「お」
きゅるる、と胃が空腹の音を立てる。
ふと、夕飯を食べていなかった事を思い出し
二神はソファーに寝転がったまま目の前の背中に声をかけた。
「太郎ー、腹減った」
「自分で何か作って食べれば」
「えぇー?…作ってよー」
「嫌」
「…なに?まださっきの事根に持ってンの?」
「………」
無言で研究を続ける太郎を一瞥し、盛大な溜息をつく。
”それは絶交ボタン!押したら最後、キミとはもう組まない!”
”よし分かった!”
”押しちゃったよこの人!?”
「あんなんさー、ただのジョークじゃん。イギリス式ユーモア」
「冗談で滅亡させられてたまるか!」
「言っただろ?俺の夢が叶うまで人類は滅びないって」
「ただの結果論。根拠無いくせに」
「根拠はあるぜ?」
「何?」
「俺の言う事に間違いは無い!」
「…カルト宗教の教祖より説得力無いよ、二神君」
力無く呟き、肩を落とす太郎。
それを見て、二神がニヤリと口の端を吊り上げた。
「正直に言えよ太郎」
「何を」
「ショックだったんだろ?俺にあっさり切り捨てられたのが、さ」
「…別に?」
「またまたぁ、強がっちゃって」
「本当だよ」
強がりなんかじゃない。
だって、僕しかグラナダの謎を解き明かせる天才は居ないんだから。
…それに。
椅子をくるりと回転させ、二神の方を向く。
その瞳を見据え、太郎はキッパリと言い放った。
「キミの我が儘に付き合えるのは、世界で僕だけだ」
「あら、良くおわかりで」
まぁ俺も、お前が俺から離れるはず無いから押したんだけどね?
そう言って、二神は太郎の顔を覗き込むようにして悠然と微笑んだ。確信犯。
「…敵わないなあ、もう」
太郎は諦めたように溜息をつき、机に広げていた辞書をぱたりと閉じた。
「夕飯、何がいい」
「カレー。野菜たっぷりで」
「はいはい」
「大好き太郎くん!」
「うるさい」
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