都心で希少な野草を探してみる


 春は野草の花の観察が楽しみです。
 珍しい花,美しい花を求めて,郊外に出かけたり,また,珍しい野草の保存をしている緑地などへ足を運んで観察する人も多いことでしょう。

 ちょっと意外ですが,実は都心でも,野草の探索ができるんです。

 都心には,古くから公園や緑地として整備された場所や,歴史のある鎮守の森,そして,皇居周辺など,長い間,大規模に土を掘り返すような工事が行われていない場所が,けっこう残っています。そういう場所では,造成後に外来植物が大規模に侵入することも少なく,タイムカプセルのように,昔の植生が残っていることがあります。
 逆に,新しい緑地……葛西臨海公園や夢の島周辺などを探すと,こちらは外来植物の宝庫で,まだ和名のついていない花が咲いていたりしますし,河原や線路沿い,幹線道路沿いなども,外来植物が多く見られます。

 こうした特徴を頭に入れて,都心の野草を探検しに行きましょう。

 では,日本在来の野草にこだわって,都心で撮影した植物を,ちょっと紹介しましょう。


 セイヨウタンポポ。花の裏側の「外総苞片」が反り返るのが特徴。


 カントウタンポポ。セイヨウタンポポと「外総苞片」を比べてみてください。これが関東地方にいちばん多い在来種です。都心では意外と多く,場所によっては半分以上,在来種が占めていることもあります。逆に郊外のニュータウンなどのほうが,在来種が少ないようです。


 オランダミミナグサ。どこにでも生える,外来植物です。ハコベに似た形なので,毛深いハコベだと思っている人もいるのでは?


 で,こっちが在来のミミナグサ。オランダミミナグサに比べて,花柄が長いのが特徴。この花は,意外と見つかりません。東京では「絶滅危惧種」に入れてもいいんじゃないかと思えるくらい,希少です。数年前,この花を明治神宮で見つけたのですが,某宗教団体の奉仕団の除草作業により,見当たらなくなってしまいました。都心では,けっこう貴重な存在だったのに……。都心で希少な在来植物を維持してゆくのは,やはり,大変なことなのですね。


 おなじみ,オオイヌノフグリ。


 オオイヌノフグリより少し遅れて,タチイヌノフグリも咲き出します。
 この2種は外来植物。この他にも,この仲間の外来植物は,何種類か,都内や東京近郊で観察できます。


 一方,こちらは在来のイヌノフグリ。花はピンク色です。首都圏ではレッドリスト……絶滅の恐れのある希少な生物のリスト……にも掲載されています。しかし,私の経験では,探せば都心でも,けっこう見つかります。しかし,決して多くはありませんが……。


 ヒメオドリコソウ。開けた土地に普通に見られる外来種です。


 これが在来種のオドリコソウ。ヒメオドリコソウよりもはるかに大きく,雑木林の縁のような,半日陰に生えていました。これを見ると,名前の由来の「踊り子」の意味が良くわかりますね。オドリコソウも,都内ではほとんど見られません。
 よく,外来植物の侵入によって在来植物が追い払われてしまった,というような話を聞きますが,本当は,在来種が外来種に「負けた」のではなく,在来種の生える環境がなくなってきたことが,おもな原因です。いくら緑地を整備しても,本来,日本にあった生態系をきちんと復元してやらなければ,希少になってしまった在来植物が戻ってくることは,決してありません。公園や河川敷に花を植えても,「自然」ではないんですよね。強いて言えば「花壇」なんでしょうね。なまじ手をかけるより,ほったらかしたほうが,良い「自然」が保たれると言う,なんとも皮肉な話です。


(2000年4月9日記)

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