セブルスは困っていた。
そして少々怒っていた。さらに正しく言うなら呆れていた。
「・・・・ったく・・・・」
 思わずため息をつき、ガックリと肩を落とす。
そんなセブルスのマイナス的感情を全て含んだ視線の先には、ソファーに大の字になって
至極気持ちよさそうに眠るジェームスの姿があった。
ちなみに、ここは正真正銘セブルスの部屋だ。
 数時間前遊びに来た(無理矢理押し掛けたと言った方が正しい)ジェームスは
セブルスがテスト勉強に勤しんでいる横で百味ビーンズで盛り上がり、本棚を物色した後、
ソファーに寝転がって高いびきをかき始めた。
一般的に夕方と称される時刻が過ぎても一向に目を覚ます気配が無い。
「オイ、起きろ・・・お・き・ろ!」
 セブルスは、もう何度目かも分からないくらい繰り返した台詞を再度、爆睡中の傍若無人男に投げかける。
それでも全く起きる兆しのないジェームスに、セブルスの何かが音を立てて切れた。
「いい加減起きろ−−−−−−−−−−−!」
 力任せにソファーを蹴り飛ばす。その衝撃で熟睡男は床に転がり落ちた。
「あイタタタタタ・・・・」
 ガツン、と鈍い音がして漸くジェームスが体を起こす。
まだ寝ぼけているのかきょろきょろと辺りを見回し、視界にセブルスを認めると、ふにゃりと笑って爽やかに言い放った。
「やあ、おはようセブルス今日も美人だね」
「(後半は無視)おはようじゃない。貴様、一体何時だと思っているんだ」
「あ、もうこんな時間?ははははは」
「笑い事じゃない−−−−−−−−−−−!!」
「でもさぁセブルス、起こすならもう少しソフトに優しく起こして欲しいなぁ・・・」
「五月蠅い。何度も言ったのに起きないお前が悪い」
「セブルスが”愛しいジェームス早く起きて”って言ってチューしてくれたら一発で飛び起きるのに」
「そうか・・・そんなに永遠の眠りにつきたいのか貴様は・・・・・」
「あーいや!ゴメンちょっとしたジョーク!・・・だからその毒薬しまって・・・」
 数ミリグラムで竜も殺せる劇薬を持ち仁王立ちになるセブルスに、流石のジェームスの笑顔も凍り付いた。
慌てて誤魔化し、何とか話題を変えようと視線を宙に泳がせる。
その時お腹がきゅるるるると鳴いて、昼から何も食べてないことを思い出した。
「腹へったなぁ・・・・」
「夕飯はもうとっくに過ぎたぞ」
「え、うそ。俺の分は?」
「残ってるはず無いだろう」
「えええええええええええええ!そんなーーーーー!」
「起きないお前が悪い」
「ちぇっ。なーセブルスちゃん、何か食べるモン無い?」
「じゃあ僕が作ってやろう」
「エッ!手料理!?」
 予想外の嬉しい展開(いろんな意味で)に、ジェームスの顔が輝く。
しかし現実とセブルスはそんなに甘くなかった。
「ああ。青酸カリ入りシチューとトリカブト入りソテーと・・・」
「・・・命に関わらないメニューがいいなあ・・・」
「そうか、それは残念だ。なら明日の朝食まで待つんだな。
一回食事を抜いたくらいじゃ死なないだろ」
 そう言ってセブルスは、さあ出て行けとばかりにドアを開け、床に座り込んだままの男を一瞥する。
ジェームスは渋々立ち上がり、ため息をつくと扉に向かってのろのろと歩を進めた。
「あ」
「なんだ?」
 セブルスは、突然声をあげ立ち止まったジェームスを訝しげに眺めた。
視線がかち合う。いきなり明るくなったジェームスの表情と、悪戯を思いついたときによく見せる笑いを含んだ瞳に
セブルスの背筋を嫌な予感が駆け抜ける。
 そしてその虫の知らせとでも呼ぶべき直感は、とても良く当たっていた。
「台所だ」
「はぁ!?」
「だーから!台所なら食べ物なんて腐るほどあるだろ」
「・・・忍び込むのか?」
「ピンポーン♪あったりぃ」
「・・・無理だろうそれは。台所へつながる通路は教師の部屋と密着してるし、よしんばそこを通り抜けたとて
台所には鍵がかかってるし」
「ま、通路は全くノープロブレムだな」
「何でだ?」
「じゃじゃじゃじゃ〜ん!!コレがあるのさ!透明マント〜」
 効果音(口頭)とウインク付きでジェームスが懐から取り出したのは、透明色の布。
蝋燭の灯りが反射してきらきら光っている。
「ははは!これを付ければまず見つからないだろ」
「あ、そ」
「・・・なんかセブルスちゃんがつれない・・・」
「お前みたいな阿呆にかまってるヒマは僕には無いんだ。行くならさっさと行け」
「えっ!一緒に行かないの!?」
「誰が行くかぁ!僕を巻き込むな!」
「お腹減ったんじゃない?そろそろ」
「お前が寝こけてる間に夕飯はキッチリすませた」
「じゃあ夜食に」
「いらない・しつこい・すぐ出てけ」
「リズミカルに冷たい・・・」
 しゅん、と俯き肩を落とすジェームスに少し罪悪感が芽生えたものの、悪戯に付き合う気は毛頭無かったし
テスト勉強もまだ終わっていなかったので、セブルスは渋るジェームスを無理矢理部屋の外に押し出した。
 しかしジェームスの呟きに、セブルスの扉を閉める手がピタリと止まる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・怖いんだ」
「は?」
 ジェームスは眉を寄せるセブルスをちらりと見て、聞こえよがしに大きくため息をついた。
「そうだよなー?センセーに見つかったりして怒られたりしたら嫌だもんなー。セブルスってば良い子ちゃんだし」
「あ?」
「まーしょうがないかー。度胸のない(強調)良い子ちゃんはあえて危険を冒す勇気なんて持ち合わせてないもんなー」
「なっ・・・・・」
「仕方ない。規則という鎖に雁字搦めにされそのぬるい位置に甘んじてる身動きのとれない弱虫な(強調)良い子ちゃんはほっといて
敢えてデンジャラスミッションに挑んでくるか!」
「・・・・・・・・・っちょっと待て!!!」
 怒りのオーラを身に纏ったセブルスが、肩をすくめ立ち去ろうとするジェームスを呼び止める。
・・・ああもう、なんて引っかかりやすいんだろう。意外と単純だセブルス・スネイプ。
計算通りと心の中でガッツポーズをしながら、ジェームスは勤めて無表情を装い振り向いた。
「ん?ホグワーツの模範生徒が何の用だい?」
「聞き捨てならんなその台詞群・・・」
「え〜?だって本当のことだし〜。行かないんだもんね、あ、でもいいよぉ無理しなくて。怖いんでしょ?」
「怖いわけあるか!なぁ〜にがデンジャラスミッションだ!そんなものは僕なら朝飯前どころか眠ってても遂行可能だ!」
「嘘だぁ〜?」
「嘘じゃない!」
「本当かなぁ〜?」
「本当だ!」
「じゃあ一緒に来る?」
「行ってやろうじゃないか!貴様こそ足手まといになるなよ!」
 今にも噛み付きそうなほど闘争心剥き出しなセブルスに、とうとうジェームスの堪えていた笑いが大爆発した。
「あはははははははは!いやぁー頼もしい!頼もしいよセブルス!」
「・・・・・・・・・え」
「じゃ、行こうか?」
 ”してやったり”とにっこり爽やかな笑みを浮かべるジェームスに、漸くセブルスは気づく。

・・・・・・ハメられた・・・・・・・