自助努力
花は,植物の生殖器官。めしべに花粉をつけ,種子を作るのが花の仕事。でも,花が独りでこの作業をするのではなく,虫や鳥,風などの力に頼る場合が多く,花粉を運んでもらうために,さまざまなデザインの花があるわけです。
中には受粉をしないで種子を作ってしまう花や,自分の力で受粉してしまう花もあります。
受粉をしない花の代表は,イチジクでしょうか。イチジクの花は,最初から果実の形をした「閉鎖花」です。ホトケノザや一部のスミレ類にも,花を開かずに種子を作る「閉鎖花」が作られることが知られています。タンポポの仲間にも,花はつけるけど受粉を必要としない「自捻性」の花をつける種類があります。
さて,これから紹介するのは,自分で受粉作業をする花です。
その花は,ツユクサ。初夏から初秋にかけて見られる,ごくありふれた花です。
身近な花のしたたかな生存戦略を観察しましょう。
ツユクサの花。見たことありますよね。
ツユクサの花は,朝開いて夕方にはしぼんでしまいます。
この短い時間に,いかに効率よく受粉させるか。
まずは,花のデザインに注目してみましょう。
下のほうに長く伸びたのが雄しべ,短い黄色いのが雌しべです。
突き出た雄しべは,花を訪れた虫のお腹に効率よく花粉をくっつけて運んでもらうことができます。また,雌しべは蜜のありかをふさぐように,長さの違うものが何本か出ていて,小型のハチやアブなどが蜜を求めて花にもぐりこめば,間違いなく雌しべに触ってくれます。
この花は,虫の行動パターンを上手く利用し,受粉を誘導するようになっているのです。
しかし,運悪く,虫が来てくれなかったら……
お昼近くなると,この花の「秘策」が始まります。
雄しべの先が,ちょっとカールしています。
さらに時間が進むと……
雄しべをクルクルっと巻いて,自分で雌しべにくっつけてしまいました。
花がしぼみかける頃には,しっかり受粉しています。
…だったら,虫なんかいらない?
そうでもないようです。
虫に花粉を運んでもらえば,他の株に咲く花の花粉をつけることが出来ます。そうすれば,遺伝子のシャッフルが起こり,いろんなパターンの遺伝子をもった植物を,次世代に残せます。これは生存戦略上,有利なことです。ツユクサの場合,自花受粉は,虫が来なかったときの切り札のようなものなのでしょう。
都会地では生態系が分断されたり,花や虫など,生きものたちの相互関係が切れてしまっている場合が少なくありません。特定の昆虫に受粉を頼っている花は,花粉を運んでくれる虫がいなくなれば,生きてゆけません。都会では,自捻性の花,自花受粉できる花が,より選抜されて生き残りやすい条件になっているのです。都市部のスミレを観察してみると,閉鎖花を作るタイプのスミレが多いことがわかります。都市部に多いといわれるセイヨウタンポポも,自捻性で,虫がこなくても種子が作れます。また,虫に受粉を頼らない,風媒花も,よく見かけます。
他の生きものとの共同生活が望みにくい都会地では,こうした「自助努力」タイプの植物が,たくさん見られるのです。
ツユクサの,したたかな一面が見えてきたような気がしませんか?
(2001年7月26日記)