「お気軽ソーラースコープ」 ……本当は日食観測用に作ったんだけど……



 2009年7月22日。
 日本で見られる,久々の皆既日食。
 わが町では7割ちょっと欠ける部分日食が見られる…はずだったのですが,当日は朝から雨でした。
 チラリと雲間から日食が見えた地域も多かったのですが,こちらはベタ曇り。すっかり天候から見放されてしまいました。

 でも,ちゃんと準備はしていたのです。
 地元の博物館で日食観望イベントもやろう,と言うことになって,望遠鏡の操作に慣れていないスタッフでも気軽に使えて,しかも安全に,たくさんの人に太陽像を見せることの出来るソーラースコープを作って,日食に備えていました。

 残念ながら,せっかく作ったソーラースコープで日食を捉えることは出来なかったわけですが,もちろん,日食が終わってからも,黒点観測に気軽に使えるよう,しっかりデザインしましたから,今後,この望遠鏡の活躍に期待することといたしましょう。

 「ソーラースコープ」と言ってもたいした物じゃありません。
 市販品をベースに安い材料を買い集め,安価に作っています。
 これから,この手の道具を作る人の参考になることを期待しつつ,紹介しましょう。


安く,使いやすく,安全に

 ふつうに白色光で太陽観測をするなら,正攻法に行くとしたら,屈折望遠鏡に太陽投影板を買い足すのが,手軽だと思います。でも,学習用の望遠鏡でも無い限り,最近は「太陽投影板」をオプションで付けられる望遠鏡って,そんなに多くないんですよね……それに,太陽を直接見てしまう危険もある。

 太陽を直視できない構造を持った学習用の太陽望遠鏡としては,フランス製のソーラースコープが秀逸です。

http://www.tvj.co.jp/200sscope/sscope.html
http://www.astroarts.co.jp/shop/showcase/solarscope/index-j.shtml

 リンク先を見ると分かりますが,この光学系は,対物レンズが口径4cmの屈折系ですが,アイピースの代わりに副鏡を使って拡大像を得ていて,対物レンズのすぐ裏側で,ちょっとオフセットした位置にスクリーンがついている,ある種の「軸外し光学系」となっています。セット全体はボール紙で出来ていて,とても軽量。フリーストップで動くようになっています。

 日本で買うと約1万2千円。

 高いような,安いような……


 そこで,自作を考えることにしました。
 博物館での後悔イベントに耐えられる昨日と安全性を,安価に実現させるのが目標。
 材料を集め始めたのが日食の3ヶ月前。
 5月の連休中に集中的に工作して,あっさりと完成しました。


 では,完成品を見てゆきましょう。



 全体像です。

 光学系は,星の手帳社の「10分で完成!組み立て天体望遠鏡」の35倍バージョンを,そのまま使っています。
 それに固定式スクリーンを付けてドブソニアンタイプのフリーストップのマウントを与えた,と言う構造です。
 写真では想像しにくいと思いますが,全高50cm程度の,コンパクトなものです。
 軽すぎて風邪に弱いのが,唯一の弱点。

 スクリーンを固定にしたことで,セットアップが容易になり,思い立ったらすぐに観測できます。
 また,アイピースとスクリーンの間隔が狭いので,ここに頭を突っ込んで目を焼くようなことは,絶対に起こりません。スクリーンに投影される像は直径6cm。対物レンズの口径(4cm)より大きいので,直射日光よりも光が弱くなっていることになります。

 但し,望遠鏡本体はプラスチック製ですから,念のため,あまり長時間の連続観測は,やめておいたほうがいいと思います。また,常に視野の中心に太陽像が来るように調整してやって,鏡筒内のどこかが過熱しないように配慮してやる必要もあります。
 今のところ30分ぐらいぶっ通しで観測しても,何ともありませんが,やはり,メーカーの想定した使い方ではないので,その点は十分に注意してください。





 望遠鏡は遮光板の後に貼り付けた塩ビ管の中で固定されています。





 望遠鏡の固定方法は,元々この望遠鏡についているカメラネジで仮止めし(左下のネジ),遮光板のすぐ後ろに付けている光軸修正ネジ3本を使って,投影位置を調整して,しっかり固定します。いちど固定すれば,そう簡単にずれるものでもありません。
 ここに光軸合わせの仕掛けを付けたのには,理由があります。それは後ほど…。




 架台の水平回転部です。
 仕掛けは全く,ドブソニアンと同じ。回転軸は6mmのボルトで,締め具合でテンションを調整します。ボルトには「ノブスター」を付けて,操作性を良くしてあります。底板は塩ビ板と「カグスベール」の摺り合わせで,滑らかな動きを得ています。
 板は安価で狂いの少ない,MDFボードです。





 垂直回転軸も6mmボルトにノブスターを被せています。このネジは,テンション調整と架台の外れ止めぐらいの意味しかなく,上下方向の動きについては,内側に見えている木の円盤の回転で決まっています。円盤は鏡筒とスクリーンを支えているフレームのほうに接着してあって,ドブソニアン架台のような動きを実現させています。
 ちなみにこの円盤,100円ショップで売っていた,木製の鍋敷きです。材はゴムの木で,堅くて真円度も上々です。





 円盤を外し,内側から見ると,こんな感じ。
 2つ貼ってある木片の上に敷居スベリが貼ってあって,この上で円盤が回転するだけ。ボードのほうにも,摩擦軽減のために敷居スベリを貼っています。




 正面から見ると,遮光板の隅に直径2.5mmの穴が……そして,スクリーンの端には水色のシール。
 これがファインダーです。

 相手は太陽ですから,ファインダー用の小望遠鏡は使いません。望遠鏡の視野に導入する際も,安全に,かつ簡単に出来るように,照準式の仕組みを考えてみました。遮光板の穴を通った太陽の光が,スクリーンの水色のマークに当たるようにすると,本体が太陽を捉えてくれるのです。
 そのために,本体に光軸調整ネジが必要だった……普通の望遠鏡は,本体に合わせてファインダーを動かして調整しますが,このソーラースコープは,ファインダーが固定式で,それに合わせて本体の光軸を調整する仕組みなのです。




 スクリーン側にあるマーカーは,こんなものです。
 簡単な仕掛けですが,実際使っててみると,スイスイ導入できます。


 さて,気になる材料費ですが,望遠鏡本体が2940円,残りの材料は,ほとんど100円ショップで調達し,おおよそ2000円少々。つまり,合計約5000円の材料費で作りました。


オプションもあります

 もともとが公開観望会用の道具としてデザインした望遠鏡です。
 観望会向けのオプションの道具も作ってあります。

 このスクリーン部分に,乾式ジアゾペーパーを置いて,その場で太陽像を焼き付けることが出来るのです。
 日光写真のような感覚で,太陽像を焼いて,見学者に「お持ち帰り」をしてもらうことが出来ます。
 そのジアゾペーパー用のホルダーを10セットほど作ってあります。


 これを見て,自分も作ってみたいなと思った方へ。
 太陽観測は常に危険を伴いますので,工作はあくまでも自己責任で,また,使用する際はしっかり安全管理方法を学んでから使ってください。



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