レアなアイピース2題


その1:「ケーニヒ」って,知っていますか?

 ロシアやアジアの面白そうでリーズナブルな価格の光学製品を輸入販売している笠井トレーディング。この会社,普段は通販専門なのですが,夏と冬に「笠井トレーディングフェア」という,展示即売会を開催します。このときには,カタログに出ている品物の実物を触ることが出来たり,カタログではお目にかかれないようなジャンク品が格安で放出されたりするので,たくさんの光学マニアが集まります。他の望遠鏡ショップではお目にかかれないような品物がずら〜っと並びますから,それだけでも圧倒されてしまいます。

 さて,マニアックな品物は買うのには勇気が要りますが,国産には無い,面白そうな光学機器の見物と安いジャンクパーツでもあれば買おうかな,と言う低い志(笑)を胸に抱きつつ,2001年冬のフェアに行ってきました。
 会場に着いたのはもう,とっくにお昼を過ぎた時刻。ジャンクパーツのコーナーも,目ぼしいものは大体さばけていたようですが,残っていた素性不明の「SUPER10」と言う謎のアイピースを見つけました。
 笠井社長に聞いても,レンズ構成不明とのこと。持っていた6cm短焦点屈折(これで午前中,鳥を見ていた…)に装着してみると,そこそこ良く見えるので,買ってみました。
 1600円ナリ。

 家に帰ってから調べてみると,視野レンズは2枚玉,眼レンズはどう見ても1枚。
 外側のレンズ面は前も後ろも平面。
 ……どうやら,ケーニヒ式のレンズ構成のようです。

 焦点距離は10mm。アイピースの側面にはLong Eyereliefと書いてありますが,思ったほど長くありません。
 でも,けっこう広角。
 星を見て実測したところ,見掛け視界は60°強ありました。
 でも,案外,8cmF5と相性が良く,40倍でも星像に大きな破綻もありません。

 ……しかし,いまどき,国内の望遠鏡メーカーでケーニヒをカタログに載せているところ,あったかなぁ??
 かつて,ケーニヒタイプのアイピースは双眼鏡のアイピースにも良く使われていましたから,もともとFの短い対物レンズと相性が良いのかも知れません。もちろん今でもケーニヒ,ないしはそれに近いレンズ構成のアイピースを使った双眼鏡は,少なくありませんから,双眼鏡の世界では現役選手です。。しかし,天体望遠鏡用アイピースに関しては,少なくとも国産のメジャーな会社のカタログには,「ケーニヒ」と言う文字は見当たりません。
 
 ……そのぐらいの「珍品」になっているんです。今は。

 ここ10年か15年ほどの間に,望遠鏡用アイピースの世界も,様変わりしました。20年前のスタンダードだった24.5mm径スリーブ(ツァイスサイズとも呼ばれます)はほとんど無くなり,31.7mm径スリーブの「アメリカンサイズ」が主流になりました。アイピースのレンズ構成も,新設計のものが続々と登場し,いまやトラディショナルな設計であるケルナーやハイゲンスも珍しくなっています。
 ケーニヒも,ほぼ1世紀前の設計ですから,トラディショナルなデザインと言えます。
 こうした,シンプルで安価に作れるアイピース,最近,少なくなっていますね。


 いまどきの,古典的設計のアイピースの生息状況を俯瞰してみましょう。

ハイゲンス&その改良版のミッテンゼーハイゲンスは,太陽観測用などのために24.5mmスリーブの製品が少数ラインナップされるのみ。
ケルナーも,安価な望遠鏡の付属か,十字線入りアイピースなど,特殊用途中心で,主役の座は降りている。
ケーニヒは国内絶滅でしょう。まだ輸入品は在るようですが。
モノセントリックラムスデンは,名前も見ませんね。実はルーペにラムスデン構成のものが散見されます。
・広角がウリのエルフレは,新設計のワイドアイピースに負けて,瀕死状態。
オルソスコピックは,アッベ式とプローゼル式の2種類がありますが,アッベは製造工程が難しいため,コストダウンの波に勝てず,絶滅危惧種。プローゼルはまだまだ現役ですが,アジア諸国製の安価なプローゼルが増えていて,かつての「高級アイピース」の面影は無くなりつつあります。

 …古典的設計のアイピースは,生き残りが大変なようですね。
 このタイプのアイピースは,ゼロから新たに設計をしないで済むので,製造コストの安いアジア諸国製品には価格面でなかなか勝てないようです。アジア諸国にすぐに真似の出来ない高級アイピースを作ることに,日本の望遠鏡メーカーは生き残りをかけたのでしょう。

 でも,シンプルで安価な接眼鏡,もうちょっと見直してもいいんじゃないかなぁ。特にケーニヒなんか,ハイアイのものやワイドタイプなどが作れるようですから,もう少し見直されてもいいと思います。特に初心者向け望遠鏡は,コストダウンを強いられるのだから,安価でありながら,そこそこ良く見える接眼鏡って,大事だと思いますよ。

 いずれにしても,このケーニヒ,しばらく使ってみようと思います。

その2:むかーしの長焦点アイピース

 年末の大掃除で望遠鏡関係のガラクタを片付けていたら,昔買った,懐かしいアイピースが出てきました。

 AH40mm……「アクロマートハイゲンス」というアイピースです。


 少年時代持っていたミザールの6cm経緯台。
 焦点距離が1000mmと言う,当時のスタンダードなスペックで,付属のアイピースで得られる最低倍率が50倍。もちろん,架台の安定度も怪しいものですから,高倍率に幻滅するのは時間の問題でした。いきおい,50倍が常用アイピースとなり,それでも,スバルが視野からはみ出す倍率ですから,星雲,星団観望用に,もっと低い倍率が欲しくなってきました。
 しかし,当時の望遠鏡の接眼部は,24.5mmスリーブ専用。
 36.4mmのケルナー40mmなど,雲の上の存在(第一,持っていた望遠鏡につけられなかった)。
 ……でも,ミザールには24.5mmスリーブの40mmアイピースがあったのだ(ありがたい…)。

 それが,AH40mmです。

 お年玉をはたいて2500円で購入。取り寄せてもらって,手にしたとき,宝石箱のような小さな箱に納まっていて,開けてみると,ビロードのような赤い布張りの上に,大切に格納されていました。

 これで25倍を手に入れたのですが,実際に覗いてみると,思ったよりも視野が狭いんです
 今なら,24.5mmスリーブで視野を広く取るのが困難なことぐらい,すぐ気がつくんですけど,当時はこれ以外の選択肢は無かったのです。
 それでも,スバルはもちろん,M42とかM27,M31などを眺めて楽しみました。

 20年以上前の品物ですが,クリーニングを兼ねて,こいつを分解してみました。
 眼レンズはモノコート,視野レンズはノーコートでした。
 眼レンズが2枚合わせになっていて,視野レンズは1枚。……この構成は,ケルナーみたいですが,絞り環は視野レンズより後ろにある「負のレンズ」ですから,レイアウトはハイゲンスと考えるべきでしょう(ケルナー式だと,視野レンズよりも対物レンズ寄りに焦点位置があり,そこに絞り環が配置される)。眼レンズが2枚合わせなので,「アクロマート」ハイゲンス,と言うことのようです。

 「アクロマート」の効果については,検証する術もありません。
 24.5mm径と言う細いスリーブ,価格的な制約などを考えると,精一杯の長焦点アイピースだったのかも知れません。

左がケーニヒらしき「SUPER 10」,右がAH40。スリーブの太さにも注目してください。


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