目立つ虫,目立たない虫


 美しい色彩のチョウは,私たちをも魅了します。チョウは視覚が発達し,美しい翅を羽ばたかせることで,オスがメスに強力にアピールする種類も少なくありません。交尾をして子孫を残すためには目立つ必要があるのです。
 ところが一方,目立つことは,外的に襲われる危険と背中合わせです。

 なぜ目立とうとするのか。なぜ目立たないようにするのか。
 虫の生存戦略と言う観点から,観察してみましょう。


 これはアケビコノハ。大型のガですが,翅を閉じると葉っぱそっくりの模様になります。しかし逃げるときは,黄色地に黒の,大きな目玉模様のついた下の翅を,見せびらかして威嚇すると言うワザも持っています。じっとしているときは目立たず,行動するときは目立つ。これが基本ですね。
 しかし,ガは大部分が夜行性。基本的には翅の模様が雌雄の出会いに役に立つ場面は,あまり考えられません。ガは,多くの種類が,匂い(=フェロモン)で,同種の異性を見つけているようです。昼間は隠れている必要がありますから,翅をたたんだときに,目立たないようになっているのが,夜行性のガの特徴とも言えます。


 シモフリスズメ。見事に樹皮と「同化」しています。

 じゃ,ガは夜行性だから,目はいらないんじゃないか?と言うと,そうでもないらしい。やはり,昼夜を認識して行動するためには,目は不可欠です。また,夜行性なのに,どうして灯火に集まるのか?と言う疑問もあります。ガは暗くなると目の色が変わります(カマキリなどもそうですね)。明るさによって目の内部の状態が変わるらしい。で,夜行性のガは,薄暮時〜夜のほうが,目が利くらしい。一方,昆虫の長い歴史に比べ,人工灯火のある時代なんて,ほんの最近だけのことです。かつては暗闇の中,せいぜい月明かりなどを頼りにしていたガにとっては,人工灯火は,飛行時の視覚ナビゲーションを狂わせる要因でもあるらしく,たとえば,月明かりに対して一定の角度を保って飛行すれば,ある方角に進めるはずなのですが,すぐ目の前にある人工灯火に対して,同じような「等角航法」をやってしまうと,灯火の周りをぐるぐる回るだけになってしまいます。

 話を昼間の虫にしましょう。


 ショウリョウバッタ。草と同化していますね。どこにいるか,わかりますか?
 ショウリョウバッタは育った環境によっては,褐色型も現れます。


 これが褐色型。枯れ草に隠れるなら,この色ですね。

 バッタやコオロギなどの直翅目は,一部を除いて,それほど飛翔力もありません。まずは環境に同化するのがいちばん。では,雌雄の出会いは?と言えば,鳴き声です。多くの直翅目で,雄が鳴き声で雌を呼んだり,雄同士で鳴きながら威嚇しあう等の行動が見られます。興味深いのは,土中にトンネルを掘ってモグラのように生活しているケラ。彼らは雌雄共に鳴きます。出会いのチャンスの少ない生活ですから,雌も存在をアピールする必要があるのでしょう。ケラの雄と雌は,鳴き声の高さの違いで,互いに異性を認識できるそうです。

 同じ直翅目でも,カマキリは,獲物に気づかれないようにする,と言う点から,草の中で見えにくい姿になっているようです。もちろん,彼らは鳴きませんけどね。


 逆に,目立つことで生き残りを賭ける虫もいます。
 その代表がテントウムシ。


 ナナホシテントウ
 多くのテントウムシは,目立つ色をしています。
 テントウムシは,捕まえると臭い液体を出し,鳥が食べてもまずいので,鳥はテントウムシを食べないように学習します。そして,わざわざ目立つ色で警戒を発して,食べられない虫であることをアピールしています。


 チョウやガも,幼虫の時代は,やわらかい体で動きが鈍く,大変危険な状況にあります。


 ナミアゲハの4齢幼虫。孵化してから4齢幼虫までは,鳥の糞のような姿です。


 ところが,最終齢である5齢になると,今度は目玉模様でアピールします。
 目玉模様は,本当の目とは別のところにあり,威嚇用です……「はったり」とも言えますね(笑)。
 さらに,アゲハの仲間の幼虫は,つの状の臭い突起を出すことで,外敵を追い払うと言うワザも持っています。



 これぞ究極の「武装幼虫」!
 クロシタアオイラガの幼虫です。

 イラガの仲間は,強力な毒針で武装し,迫力たっぷりの外観を持つものが多いですね。
 画像を見ただけで逃げ出したくなった人も,いるでしょう。
 イラガの繭も,卵形で硬くて,ちょっとやそっとじゃ割れないような,丈夫なものです。


 単に虫の姿や色を楽しむのもいいのですが,特徴ある色や形,行動などは,その虫の生きざまや,他の生きものとのかけ引きなど,さまざまな生存戦略を知る手がかりにもなります。
 ちょっと掘り下げて観察するだけで,いろいろな興味が広がると思いませんか?


(2000年8月17日記)

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