国立天文台に,古き良き武蔵野を見る


 国立天文台は,三鷹市の郊外,野川の河岸段丘の上の高台にあります。
 大正時代にこの地に設置されて以来,日本の天文学研究の中心として,数々の成果を上げてきました。

 この三鷹キャンパスは常時公開されていますが,毎年1回,秋に「特別公開」が行われます。
 特別公開の日には,普段は立ち入れない観測施設の見学ができたり,いろいろな展示やイベントが盛りだくさんで,ちょっとしたお祭りのようです。
 三鷹キャンパスは,大正時代の武蔵野の自然環境を残す,貴重な緑地でもあります。
 晩秋の1日,天文台の見学と雑木林の散策を兼ねて,「特別公開」に行ってきました。

天文台の入口。調布からバスで15分ほど。普段は静かな緑濃いキャンパスも,この日はにぎやか。

今は使われていない,20cm屈折望遠鏡。「運転時計」による駆動,と言うのが歴史を感じさせます。100年位前の,カール・ツァイスの望遠鏡です。

 口径65cmの屈折望遠鏡。これも歴史を感じさせますね。屈折望遠鏡としては日本最大のものです。1926年,ツァイス製。これも数年前に退役し,現在は「天文歴史館」として,特別公開日以外の日にも見学が可能です。
 かつての天文台は,星の位置観測が中心で,これにより,正確な暦や地図の編纂に貢献する,と言う使命がありました。その後1950年代には恒星の分光観測が流行し,1960年に完成した岡山天体物理観測所も,当初の観測目的は,分光観測が中心でした。さらに現在は可視光線以外の分野の観測……電波天文学,X線天文学,さらには重力波の観測といった分野が開け,可視光線での観測の割合は,相対的には小さくなりました。現在の三鷹キャンパスにも,電波観測や重力波観測などの,最新の機器が次々と設置されています。
 なお,この65cm望遠鏡は,特に故障部分も無いそうなので,使おうと思えば,使えるんだそうです。(昨年,床を固定したので,使い勝手は悪くなっていると思いますが…)

 65cm望遠鏡の雄姿。上に乗っているサブスコープも,口径38cmあります。
 ドームの内装も,歴史を感じさせます。このドームの曲面,船大工さんの力を借りて作ったんだそうです。……そう言われると,船底みたいな……。

 こちらは太陽望遠鏡。ニコン製で口径20cm。特定の狭い波長域しか通さない特殊なフィルターで太陽面を観測します。ちょうど太陽活動の活発な時期で,大人気。この望遠鏡で先週撮影した太陽面のフレアのビデオを見せてもらいました。

 口径150cm赤外線シミュレータ。1994年の設置。国内では岡山の188cmに次いで,2番目の口径だそうです。
 この望遠鏡で,ハワイの「すばる望遠鏡」につける観測機器のテスト観測などをしていると言うことです。
 赤外線専用の望遠鏡だから,鏡面は金色にメッキされていました。アルミメッキよりも金メッキのほうが,赤外線の反射率が高いんです。

 これは一般公開用の,社会教育用望遠鏡。天文普及活動の拠点,とでも言いましょうか…。三鷹光機の50cm反射望遠鏡です。望遠鏡がどこを向いても覗く位置が変わらないように,クーデ焦点を使っていました。昼間はベガ(こと座の1等星)を見せていましたが,夜は月を見せていました。
 この望遠鏡は月に2回,公開観望会に使われています。お近くの方,いかが?

 キャンパス内には,こんな気持ちのいい森がたくさんあります。周囲の街の明かりを隔てる効果や気流を安定させる効果もあるんでしょうか?
 「自然観察派」にとっては,この森がまた,いいんです。花や虫はもちろん,冬にはいろいろな渡り鳥も間近に見られます。星のことは良く分からなくても,この森は楽しめます。季節を変えて,いろんな季節に訪れてみたい場所です。


(2001年10月29日記)

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