樹皮に刻まれた歴史
山に登ったとき,木の幹にナイフで傷つけた落書きを見かけました。
よく見てみると,50年以上前の日付……。
傷ついた樹皮は,木が成長しても,元に戻りません。刻んだ人は,ほんの出来心だったのかもしれませんが,こんなにも長い間,残っているんですね。おそらくは,そこに名前を刻んだ本人が死んだ後も……。
「木の幹は歴史をも刻む」
これを,樹木の観察に利用する手もあるな,と考えて……
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明治神宮には,カラスザンショウ(カラスノサンショウ)の大木があります。
もう,樹齢はとっくに50年を越えています。
明治神宮が造営されたのが1920年。それ以降の境内の樹木の保存状態は,極めて良いのです。
このカラスザンショウは,毎冬,定例探鳥会の観察ネタになっています。
それは,葉っぱの落ちたあと(葉痕)の面白さや,冬芽の観察のため。
見てください,この,おどけた顔のような葉痕。
顔の上には,春に芽吹く準備をしている「冬芽」がついています。
これは枝の先端にある葉痕で,この冬の直前まで,葉っぱがついていた場所です。
いろいろな表情の顔。
ちょっと根元寄りには,もう1年古い葉痕があります。
1年目の葉痕は色白ですが,1年古い葉痕は,樹皮の色に近づいています。
……ここから根元まで8m。
50cmほど根元に向かいます。
枝の分かれ目に,数年前のものと思われる葉痕を発見。
枝が太ってきているせいか,少し顔が横に伸びています。
さらに根元へ遡ります。
太さ5cmほどの幹。
ここにも古い葉痕が見つかりました。
葉痕の大きさも,最新のものと較べると,2倍以上の横幅があります。
……ここから根元まで5m。
さらに太い幹へと,たどります。
だいぶ変形していますが,これも葉痕のようです。
幹の太さは10cmぐらい。
この太さなら,20〜30年ぐらいの年輪を持っていそうです。
……ここから根元まで3m。
これは,根元から1つ目の枝分かれの直後にありました。
葉痕の幅は数cmあります。
ほとんど樹皮の模様のようですが,確かに葉痕です。
数十年前,ここが枝の先端で,葉を伸ばしていたのです。
……ここから根元まで1.5m。
こうしてみると,カラスザンショウの樹皮は,そのまま樹の歴史を物語っているようですね。ある場所には繰り返し葉が出たのか,たくさん葉痕のある場所もありました。おそらく,枝先が折れたり切られたりして,何度も同じ場所から葉っぱを出す必要があったのでしょう。
実はもう20年ぐらい,この樹を観察していたのですが,こんなに古い葉痕が残っているのに気づいたのは,つい最近のこと。同じ場所を繰り返し眺めていても,常に新しい発見があるのは嬉しいことです。でも,考えようによっては,それに気づく目を持っていなかった自分の観察力を反省するべきなのかも知れません。もっと自然と仲良く付き合うための,知識と観察力を身につけなければ……。
(2001年2月06日記)