光る花


 デジカメで花を撮影していると,どうしてもオート撮影では色がきちんと出ない花があります。
 この傾向は,春の花に多いような気もします。


 たとえばオオイヌノフグリ。青い色をきちんと出そうと思うと,自動露出よりかなりアンダーにしないと撮影できません。特に晴天時は,カメラの露出補正だけでは間に合わず,マニュアル露出をして撮影する場合もあります。上の写真も,花に露出を合わせてありますが,バックがかなり暗くなっているのがわかるでしょう。
 また,ちょっと古いタイプのデジカメで花を撮影すると,花がやや赤紫っぽくなる場合や,思い切り白飛びする場合もあります。



ミツバツチグリ。周囲に比べて,花が明るく写っていますね。


 最初のうちはCCDの適正露出の範囲の狭さかと思っていましたが,そうでもないようです。

 春の花,特に早春に咲く花には,やたらと花びらの反射率が高いのがあるらしい。
 典型的なのはフクジュソウ。花がパラボラのようになっていて,花の中心部の温度が,高くなるようになっています。フクジュソウは寒い時期から咲く花ですから,花の中心……そこには雄しべと雌しべがあり,子孫を残すために虫を呼んで受粉させなくてはいけない……を暖め,虫にとって居心地の良い場所を提供しているわけです。さらにフクジュソウは,太陽を追いかけ,太陽の方向に花を向けると言うワザまで持っています。花の中心が明るく,温かいということは,可視光線だけでなく,赤外線も反射している可能性が高いですね。
 さらに,昆虫には紫外線が見える種類が多い。紫外線に感度のあるカメラで花を撮影すると,可視光線では見えなかった,蜜のありかを示すマークが浮き出てきたり,紫外線を反射して目立っていたりします。人間には見えない,花から虫へのメッセージです。

 この話を聞いてピンと来たのが,オオイヌノフグリ。小さい花ですが,お椀形をしていて,キラキラと太陽の光を反射します。


 早春の光を浴びて光るオオイヌノフグリの花。気のせいか,多くの花が太陽のほうを向いているような……。


 そう言えば,タンポポの花も,かなり強く太陽光を反射して,デジカメで撮影すると白飛びが起こりやすい……。

 カントウタンポポ。花の部分がどうしても露出オーバー気味です。

 実はデジカメのCCDは,人間の可視光線以上の,広い範囲の波長の光を感じます。
 試しに,TVやビデオ,エアコンなどの赤外線リモコンの発光部をデジカメのモニターに映し出して,リモコンのボタンを押してみてください。特に旧型のデジカメの場合,かなりハッキリと光が点滅するのが見えると思います。カシオのQVシリーズだと,赤〜紫系統の色に見えます。……これがカラーバランスを崩したり,期せずして露出オーバーになる原因のようです。最近のデジカメは,CCDの前に赤外線カットフィルターを入れて,この不具合を修正しているものも少なくありませんが,多少は影響が残っているようです。赤外線をフィルターで完全に押さえ込むと,赤色に対する感度が不足する等の不都合が発生するのかも知れません。
 紫外線はどうでしょう?
 紫外線に関しては,たとえCCDに感度があったとしても,レンズが紫外線をかなり吸収します。しかし,完全ではありませんから,白飛びの原因にはなるでしょう。対策として,UVカット用のフィルター……ごく一般的な,スカイライト(1B)で十分です……をつければ,かなり改善します。

 花の特性とCCDの特性を理解することで,花の撮影にも失敗が少なくなりました。
 結果的には,デジカメが,花の生存戦略や,花と虫の関係を知るヒントを与えてくれたわけです。


 オオジシバリ。パラボラ形で光をよく反射する花は,いろいろあるようです。

 この特性を利用して,例えばモンシロチョウは雄と雌で翅の紫外線反射率が違いますが,それをデジカメで確かめるとか,そう言う利用法も考えられますね。ノーフィルターでモンシロチョウを撮影すると,雌のほうが明るく写ってくれるでしょうか? 上手く行くかどうか判りませんが,試してみます?


(2001年4月25日記)

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