ズームアップするピンホール望遠鏡(ぼうえんきょう)

対象年齢:小学校中学年以上。
       おとなの人が手伝えば,小学生未満からOK。


 ピンホールって,針であけた,小さな穴のこと。
ピンホールと虫めがね1つで,景色がズームアップする,ふしぎな望遠鏡が作ってみましょう。

【用意するもの】
・アルミホイル,黒い紙,紙の筒(ラップのやトイレットペーパーの「しん」でOK。無かったら,自分で紙を丸めて……),針(まち針や虫ピンなど,細いものがいい)。
・虫めがね(凸レンズ):なるべく焦点距離(しょうてんきょり)の短いもの(倍率の高いもの)を使います。

☆虫めがねの焦点距離のはかり方


 虫めがねで太陽の光を集めて,一番小さな点になるところと,虫めがねの間のきょりをはかります。これが焦点距離になります。はかるときは,虫めがねで太陽を見たりしないこと! また,太陽の光の集まっているところは,熱くなるので,もえやすいものをおかないこと!
 電球などの光でも,これと同じ方法で,だいたいの焦点距離がわかります(本当の焦点距離よりも,ちょっと大きい数字になります)。

【作ってみよう】

・ズームする筒を作る

 太さのちがう紙の筒を2つかさねて,のびちぢみするようにします。このとき,細いほうの筒のうしろに,虫めがねをつけます。筒のかさなった部分は,すき間から光がもれないように,紙を巻いて筒の太さを調節して,筒がぴったりスライドするようにします。筒の内側は墨などで黒くしてておくと,さらに良いでしょう。筒の長さは,虫めがねの焦点距離より長くなるようにします。

・ピンホールを作る

 筒の直径よりも大きい,アルミはく,または黒い紙を用意します。アルミはく(または紙)のまん中に,針で小さな穴を1つだけ,あけます。穴の大きさは,直径0.1〜0.3mmぐらい。できるだけきれいな丸い穴を作ってください。穴の大きさや形をいろいろ変えて,いくつも作っておくと,いいでしょう。
 穴をあけたアルミはく,または黒い紙は,筒の前のほうにかぶせるようにして,とりつけます。

 これで完成。


左のほうにピンホールをあけたアルミはく,右のほうに虫めがねがついています。
つつはトイレットペーパーのしん。


 すこしだけ,のびちぢみするようにしてあります。


 さて,のぞいてみましょう。

 この望遠鏡は,さかさまに見えます。
 見える像は暗いので,なるべく外の,明るいけしきを見ます。レンズのあるほうからのぞきます。虫めがねを使った場合,レンズに目を近づけると,小さな点しか見えません。この光の点を見ながら,ゆっくりと目とレンズから遠ざけてゆくと,遠くのけしきが見えるポイントがあります。ぼんやりと,けしきが見えたでしょうか?……見えたら,こんどは筒をのばしてみます。……見えているけしきが,大きくなります。筒をちぢめると,けしきが小さくなります。
 虫めがねを2枚かさねて使うと,もうちょっと倍率が上がります。


【でも,どうして?】(ちょっとくわしい説明)

 ここからは,カメラや望遠鏡の話で,ちょっと難しくなりますが,おつき合いください。


 ピンホールカメラを知っていますか?写真の原点とも言える,このカメラには,レンズがありません。レンズの代わりをするのが,小さな針穴(ピンホール)。「ピンホール望遠鏡」も,この原理を利用したものです。

 凸レンズが像を結ぶ原理を考えてみましょう。



 この図のように,ある一点から出た光は,放射状に広がっています。その一部をレンズで捉えて,焦点に収束させることで,像を得ています。望遠鏡の場合,焦点付近に拡大用の小さなレンズ(接眼レンズ)を置くことで,拡大像が見えるようになっています。



 では,このレンズを,焦点距離を変えずに,どんどん小さくしてゆきます。捉えることの出来る光束は小さくなり,より平行光線に近づきますが,焦点位置の前後では光束に広がりがあり,ピンボケ状態です。
 さらにレンズを小さくしてゆくと,光束は細い一本の線に近づきます。ここでレンズを取り払い,ピンホールだけにしてみると……



 これでも結像しています。これがピンホールカメラの原理。

 ピンホールは,レンズと違う特性があります。
 それは,どこでもピントが合っていること。上の光路図を見ると,光束が拡散している(=ピンボケ状態)所が無いことがわかります。そのため,ピンホールからの距離=焦点距離となり,ピンホールから接眼レンズまでの距離を取るほど,倍率が上がります。



 こんな風に,距離を取れば拡大像が得られます(拡大すれば,像はさらに暗くなりますが)。


 しかし,ピンホール望遠鏡は,入ってくる光束が極端に小さいので,見える像は,肉眼よりも暗くなります。ピンホールの直径は,大きくても1mm未満ですから,人の瞳孔の直径(2〜7mmぐらい)よりもはるかに小さく,それをさらに拡大して見ているので,像は暗くなってしまいます。
 では,穴を大き目にしたら?……すると,光束が太くなるので,明るくはなりますが,全体にピンボケ状態となります。シャープにするなら,穴は小さめのほうが良いのです。……ところが,こちらも限界があり,穴の大きさと穴から接眼レンズまでの距離(=対物レンズの焦点距離に相当)の比率(=口径比)が100を超えるあたりから,光の回折による像の劣化が目立ってきます。今回の工作では,ピンホールの焦点距離を10〜15cmぐらいに設定し,ピンホールの直径をF50〜100ぐらいの口径比になるように設定してみました。

 この望遠鏡で月のクレーターが見えるでしょうか?……結論から言ってしまえば,無理です。望遠鏡の分解能は対物レンズの口径が大きいほど優れます。御紹介したピンホール望遠鏡は,口径1mm未満。理論上,肉眼の分解能よりも劣ります。実用性はほとんどありません。単に,ズーミングして拡大像を眺めて遊ぶ,オモチャだと思ってください。でも,光学的にはけっこう面白い物ですし,虫めがね1枚で景色がズームアップする面白さを体験して,望遠鏡やカメラに興味を持ってもらえたらいいな,と思います。

 もし,天体望遠鏡をお持ちでしたら,天体望遠鏡用のアイピースを使えば,格段に見やすくなります。ピンホールとアイピースの距離を欲張らず,焦点距離の長いアイピースを使うのがコツです。また,長さ1mぐらいのパイプを使い,直径1mmぐらいのピンホールを作れば,日食の撮影ぐらいは,出来ると思います。日食のとき,木漏れ日が欠けた太陽の姿を映し出しますが,あれと全く同じ原理です。


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