「ボンチューさん!」
 
かんどれが走ってくる。これはいつもの光景。…何か違う。何だろう? あんどれがいないからか? 

「どうしたんすかー?」


 どうすればいいんだろう。解らない。解らない。
 
 
 何だ? この空白感は…。
 
 
「ボンチューさん?」

 はっと我に返った。ボンチューは頭をかいた。何でぼーっとしてたんだろう。よく解らない。横にはかんどれがいる。


「…あんどれは? いないぞ」

「だから今云ったじゃないですかぁ〜。あんどれは熱出したんで、ボンチューさんに移さない様に暫く会わないそうです」 
 缶の落ちる音が響いた。

「ボンチューさん?」

 かんどれも最近気になり始めた。ボンチューの様子が確実におかしい。しかもあんどれのことを話している時は特に。
あんどれと話をしている時は完璧に違う。一挙手一投足に妙に反応する。

「…あっ! あれ…?」

 ボンチューは落ちた缶から流れ出るジュースを見て慌てて缶を拾おうとかがんで手を伸ばした。
すると足元に落ちていたらしい硝子の欠片で指を切った。

「……ってぇ…」
「だ、大丈夫ですか! ボンチューさん」

 小さく切ったと思われた傷は意外と深く切れていて痛みもある。
当人のボンチューは血が流れている所をただじっと見ているが、逆にかんどれは大慌てで傷薬を探している。

「…あんどれは、大丈夫なのか?」

 ボンチューは小さな声で聞いた。かんどれは複雑な顔をした。

「……やっぱり、あんどれなんですね……」

「ん? 何だ?」

 かんどれの呟きは、幸か不幸かボンチューには聞こえていなかった。かんどれはやり切れぬ気持ちで答えた。

「あんどれの奴、今流行りのインフルエンザらしいです。あいつは結構丈夫だから大丈夫だとは思いますけど、死人とか出てるらしいですよ」

「死…人? 風邪で死ぬのか?」

 ボンチューは驚いた。その眼にはきっと自分は映っていないんだろう…と、かんどれは寂しい思いに埋まっていた。

「風邪とは少し違うらしいですよ。ウィルスがどうとか云ってましたけど…。
でも、 死なないにしても、熱が高くなりすぎたりすると馬鹿になっちゃうこともあるらしいですよ」

 ボンチューの顔から一気に血の気が引いたのは見なくても解った。

「馬鹿って…」

 自分が同じ状況になった時、この人はこんな顔をしてくれるのだろうか―――。
かんどれは自分とあんどれのボンチューの中での価値観の差は、きっとあいつの足元にも及ばないのだろうと思った。
 涙が出てきそうだった。

「治ったらボンチューさんのこと解らなくなってたりしたら、もう抹殺モンですよね」

 かんどれは己の嫉妬心の醜さに苛立った。ボンチューは何をするにも自分とあんどれを差別したりはしなかった。
なのに限りなく確信よりも可能性に近い考えを勝手に創り、そして嫉妬に狂っている。
「どうして自分じゃダメなのか」、「どうしてそんな顔を俺の前でするのか」…。

「そんなに心配なんですか…?」
「そりゃあ…」

 ボンチューはどうしていいのか解らない顔をしている。

「だったら見舞いでも何でもいけばいいじゃないですかっ!」

 かんどれはそのまま走っていってしまった。その場にぽつんと一人残されたボンチューは何でかんどれがいってしまったのか解らなかった。

「一緒にいきたいならそう云えばいいのに…」


 違うって…。


 全く鈍いボンチューであった。


 







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