「・・・・・・・」
「んもうセブルスってば何むくれてんのさ」
「・・・・別に」
「あ、今更やめるなんて言ってもダメだよ。男子に二言無し!」
「五月蠅い!だからちゃんと来ただろうが!」
「あんま大声出すと見つかるよ」
「・・・・・・・・・・っ」
ジェームスと、それに半ば詐欺のような形で連れてこられたセブルスは、灯り一つ無い
真っ暗な廊下を用心深く進んでいた。
幾つもの階段や扉をやり過ごし、とうとう第一の難関、職員室前に差し掛かる。
もう夜遅くだというのに、・・・真面目な職員も居るもんだ。
未だ職員室には明々と光が点っていた。
「さーて、漸くこいつの出番かな!」
ジェームスは透明マントを取り出すと、困惑した表情のセブルスに手招きした。
「早くセブルス。そんな所に突っ立ってたら、先生が出てきた時直ぐ見つかっちゃうよ」
「・・・それは・・・もしかして二人で一つのモノを使うのか・・・?」
「もしかしなくてもそうに決まってるだろ?早く早く!」
焦れったそうにジェームスがセブルスの腕を引っ張る。
その時、突然職員室のドアがガラリと音を立て開いた。
顔を出したのは今年赴任してきたばかりの女教師、マクゴナガル。
新任なのに、下手なベテラン教師より厳格で厳しく、規則にはとことん五月蠅いので有名だ。
マクゴナガルに見つかったら最後、きっと二人は世にも恐ろしい目に遭ったことだろう。
しかし幸いなことに、マクゴナガルが廊下を見渡すのより一瞬早く、ジェームスがセブルスを
透明マントの中に引きずり込んでいた。
「どうかしたんですか?」
続いて少しずんぐりした小さな魔女がひょっこりと顔を出す。スプラウト先生だ。
スプラウトは眉間に皺を寄せ、辺りをじろりと睨めるように注意深く観察するマクゴナガルに
怪訝な顔をして質問した。
「いえ・・・何か物音がしたと思ったんですが」
マクゴナガルの鋭い視線が透明マントを被った二人の直ぐ近くを彷徨う。
その間ジェームスとセブルスは、身動きも息も出来ずに(もしかしたら心臓の鼓動も止まっていたかも知れない)
その場に固まっていた。
「どうやら思い違いだったようです」
マクゴナガルはそう言うと、踵を返し、再び職員室へと消えていった。
ぱたり、と扉が完全に閉まってから、ジェームスとセブルスは同時に、大きく息を吐いた。
(びっ・・・・ビックリしたー!)
(寿命が三年ほど縮んだ気分だ・・・)
(いきなり出てくるんだもんなぁ・・・見つからなくて良かった)
二人は物音を立てないよう細心の注意を払いながら、職員室を後にした。
「・・・・なぁジェームス」
「何?」
「もう職員室も過ぎたし・・・これ被らなくても良いんじゃないか?」
セブルスが鬱陶しそうに透明マントの端をちょん、と引っ張る。
職員室からは随分離れたが、ジェームスはセブルスの肩を抱いたまま、透明マントを離そうとしなかった。
「だってさっきみたいに突然出てくるかもしれないしさ、かぶっておいた方が安全だろ?」
「まぁ・・・そうかもしれないけど・・・」
語尾を濁らせ、セブルスがジェームスを上目遣いに見やる。
「もう少し離れられないか?暑苦しいんだが・・・」
「無理!却下!ちゃんとくっついてないとローブが完全に隠れないんだ」
・・・ホントはこんなに密着しなくても、大丈夫なんだけどね。
せっかくセブルスに密着できるチャンスを逃すほど、ジェームスは甘い男ではなかった。
ここぞとばかりセブルスの細い身体を抱き寄せる。
「オイ、そんなにくっついたら歩けないだろうが」
「大丈夫大丈夫」
「何がだ!大体こんなにひっつく必要性が何処にあるんだ!」
「うん。大丈夫」
「・・・・」
質問に答えていないことを意にも介せず、にっこり笑うジェームスに
無駄だと悟ったのか、セブルスはそれ以上言及することは無かった。
深くため息をついて、さっさとこんな阿呆らしい事終わりにしてしまおうと
早足になったセブルスを、ジェームスが引き留める。
「ちょっと待ったセブルス」
「何だ?」
「向こうから誰か来るぞ」
「え?」
「ほら、聞こえるだろ・・・・」
”気配が”
台詞の最後は聞こえるか聞こえないか小さな声で。
ジェームスの言葉にセブルスは耳を峙てた。
しん、と耳を裂くような沈黙だけが辺りを支配して物音一つ聞こえない。
しかし、音無き世界の中、微かに感じた違和感にセブルスは眉を寄せた。
集中しなければきっと見逃してしまう位に小さく、けれど確実に漂う気配。
それは確かに廊下の先から徐々に近づいてきていて。
”気配が聞こえる”
文法的には可笑しいが(マグルのテストなら間違いなく不正解だ)
成る程ー・・・・そうかも知れない。
二人はそこで立ち止まり、廊下の隅に身を寄せ、気配の主が現れるのを息を殺して待った。