すぐ近くにある「野生」


 TVなどで野生動物の食う,食われるの世界を見る機会は多いと思います。TVの中なら,ライオンもチータも身近な存在かも。
 でも,私たちの身の回りには,そんな血生臭い「野生の世界」って,滅多にお目にかかりません。特に都会に暮らしていると,ネコがハトをくわえているのを見るぐらいかも知れませんね……。

 ところが,都区内の緑地で,こんなものを見つけました。


 カワラヒワの羽がたくさん落ちているのを見つけました。
 季節は晩秋。11月のことです。

 翼の羽がまとまってたくさん落ちているときは,外敵に襲われて犠牲になった場合が多いのですが,都会では,ハトがネコに襲われたり,巣立ちの時期に若い小鳥がネコやカラスの犠牲になる例は,よく見かけます。

 しかし,この羽を良くみると……



 軸の部分に,強い力でつぶされたあと。
 さらに,羽の一部も破損しています。



 どの羽も,同じような傷がついています。




 さらに,この羽には血もついていて,なかなか生々しい……


 この状況からして……

犯人はこいつだ!



 「現場」からそう遠くない場所で,オオタカの若鳥を見つけました。
 カワラヒワの羽軸の傷は,猛禽が獲物を処理するときに,くちばしで羽をつまんで引き抜いた跡だったのです。


 都会地でも,特に冬場には,猛禽類が越冬していることがよくあります。
 餌の少ない季節,街にはドバトと言う,比較的捕獲しやすい鳥がウロウロ歩いています。また,東京都心の場合,春になるとやって来て,春から夏の繁殖シーズンを過ごす「夏鳥」は,ツバメぐらいしかいません(注:ヒヨドリやムクドリも,季節によって個体群が入れ替わって,都内で繁殖している個体は「夏鳥」である,と言う話もありますが,同種の個体が通年見られるので,はっきりしたことが言えません)。一方,冬を東京で過ごす「冬鳥」は,かなりの種類数があり,冬になると都心でも,野鳥の個体数はかなり多くなります。それを知っていてやってくるのか,東京都心で冬場に,猛禽が見られる機会が増えます。

 「食う,食われる」の野生動物のきびしい世界が,都会の真ん中でも繰り広げられているのです。

 猛禽類が飛び回ると,カラスが集団でちょっかいを出しに集まってくる様子が,しばしば見られます(この行動をモビングと言います)。これを手がかりに,カラスが急に騒ぎ出したら,ちょっと注目して見ましょう。カラスほど黒くない鳥が,集団の中に見つかるかも知れません。オオタカなら,ハシブトガラスよりちょっと小さめですから,カラスの行動パターンを頼りにして探すと,意外と見つかるものです。

 都会に猛禽が住んでいる……意外かも知れませんが,鳥の好きな人の間では,良く知られていることす。
 もし,公園などで小鳥類の羽をたくさん拾ったら,タカのくちばしの痕跡があるかどうか,ちょっと気をつけて観察してみてください。


(2002年11月23日記)

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