱた。
突然、足音が忽然と消え去った。
そして現れるはずだった子供の影も。
「先輩、今、何を 」
「言っただろう?セブルス」
ルシウスは硬直したセブルスにそっと近づき、抱き寄せて耳元で囁いた。
”君以外どうでもいい”