泥をこねるハチたち


 冬枯れの原っぱ。
 草はほとんど枯れ,虫の姿もほとんど見られません。
 でも,春から秋にかけて活躍した生きものたちの,「夢の後」が,ちらほら観察できます。
 ここには,確かに虫たちが暮らしていた,と言う確かな証拠。
 その1つをピックアップしてみましょう。


 トックリバチの巣。
 もちろん,「空き家」。
 この中で幼虫が育ち,羽化して出て行った穴が見えます。
 ハチは成虫で越冬するものが多いのです。

 ハチの仲間には,泥をこねて巣を作る種類が少なくありません。
 ハナバチの仲間は,竹のような中空の筒の中に,泥で仕切りを作りながら,子供を育てる部屋を作ります。
 ジガバチの仲間も,泥を巣材に使います。
 このほか,土に巣穴を掘って,子供のための餌を卵と共に埋めて蓋をするのも,一種の「泥こね」の巣でしょう。
 そして,トックリバチのような,見事な造形をするハチもいます。

 彼らに共通して言えることは,子供が育つための餌をあらかじめ巣に入れて,産卵して「封印」してしまうことでしょうか。外敵から守りやすい,親が生まれた子供の世話をしない,と言う特徴がありそうです。しかし,じゅうぶんな餌を確保しなければならなかったり,餌や幼虫自身が,巣の中の閉鎖空間で微生物の犠牲になるリスクもありそうです。

 サクラの木の幹に,こんなものを見つけました。


 これも既に「空き家」のようですが,スズバチの仲間の巣かな?
 トックリバチほど造形がこまかくありませんが,かなり丈夫な巣です。

 さて,お次は……



 なかなか器用な……。これもハチの巣です。
 街角で繁殖するハチの,生活の知恵?

 どうせ空き家なので,中身を割ってみてみることにしました。



 中にはいくつかの部屋がありました。
 右の部屋の住人は,蛹になって羽化したたようです。
 左の部屋からは,糞や抜け殻が出てきました。
 また,別の部屋には,ヨトウムシのような芋虫がミイラ化して入っていました。
 幼虫は部屋ごとに芋虫などの餌をあてがわれ,この中で芋虫を食べて育って,羽化していったのでしょうね。

 実はこの巣,ほとんど毎日通っている道なんですが,冬になって草が枯れて,はじめて巣の存在に気づきました。
 人通りの多い道端でも,見つかりにくい場所って,あるんですね。


(2001年1月11日記)

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