★喧嘩の後で★
 



「まったく腹が立つ!!」
 
片手に紙袋を持ちながら、ホグワーツの廊下をズンズンと歩いていく人物。
それは一部の生徒で悪名高い教師、セブルス・スネイプだった。
周りにいる教師や生徒達も驚きの表情でスネイプのほうを見ている。
まぁ、これだけ大声をあげて廊下を歩いていれば誰も驚かないのもおかしいのだが。
スネイプは怒りの表情を浮かべながら図書室のほうに向かって歩いてゆく。
図書室のドアの前に立つとスネイプは勢いよくドアを開ける。
 
「絶っっ対に!二度と!作ってなんかやらない!!!」
 
そう言うとスネイプは紙袋を机に叩きつけた。その衝撃で紙袋は大きく変形した。
だがスネイプは紙袋には目を向けず、そのままズルズルと床に腰を落とす。スネイプは小さく溜息をつく。
 
スネイプがここまで機嫌の悪い理由。
それは数十分前にさかのぼる・・・・。
 
 
 
 
ジリリリリリ・・・・
授業終了のベルがホグワーツ中に鳴り響く。
ようやく午前の授業が終わり、生徒達は昼食をとるため、教室を次々と出ていく。ス
ネイプもやっと休憩がとれるということでさっさと教室を出ていく。
スネイプは授業が始まる前にある紙袋を一緒に持ってきていた。それはお弁当。
スネイプが朝早く起きて手間をかけて作った弁当だった。
普段からあまり料理は得意じゃないスネイプにとって弁当を作るのはかなり困難だった。
しかも今日は自分の分だけじゃなく、とある人物のためにも作らなければならなかったのだから。
スネイプは弁当箱が二つ入った紙袋を持って待ち合わせ場所の職員室のほうに向かおうとしていた。が、その時。
 
「はい、どうぞ。よかったら食べてみてくださいねvvv」
「え、でも・・・」
 
何やら声が聞こえてきた。スネイプは見つからないようにサッと身を潜める。
そのまま聞き耳を立てていると、若い男女の声が聞こえてきた。スネイプにはその声の主がすぐにわかった。
 
「一度でいいから食べてみてください」
「しかし今日はちょっと・・・・」
 
スネイプの視線の先にはロックハートがいた。ロックハートの前には若い女性教師が立っていた。
後ろ姿なので顔はわからないが、なかなかの美人だったような気がする。
ロックハートの手には、綺麗に包まれた箱のような物があった。
スネイプにはそれが何なんだかすぐにわかった。
ロックハートが女性教師からもらった包みの中身が何なのか悟った瞬間、スネイプはどうしようもない怒りに駈りたてられた。
 
 
で、今に至る。
 
「私との約束はどうなるんだ・・・・くそっ!」
 
スネイプは誰もいない図書室で一人大声をあげた。スネイプの大声がシンと静まりかえった図書室に響く。
 
「まったく・・・こんな結果になるんだったら作らなければよかった・・・・・」
 
スネイプは机に置かれたくしゃくしゃの紙袋のほうに目を向けた。紙袋が異様に淋しく見える。
それは錯覚だろうか。スネイプはゆっくり目を閉じて、小さく溜息をつく。
 
「どーしようか・・・あのお弁当・・・・」
「何をどーするんですか?」
 
一瞬スネイプは凍りついた。そしてゆっくり声のするほうに目を向ける。
声の主はスネイプと同じように床に座り込み、きょとんとした顔でスネイプの顔を見ている。
声の主も。そして今、自分の前に座り込んでいる人物もスネイプが一番会いたくないロックハートだったのだ。
 
「何で・・・ここに・・・いるんですか・・・」
 
スネイプは怒りと驚きの混じった震えた声を出した。ロックハート目は見ていない。
今ロックハートの目を見てしまえば、何もかもが崩れてしまうような、そんな感じがした。
ロックハートは小さく微笑むと一言言った。
 
「・・・・貴方は何かあると必ずここに来ますから」
「・・・・何ですか、それ・・・」
 
スネイプは涙の溢れそうな目を押さえながら、精一杯の皮肉を言った。
だがそんな言葉が強がりな言葉くらい、ロックハートにはすぐにわかった。
ロックハートはスネイプの体を引き寄せると、ぎゅっと優しく抱きしめる。突然の声にスネイプは大きく目を開く。
そのせいで、スネイプの目からは大粒の涙が流れ落ちた。
 
「やっ・・・・何・・・するんですか・・・」
「・・・見てたでしょ。私がお弁当押し付けれるの」
 
スネイプはビクッと肩を震わせた。その動作で、ロックハートは確信した。
スネイプの髪を優しく梳きながらロックハートは小さく笑みを浮かべる。もちろんその笑みはスネイプには見えないが。
 
「・・・・妬いたでしょ?」
「ばっ・・・・妬くわけないでしょ・・・」
「言ってくださいよ。妬いたって。」
「んなこと死んでも言えませんっ!」
「お願いしますよー、スネイプ先生ー」
 

 
「・・・スネイプ先生が妬いたって言ってくれれば明日も私生きていけるんですけどねー」
 
スネイプは顔を林檎のように赤くした。もはやここまで。スネイプはそう悟ると、ポソッと呟いた
 
「・・・・妬きましたよ・・・」
「え?」
「だからっ!妬いたって言ったんです!!」
 
スネイプはもうやけくそだった。顔を真っ赤にして、目からは涙を流しながら。
恐らくスネイプが、ロックハートだけに見せる弱くて可愛いところ。
ロックハートはスネイプの頭をポンポンと叩きながらポソッと呟いた。
 
「・・・・あのお弁当どうしたと思います?」
「・・・そんなの・・・知りませんよ」
「返しましたよ。あれ。やっぱり頂けないって」
 
スネイプはガバッと顔をあげた。ロックハートはにっこりといつもの笑顔でスネイプを見ている。
 
「え・・・?もらわなかった・・・ってことです・・・か・・・?」
「だから今そう言ったじゃありませんか」
「え・・・何で・・・」
 
ロックハートは小さく溜息をついた。
 
「貴方以外の人なんかにもらいたくありませんでしたから」
 
スネイプは目を伏せた。もうロックハートの顔をまともに見れなかったのだ。
ロックハートはスネイプの頬にちゅっと優しくキスをするとゆっくり立ち上がった。
 
「これですか?お弁当」
「えっ!?あ、ちょ、ちょっと待ってください!!」
 
スネイプはもの凄い勢いで立ち上がり、机の上に置かれていた弁当の入った袋を取り上げた。
ロックハートはにっこり微笑んでスネイプに近づく。
 
「くださいよ、それ。せっかく作ってきてくださったんですから」
「い、いえ・・・しかし・・・」
「ください」
 
スネイプは観念したのか、くしゃくしゃになった紙袋をロックハートに差し出した。
ロックハートは両手で紙袋を受け取った。まるで壊れ物を扱うかのような丁寧な手つきで。
 
「じゃあ・・・ありがたく頂きますねvvv」
「勝手にしてください・・・もう・・・」
 
スネイプはただただ、顔を真っ赤にして俯くしかできなかった。
 
 
        
                                     終わり