********************** リベンジ★キッス
「ふ、ぁああああああああ」
奥様魔女に大人気なビジュアル系ナイスガイとは思えない程間の抜けた大あくびをかまし、
ロックハートは数々の文献や資料の束を机に置いて思い切り伸びをした。
「眠い・・・・・・・・」
ぼそりと呟き、ため息と一緒に項垂れる。
まだ午前中だというのに、まるで台風直撃時の海岸のごとく、ロックハートの身体を
睡魔の波が(しかも津波級で)絶えることなく襲っていた。
先程の呟きもすでに本日101回目である。
途中何人かの先生に激突しながらふらふらと職員室を出て、ロックハートは中庭に向かった。
夏の陽射しがさらさらと疲労した身体に染みこむ。
丁度良い木陰が視界に入り、堪らずロックハートはごろりと横になって芝生に顔を埋めた。
「うぁー・・・・キモチイイ・・・・・・」
ぽかぽかと暖かい陽気にひんやりした芝生の感触。
・・・ああ、ちょっと今幸せかも知れない。
今日午後授業あったかな?いや、確か今日は無いはず。
あああ、もうダメ。眠い。
寝よう、寝てしまおう。おやすみなさー・・・・・
「何してるんです?」
「スネイプ先生ぃ?!」
眠気に身体と思考を委ねかけていたロックハートは、頭上から降り注いだ声に一気に現実へと引き戻された。
目を開けると、訝しげに覗き込んでいるスネイプと視線が合う。
慌てて起きあがり、服に付いた草を払って怪訝そうなスネイプに愛想笑いをかます。
「あは、ははははは。ス、スネイプ先生なんでここに?」
「居ちゃ悪いですか?」
「いやっ!そう言う訳じゃないです!決して!断じて違いますぅ!」
ぶんぶんと首を振り必死に否定するのを見て、スネイプはくすりと笑い
情けない表情をしたロックハートの髪に絡まっていた葉を取った。
「廊下を歩いていたら、だらしなく寝こけてるアナタの姿が目に入ったもので。
こんなトコロで寝ていたら、夏風邪か熱中症で病院行きですよ」
「心配してくれたんですか?」
「まぁ、バカは風邪引かないって言いますし。起こすことも無かったですね」
「・・・・すねいぷせんせぇヒドイ・・・・・っふああぁ」
会話の途中にも小さい欠伸をかみ殺すロックハートを見て
スネイプはちょっと首を傾げた。
「それにしても珍しいですね、ロックハート先生が寝不足なんて」
「はぁ・・・ちょっと昨日諸事情で遅くまで起きてまして・・・・」
「諸事情?」
そう、かなり珍しいのだ。
ロックハートは毎日、日付が変わる前には床につくのを常としている。
お肌の張りとつやをキープするためらしい。
そんな彼がわざわざ美容に悪い夜更かしをするなんて
鶏が産んだ卵からイグアナが出てきたようなモノだ。珍しいというか、ありえないというか・・・。
スネイプが理由を問いただすと、ロックハートは言いにくそうにぽそぽそと話し始めた。
「・・・・明日、スネイプ先生と合同授業じゃないですか。だから、完璧にこなせるように
ちょっと予習をしておこうと思い・・・・・」
「え?」
「いや!私は天才ですしそんなことしなくても全然余裕なんですけどねっ!まあ念には念を入れて!」
「・・・それで、寝不足なんですか?」
「・・・・・・・・・・・ええ、まぁ・・・・・・・・・ハイ」
スネイプは困ったように俯くロックハートをまじまじと見つめ、
次の瞬間(かなり珍しいことに)声をあげて笑い出した。
「・・・笑うこと無いじゃないですかぁスネイプ先生」
「すっ、すみませ・・・っ」
詫びの言葉は入れたモノの、まだ肩を震わせ笑っているスネイプを
ロックハートがぶすりと不機嫌に睨む。
その視線を受け漸く笑い止んだスネイプは、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭い
拗ねているロックハートに近づき顔を覗き込んだ。
「ロックハート先生、まだ眠いんですか?」
「へ?あ、え、そりゃ眠いですケド・・・」
スネイプは、ニヤリと悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべ
訝しげに眉を寄せるロックハートのカラフルなローブを掴み、引き寄せてその唇に軽く口づけた。
「すすすすすすすすすすすすす」
「酢?マグルの調味料ですか」
「スネイプ先生っっっっっっっっ!」
「はい?」
「あ、あの、今、その、ええと、な、何を」
「これで目、覚めましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・へっ?」
口をぽかんと開けたまま、固まっているロックハートに笑いかけ、
少し頬を染めたスネイプは漆黒のローブを翻し、去っていった。
ロックハートはその後ろ姿が視界から消えた後もたっぷり15分、その場に固まっていた。
そしてぼそ、と呟く。
「・・・・・違う意味で夜眠れそうにないんですけど・・・・・・・・」