図鑑を選ぶ,図鑑を読む


 あなたは自然観察をするとき,どんな図鑑を使っていますか?
 あなたは図鑑から,どんな情報を得ていますか?

 図鑑は,自然観察の強い味方です。
 わからないこと……多くの場合,観察した生き物の名前ですが……があったら,すぐに図鑑で調べることができれば,とても心強いものです。
 でも,最初のうちは,図鑑のどこを引いたらいいのか,全然見当がつかなくて,苦労したりします。「調べやすい図鑑」が欲しいなぁ,と思ったことはありませんか?私も図鑑を使い始めたときはそうでした。

 最近では,分類順ではなく,環境別,季節別にまとめて掲載し,検索しやすくした図鑑も多くなっています。野鳥図鑑は「分類順」が多いのですが,日本野鳥の会の「新・山野の鳥」「新・水辺の鳥」は,おおまかな環境別に2分冊になり,さらに,こまかく環境別に分けて掲載しています。また,見られる季節を小さなマークで表示してあり,「環境別・季節別」の思想が徹底しています。植物の場合,種類数が多いですから,季節ごとに分冊になったものも,よく見かけます。「高山植物」と言った,環境を限定した図鑑もありますし,最近では,「スミレ」「園芸植物」など,思い切って対象を絞り込んだ図鑑もあります。
 もっとも,「環境別」と言うのも,必ずしも良いとは限りません。ある程度,自然観察する目が育ってくると,初めて見たものでも,「○○の仲間」と言うところまで見当がつくようになります。そうなると,「環境」から引くよりは,分類ごとに掲載されている図鑑のほうが便利になります。観察のやり方にあわせて,図鑑も使い分けるほうが快適なのです。

 しかし,これらの図鑑は,掲載方法こそ多様化していますが,根本的なコンセプトは,あまり変わっていません。それは,「種を識別し,種名を調べる」ための図鑑であること。
 生き物の名前がわかること。それは,自然観察の大きな喜びの1つです。しかし,忘れて欲しくないのは,名前を知ることは,自然を知るための手段であって,それが最終目的ではないということ。……そうなんです。もともと分類学は,自然を理解するために生き物を分類し,名前を付ける学問なのです。その集大成とも言えるのが,図鑑なのです。
 しかし,図鑑で種名がわかったとしても,私たちは,その生き物について,どれほど理解しているのでしょうか?ほかの生き物との識別がわかり,その生き物につけられた名前がわかっただけなのです。それ以上の情報を図鑑から調べようと思うと,意外なほど図鑑は情報量が少ないことに気づくでしょう。

 先日,図書館の「子供室」で,子供向けの図鑑や,生き物の解説されている本を見てみました。正直言って,その質の高さに驚きました。子供向けの本ですから,そんなに多くの種類は扱えません。でも,1つ1つの種類について,あるいは「トンボの仲間」といった大きい括りで,その生き物の生態についても,非常に詳しい解説を,わかりやすい図や写真を使って記述しているのです。それは,生き物の生きる姿が,きちんとわかるものでした。
 なるほど,子供たちは自由研究や生活科学習などの場面で,「種の識別」以外の面に目を向ける機会が多いのでしょうね。
 どうやら,最近の大人たちは,識別に偏重した観察をしているようです。200種,300種の鳥を見たことを自慢するバードウォッチャーも多いようですが,数字は数字。数字を稼ぐことが「自然を知ること」と同じではないことは,容易に想像がつきます。識別にしても,もともと人間が自然を理解するために作ったものですから,「種」と言う考え方自体,そんなに絶対的なものでもないのです。実際,分類が変わったりすることも多いのですから。私たちは,もっと大切なものを,自然の中から学ぶことができるはずです。
 皆さんも,ぜひ,図書館などで,子供の自然観察のための本を読んでみてください。普段使っている図鑑では得られない,さまざまな情報が手に入ると思います。そして,自然観察から私たちは何を得るのかを考える良い機会になると思います。

 ひとつ,残念なのは,子供向けの自然関係の本や図鑑は,部数が出ないせいなのか,絶版になっているものも多いのです。絶版になった本は,図書館で見るしかありません。


(2000年1月9日記)

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