「ちょびボーグ」


「ミニボーグ」登場

 2002年8月,トミーテックのボーグ(BORG)シリーズに「ミニボーグ」登場。
 2002年6月のJTBショーで初めて試作品を見ました。
 対物レンズは5cmF5アクロマートレンズ。大型ファインダーにもなるし,2インチサイズのアイピースをつけて気軽な低倍率の天体望遠鏡としてもOK。あるいは大型望遠鏡のガイドスコープやサブスコープにもなるし,その気になれば正立プリズムをつけてフィールドスコープにも変身したり,カメラをつけて望遠レンズになったり,いろいろ遊べる小型望遠鏡です。
 この自由自在なレイアウトを可能にしたのが,ドローチューブ。従来より売られていた「ミニドローチューブ」と言う,後端にボーグのパーツが標準装備するM57ネジが切ってある,コンパクトなドローチューブに,新たに三脚台座をくっつけたデザインのものです。M57ネジを装備することで,従来より販売されている,M57ネジから取り付けられる膨大な種類のボーグのパーツを,余すところ無く利用できるわけです。
 5cmF5で定価19800円。この値段なら人気出るでしょうね。

 しかし……

 5cmアクロマートレンズは,ちょびっと物足りない。
 自作すれば,このクラスの「お遊び望遠鏡」って,材料費は1万円もかからない。
 でも,ボーグのパーツが使えるのは魅力がある。

 ……と,さんざん考えた結論は……
 ミニドローチューブを標準装備した望遠鏡」を自作すればいいじゃんか。
 自作好きとしては,5cmF5アクロマート鏡筒を買うよりは,自分の好きなレンズを選んで,作る過程を遊んたほうが,絶対に面白いと思ったわけです。

 …と言うことで,思い立ったら,すぐ作ります。


対物レンズはどうする?

 この望遠鏡の目標は,ミニボーグの使い勝手で,ミニボーグよりも良く見えること。
 そこで,対物レンズは口径6cmとします。
 これ以上大きくしたら,「本家」のボーグ76などと変わらなくなってしまうので,あくまでもミニサイズにこだわります。

 対物レンズは,ミザールの放出品の6cmF4を1200円で入手。
 あの,「小型6cm屈折」と同じレンズです。

 あとは,ミニドローチューブを接続するための鏡筒を作るだけです。


鏡筒を作る

 筒は軽量で加工が楽な塩ビ管です。水道管などに使うVU65と言う規格のを使いました。これは内径が67mmほどあります。レンズの直径は62mm(実寸)ですから,塩ビ管の内側に0.5mm厚の黒い塩ビシートを積層し,内径を狭くします。VU65よりひと回り小さい,VU50管用のジョイントが,ちょうど内径60mmだったので,これを薄い輪切りにして艶消し塗装し,レンズ押さえにします。あとは艶消しと固定を兼ねて,植毛紙をベタベタ貼って,対物部が完成です。


 対物部。遮光処理が丁寧でしょ。

 このVU50ジョイント,内径が60mmと言うことは……ボーグの「M57/60延長筒」の外径にもピッタリです。VU50ジョイントを,さきほどのVU65管に接続します。VU50ジョイントは外径が65mmぐらいなので,VU65管の内径との差は,塩ビシートを巻いて埋めます。VU50ジョイントにボーグの延長筒を押し込むだけで,あっさりとM57ネジのついた鏡筒が出来上がってしまいました。


 「M57/60延長筒」(左)と「ミニドローチューブ」。
 この望遠鏡の接眼部の基本となるユニットです。



 鏡筒となるVU65管にVU50ジョイントをはめ込みました(塗装前です)。
 隙間は黒い塩ビシートで埋めています。



 ここに「M57/60延長筒」をはめ込むと,ぴったり納まります。
 ミニドローチューブをねじ込めば,「ミニボーグ」と同じシステムが使えます。


 植毛紙と艶消し塗料で内部の艶消しを入念に行い,外装は,やっぱり白(=ミニボーグと一緒)にしてみました。

ディテールにこだわる
 フードとキャップにもこだわってみました。
 フード部はVU65用の「掃除口キャップ」を少し切り詰めて加工し,内側を艶消しにして,鏡筒に接着して,一体型にしました。フード先端を面取りし,ミニボーグ風にしています(笑)。


 本家「ミニボーグ」はフィルター用のネジが切ってあります。
 こちらはキャップが豪華(?)です。
 ミニドローチューブにフィルターがつくので,
 フィルターをつける場所を心配する必要はありません。


 スクリューキャップをねじ込めば,ホコリ対策は完璧ですし,フード内側にネジ山がありますから,迷光を抑える効果も期待できます。

ボーグのパーツをくっつける!

 さて,これで鏡筒本体の工作は完了です。「M57/60延長筒」+ミニドローチューブをつけた状態で重量500g。これが基本セット。ミニドローチューブ後端のM57ネジから,さまざまなボーグのパーツを取り付けて使います。


 本体だけだと,対物セルにしか見えないですね。
 鏡筒部(白い部分)の全長は12cmです。

 鏡筒の長さは,考え得る組み合わせの中で最も光路消費の大きいものを基準としています。直進ヘリコイドS+地上プリズム+焦点位置が一番前に来るアイピースの組み合わせで,無限遠にピントが出る状態を最短としました。これより光路消費の少ない組み合わせ…天頂プリズム使用時など……では,ミニドローチューブを引き出して対応します。さらに,直視にする場合,ドローチューブの引き出し量では足りませんので,「M57/60延長筒」を,継ぎ足します。……このあたり,とってもボーグ的な使い方です。



これが「フィールドスコープ仕様」。
ミニドローチューブの後ろは,「M57→36.4mmアダプター(NEW)」,直進ヘリコイドS,45°正立プリズム,アイピース。
ドローチューブの引き出し量が最短となり,コンパクト。


 多用途で,いろいろ遊べる望遠鏡です。延長筒から後ろは,全くボーグシステムと一緒です。ボーグのコンセプトと使い勝手をちょびっと拝借し,対物レンズはミニボーグよりもちょびっと大き目。個性があるような無いような……でも,使いやすいからいいか。
 ……「ミニボーグ」と似て非なる「ちょびボーグ」と言ったところでしょうか(笑)。

 とりあえず,「ミニボーグ」の発売日よりも早く完成したぞ……。


望遠鏡は使い勝手……だけど……

 使い勝手の良い望遠鏡は楽しい。なにより,稼働率が上がる。……あえて大きい望遠鏡に手を出さない,私なりの「望遠鏡哲学」です。道具を持つ楽しみ,道具をいじる楽しみも,本当は捨て難いものがあるんですが,仕事や子育てに追われて,限られた時間を有効に楽しむには,思い立ったときにすぐ使える望遠鏡がベストです。この機動力を損なわない範囲で,最大限の口径を選びたいのですが,平日の夜にちょびっと使う望遠鏡,と考えると,私の場合,6〜8cm級の短焦点屈折,となります。
 ミニボーグは面白い望遠鏡です。遊べます。私の「望遠鏡哲学」に合います。……でも,口径5cmのアクロマートは物足りない(EDレンズならもっと魅力を感じるんですが)。このクラスの望遠鏡だったら,自作しても面白いじゃないか……と言う思いが強くなります。
 そんなこんなで,ミニボーグの遊び心そのままに,ちょびっと口径をアップした望遠鏡が出来上がったわけです。口径6cmは,私なりの,口径に対する欲求と使い勝手の妥協点,と言うことです。これからいろいろ遊べそうで,楽しみです。

 ひとつ問題があるとしたら,既に,同じレンズを使った望遠鏡を1台作ってあること。これから,どうやって使い分けてゆくか,あるいは前作は手放すか,思案のしどころです。


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