自然観察で我孫子を歩く

〜その5:古利根の自然に遊ぶ


 我孫子市の北部にある,古利根沼。利根川の近くにある,三日月形の沼です。ここは,河川改修によって取り残された,昔の利根川の蛇行した流れの一部分。都市開発から取り残されたような,このエリアの,自然史を読み解きながら,自然観察を楽しんでみました。

ここをクリックすると地図が出ます。


 古利根への交通アクセスはあまり良くありません。最も近い場所まで行く公共交通手段は,天王台駅から1日に10本前後しか出ていない,阪東自動車の「大和団地」行きのバス。終点の1つ手前の「大和団地入口」で降りると,歩いて3,4分で着きますが,日中は2時間以上バスの出ない時間帯もあるので,事前に時刻を調べておくべきでしょう。成田線の「湖北」駅から歩く方法もありますが,こちらは駅から20分ぐらい。電車は1時間に2本程度なので,やはり時刻を確認しておいたほうがいいと思います。

 さて,今回は,「大和団地入口」から入り,寄り道しながらぶらぶらと,湖北駅へ歩いてみました。


 バス停から3,4分歩くと,水辺の景色がパッと広がります。ここが古利根沼。
 この写真は,東のほう(=下流の方向)を眺めています。ゆったりと水をたたえ,左にアーチを描いています。右側には斜面林があります。こちら側がカーブの外側ですから,かつての利根川の本流がぶつかって作ったであろう,段丘となっています。



 こちらは西側。沼がアーチ状に曲がっているのが良く分かります。遠くには常磐線の鉄橋も見えていますが,こちら側は開放感のある風景です。
 現在の古利根沼は,釣り人にはちょっと有名な場所で,平日でも釣りを楽しむ人が何人も訪れています。ボートを出して釣る人もいるためか,水鳥は少なめで,警戒心も強く,あまり近くでは見られません。それでも,冬場にはカモが何種類か見られますし,四季を通じてバン,オオバン,カイツブリなどがいるようです。


 対岸を望みます。実は対岸は,「茨城県取手市小堀」となっていて,行政上は,古利根沼の真ん中に県境が通っています。おそらく,河川改修前の,下総と常陸の境い目をそのまんま県境にしたのでしょう。現在はこの向こうに利根川の本流があるので,取手市小堀地区は,利根川と古利根沼に囲まれた「出島」のようになっています。対岸の取手市街との間には,市営の渡し船と,水戸街道の橋をぐるっと経由して走る連絡バスが出ています。
 水辺の木の芽吹きが綺麗ですね。ヤナギかな?



 水辺で,赤い鳥に出会いました。ベニマシコの群れです。写真が分かりにくくてすみません。左上の褐色のがメスで,右下の赤いのがオスです。
 日本で越冬するヒワの仲間の中で,特にオスの羽の色の赤い種類が何種類かあるのですが,野鳥の好きな人の間では,それを総称して,「赤い鳥」と呼んで,人気があります。

 それにしても,ここは静かです。車の音がほとんど聞こえません。近くに大きな道がないのと,周囲の林の遮音効果でしょうか。立ち止まると,あちこちから鳥の声が聞こえます。地面にいる土地が落ち葉をかき分ける音,カイツブリが潜った瞬間の,「ポチャン!」と言う水音も,遠くから聞こえます。人工的な音のほとんど聞こえない場所って,今ではけっこう貴重かも知れません。



 水辺の林には,ニワトコの花芽が膨らんでいました。……ブロッコリ?(笑)



 水辺にはハンノキもたくさん生えていました。
 ハンノキは2月に花をつけます。これは3月の撮影なので,ちょっと時期が遅かったかな。細長いブラブラが雄花,楕円形のシルエットは,去年の実です。
 ハンノキは水辺の木。こう言う木が生えていると言うことは,ここが本来の川辺であることを語ります。もちろん,河川改修後の利根川沿いには,大きな堤防が作られ,水辺に特徴的な植生など,まったく見つかりません。古利根は,河川改修のために本流から外れたために,本来の川岸の自然環境と風景を残すことになったわけです。



 水辺の林の下には,ユキノシタもたくさん生えています。これも湿っぽい土地を好む草ですね。



 河岸段丘の上は,雑木林とスギの植林が混ざった林。最近,「自然観察の森」としての整備が始まりました。とは言うものの,雑木林の下にはアズマネザサがびっしり茂っていたり,かなり林床が荒れていると言う印象。雑木林にしても植林地にしても,「二次林」で,人が手をいれて維持しながら,人が森を利用してきたわけですから,その環境を維持するには,それなりに手がかかるのです。園路の整備だけでなく,林の適切な管理もお願いしますね。



 雑木林の脇で,道に木の屑がボロボロ落ちていました。これ,もしかして,キツツキのしわざ?……見上げると,少し枯れかかったコナラの木。このぐらいの太さの木なら,アカゲラぐらいの大きさのキツツキが餌を取ったり,巣穴を開けるのにちょうどいいですね。……こう言う木を,「枯れかかって危ないから」と切り倒したり枝打ちしちゃうと,キツツキの餌場や住みかを奪ってしまいます。カブトムシやクワガタ,カナブン,カミキリムシなども,こう言う木を利用していますから,見た目は悪いかも知れないけれど,自然環境の豊かさを守るのであれ,切らないでおいて欲しいものです。……ガーデニングや造園の発想ではなく,自然環境維持の発想としては……の話ですけどね。



 湖北駅へ向かう途中,ちょっと寄り道。
 地形図を見たら,住宅地の裏手に谷戸らしきものがあったので,覗いてみました。
 どちらかと言うと,林に囲まれた田んぼ,と言った感じでした。田んぼの水も,しっかり抜いて乾燥できるようで,あまりジメジメした場所もなく,ちょっと期待はずれ。田んぼに水をはると,また状況が変わってくるでしょうから,田植えが終わった頃,また覗いてみようかな。



 田んぼではナズナが花盛り。
 良く見れば,けっこう綺麗な花でしょ。
 花弁が4枚。アブラナ科の花です。
 アップにすると,大根の花か,菜の花みたいな雰囲気になりません?


……さ,日も傾いてきたので,湖北駅へ帰りましょう。



☆おまけ(自然観察じゃないけど…)

 湖北駅のホームには,こんなもんがあります。
 背の高いベンチ?

 …これは,「かつぎ屋」のおばちゃんの荷物を乗せる場所。
 「かつぎ屋」とは,戦後の東京の物資不足の折,千葉や茨城の農家のおばちゃんが,行李に山のように自家製の野菜とか,お餅などの農産加工品とかを詰め込んで,自分の体重よりも重い荷物を背負って,朝一番の電車に乗って,都心に売りに行っていた,日帰りの「行商」です。1970年代までは,行商専用列車とか,早朝の電車に行商専用車両とか,用意されていて,大きな荷物を「どっこいしょ」と車内に持ち込む風景は,常磐線や成田線,京成線などでは,早朝の日常風景でした。
 おばちゃんが電車を待つ間,荷物を背中から降ろさずに,ちょいと乗っけて休むための台が,これなんです。
 今は「かつぎ屋」のおばちゃんも,ほとんど見かけなくなってしまいましたけどね……。

 戦後の東京の復興を支えた「かつぎ屋」のおばちゃんと,それを支えた駅の荷物置き場。どちらも,過去の風景となりつつあります。無くならないうちに,この辺りの風物として,紹介しておきます。


(2002年3月07日記)

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