天文ファンの密かなる楽しみとしての自作顕微鏡


ロバート・フックの顕微鏡

 学研の「大人の科学」シリーズに,「ロバート・フックの顕微鏡」があります。
 現在の複式光学顕微鏡の始祖とも言える,ロバート・フックの顕微鏡。なかなか魅力的なキットです。さっそく買って,作ってみました。

 しかし,見え味は今ひとつ。確かに,レーベンフックのガラス球1個で出来た単式顕微鏡よりは,使いやすいのですが,本とセットで1600円の品物ですから,光学性能など,望むべくもありません。レーベンフックの時代には,レンズ研磨技術も未熟だったので,複式顕微鏡よりも単式顕微鏡のほうが高性能だったと言います。
 まぁ,仕事でプロ用の100万オーバーの顕微鏡を経験しているので,なおさら,見え味に不満を感じたのも事実ではありますが……。


 望遠鏡と顕微鏡は似ている,と言います。実際,顕微鏡用のアイピースを望遠鏡に転用しても,なかなか高性能だったりします(プロ用顕微鏡のアイピースには,天体用アイピースでは高価なことで有名な「ナグラー」よりも高いのがゴロゴロ存在します。しかも,プロ用は双眼装置が常識ですから,アイピースも2本ずつ……)。

 顕微鏡の光学系は,言うなれば,ごくごく近距離にピントの合う望遠鏡みたいなものです。
 天文ファンで望遠鏡を所有していれば,アイピースは必ず何本か持っています。
 対物系を工夫すれば,「大人の科学」よりも高性能な複式顕微鏡が,すぐに作れそうです。

 ……と言うことで,実験開始。


対物レンズが決まれば,完成したようなもの

 要するに,近距離にピントの合う望遠鏡を作ればいい,と言う単純な発想です。
 双眼鏡ジャンクの対物に,度の強いクローズアップレンズを組み合わせれば,10cmぐらいの距離でピントが出ます。ワークディスタンス10cmの顕微鏡って,あまり現実的でないかも……もっとも,双眼実体顕微鏡が,このぐらいです。手術用の双眼実体顕微鏡だと,もっと長いのもありますが……。大き目の対物レンズを用意して,その直後に薄い三角プリズム(Kenkoのバリミラージュをバラして使えばOKかな?)を挟んで像を2つに割り,正立系と接眼を2つ用意すれば,立体視の出来る双眼実体顕微鏡が作れそうです。でも,それはちょっと予算がかかるし,工作精度に自信もないし……やはり,複式顕微鏡の基本を押さえておきたい。

 そこで思いついた方法が,これです。



 顕微鏡本体。
 塩ビパイプの継手(VP25ジョイント)です。内側に艶消し処理をして,両側に4mmのタップを立てて,ストッパー用のネジを付けただけ。この継手の内径は,おおよそ32mm。アメリカンサイズの天体望遠鏡用アイピースが上手い具合に収まってくれます。




 ……対物レンズは,アイピースをリバース(逆付け)することで,済ませました。
 それなりにアイレリーフの長いアイピースでないと,ワークディスタンス(=レンズと観察対象の距離)が取れなくて,使いにくいので,プローゼル25mmを使用。廉価品でアイカップが無い点が,この用途には利点だったりします。
 接眼レンズは,見やすさで選んで,LV20mm。

 実はこれで倍率は200倍を少し超えます。
 複式顕微鏡の倍率は,対物レンズと接眼レンズの焦点距離と両者の距離から求めることが出来ますので,調べてみてください。2つのレンズの間の距離を長くすると倍率が高くなります。

 性能は「大人の科学」をはるかに凌ぐもので,一般的な用途には申し分の無いものです。さすがに,きちんとした光学系です。しかし,この倍率だと,手持ちで観察するのは大変。やはり,筒を固定して,合焦装置を作ったり,標本を固定するステージとか,作りたくなります。今回はとりあえず,「実験」と言うことで,ここまでにしましたが,その気になれば,けっこう本格派の顕微鏡が作れそうです。……もっとも,LVアイピース1本の値段で,安い学習用顕微鏡セットなら余裕で買えるのですから,価格的には,あまりメリットがありません。既に望遠鏡やアイピースを持っている人のお遊びとして,顕微鏡を作ってみる,と言うのであれば,おすすめできますが,顕微鏡を作るために,わざわざ天体用のアイピースを購入するようでは,あまり意味が無いようにも思います。




 今回,実験に使用した材料はこれだけ。
 私は既にアイピースを持っていますから,材料費は塩ビジョイントとネジ2本,艶消し塗料少々だけで,合計100円もかかっていません。

 アイピースを変えると,倍率や見え味も,かなり変わりますので,たくさんアイピースをお持ちの天文マニアは,あれこれとアイピースを交換して遊んでみては,いかがでしょうか?


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