惑星デジカメ写真の画像処理方法


 身近になったデジタル画像処理。

 最近はデジカメユーザーも激増していますが,デジカメ画像の出来が悪いときなど,ちょこちょこっとフォトレタッチソフトで修正している人も少なくないと思います。
 デジカメ天体写真の画像処理も,基本的には同じです。
 惑星のような,撮影の難しい(=良い画像の得にくい)天体の場合,ちょっと手間がかかりますが,基本的には画質を向上させて見栄えを良くすることに変わりはありません。ただ,天体写真は自然科学写真ですから,記録性を重視し,パソコンでウソの画像を作ってしまわないよう,注意が必要です。撮影された画像の中に埋もれた情報を引き出すようなつもりで,画像処理も「ほどほど」が,よろしいようです……。


「お気楽天体写真工房」流,画像処理の作例

 木星の画像処理の過程を見ながら,当「お気楽天体写真工房」で用いている「お気楽画像処理」の方法を見てみましょう。


☆共通撮影データ
 望遠鏡:ビクセン ジオマ65EDフィールドスコープ
 カメラ:カシオQV-8000SX
 25倍アイピース+デジカメのズーム目一杯でコリメート。
 露出時間:1/4〜1/10秒

 特に断りのない限り,すべての画像は正立像です。

☆画像処理環境
 パソコン: SHARP メビウスノート(Celeron333MHz,メモリ128MB,OSはWin98SE)
 画像処理ソフト: HYPER KiD(Fanfare)
   ……以上,2001年4月現在

・画像処理ソフトは,カラーバランス調整,明るさ,コントラスト調整,RGB分解,レイヤ機能,アンシャープマスク等が使えるものであれば,何でも構いません。


・まずは撮影!

 「お気楽天体写真工房」の惑星撮影は,ミニマムの機材で行っています。
 しかも,天体用ではなく,地上用の望遠鏡を使っています。

 カメラ三脚に微動雲台を載せ,その上にジオマを載せます。
 まず眼視で目的の天体を導入し,おおざっぱにピントを合わせ,アダプターを介してデジカメを取り付けます。
 デジカメのフォーカスはマニュアル,絞りは開放,露出時間は惑星に合わせて,大体決めておきます。木星の場合,1/10〜1/15秒ぐらいです。また,QV-8000は,デジカメでの撮影時にシャープネス,コントラスト,画質などの設定が出来ますが,なるべく高解像度,高画質に設定し,その他の設定は撮影者の好みで決めます。シャープネスを上げると,露出アンダー時にノイズが出やすいような気がしますが,露出をたっぷり与えることができるときは,シャープネスを高めたほうが結果が良いようです。コントラストの設定もシャープネスに似た傾向があるような気がします。また,カラーバランスを「蛍光灯」にすると,気持ち良い発色が得られることが多いようです。

 惑星撮影では,デジカメを望遠鏡に接続したら,デジカメの焦点距離をワイド端にして天体を液晶モニタ上に映し出し,光学ズーム目一杯までズームアップします。そして,望遠鏡のフォーカスノブで丁寧にピントを合わせます。

 あとは,ひたすらシャッターを切り,画像を取得します。シャッターによるブレをなくすため,ケーブルリモコンかセルフタイマーを使って,シャッターを切ります。気流が安定しているときでも,少なくとも10枚はシャッターを切ります。惑星の像がユラユラ踊ってしまうほどの気流状態では,いくら好天でも撮影をあきらめたほうが得策です。


・画像を選んで合成(コンポジット)する

 こうして得られたのが,こんな画像。
 元画像は1280×960ピクセルですが,トリミングして必要部分だけ持って来ました。

 露出アンダーで,ザラザラです。
 明らかに写りの悪いコマは,どんどん捨ててゆきます。
 では,HYPER KiDのレイヤ機能を使って,コンポジットしてゆきます。


 ……その前に,必要に応じて,輝度を上げておきます。
 また,位置合わせを楽にするため,私はここで200〜300%拡大しています。

 これが合成前の画像。明るさ,コントラストを上げ,200%サイズにしています。
 これをもとに,コンポジット作業に入ります。
 レイヤ機能を使って,複数のコマを重ね合わせてゆきます。
 5枚なら輝度を約1/5(20%ぐらい),10枚なら輝度を1/10(10%ぐらい)に落として加算合成してゆきます。
 こうすることで,画像のザラツキが平均化され,見やすくなります。

 コンポジットの際,注意すべき点が2つあります。
 1つは,画質の悪いコマを加算しないこと。解像度を落とす原因になります。
 もう1つは,重ね合わせの際,慎重に位置合わせをすること。
 レイヤを重ねる際,動かすレイヤを一時的に「減算合成」とし,重ねた画像が真っ黒になるところで合わせると,比較的簡単です。

 ……こうして,10枚ほど重ね合わせると,こうなります。

 だいぶザラザラ感が無くなり,落ち着きました。


・大気による色ズレを補正する

 上の画像,右側に赤,左側に青がにじんでいます。
 これはこれは大気がプリズムのような働きをして,色がズレているのです。この色ズレは,撮影対象の地平高度が低いと目立ちます。こう言うときには,画像を一旦,RGB三色に分解し,ズレを修正して重ね直してやります。


R画像。輪郭はしっかりしていることが分かります。


G画像。コントラストも良く,ノイズも少ないので,これをモノクロ諧調に変換して,モノクロ写真を作ると言う手もあります。


B画像。波長の短いB画像は,大気の影響を最も受けやすく,ノイズが目立ちます。

 ……この3枚を再合成して,色ズレを補正したのが,この画像です。

補正前より,模様がハッキリしてきました。


・仕上げ

 さらに好みに応じて,明るさ,コントラスト,カラーバランスを調整してゆきます。
 木星の模様はコントラストが低いので,この段階で強調してみるのも,ひとつの手段です。
 模様がボワっとした感じで,ハッキリしないときは,アンシャープマスク,輪郭強調などの画質操作を行って,見栄えを良くしてみます。但し,アンシャープマスクを強くかけると,ザラザラになったり,元の画像にはなかったものを強調して浮かび上がらせてしまうこともあります。そうなると「ウソの画像」になってしまいますから,あまり無理な画像処理はしないほうが良いでしょう。

 明るさ,コントラスト,カラーバランスを調整し,軽くアンシャープマスクをかけました。

 この画像は最初に200%サイズにしていますから,適当にリサイズします。


 75%に縮小。元画像の150%サイズです。
 このぐらいのサイズのほうが,スッキリしているかも。

 このぐらいの出来栄えなら,一昔前の,リバーサルフィルムを使って,口径10〜15cm級の望遠鏡を赤道儀で自動追尾して撮影した画像に匹敵するぐらいの切れ味です。昔は6.5cmじゃ,惑星なんてまともに写らないと言われていたのに,6.5cmのバードウォッチング用の望遠鏡で,こんな画像が得られるんだから,いい時代になりましたね〜……。



 ……いかがでしたか?
 「お気楽天体写真工房」では,あえて高価なものは使わずに,かつ,お手軽,お気楽に天体写真を楽しむことを目標にしていますので,この程度の道具とテクニックしか使いませんが,元画像よりもはるかに見栄えの良い画像が,ありきたりのフォトレタッチソフトで実現しています。気軽に画像処理を楽しみたい人には,この方法をおすすめします。また,ここで紹介した方法がベストとは思いません。この方法をお読みになってから,御自分なりに,良い方法を工夫してみるのも,楽しいことだと思います。ぜひ,いろいろと楽しんでください。

 もちろん,本格派の方なら,もっと良い画像の得られる方法をお使いです。現在,天体写真の画像処理に主眼を置いた「ステライメージ」と言うソフトも市販されており,また,フリーソフトでも,さまざまな天文用に特化した画像処理ソフトが出回っていますから,こっち方面に興味の広がった方は,試してみてはいかがでしょうか?


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