サンフランシスコの「ディランズ」


(1999/10/15 更新)


 1999年2月14日、バークレーでの調査を終えた夜に、サンフランシスコの友人たちに「ディランズ」に案内してもらいました。

 ディランといってもボブ・ディランではありません。ウェールズ出身の英詩人ディラン・トマスのことです。



 この店は、サンフランシスコの観光案内などには、あまり足を踏み込まないようにと警告されているマーケット・ストリートの南側にあって、周囲にはあまり店もなく、寂しい雰囲気の地域にあるパブです。下の写真を見てください。


 ブロックの角に位置していて、ドアの上にディラン・トマスの肖像を描いた看板が掛かっています。人気のない寂しげな通りのなかで、ライトに照らされて浮かび上がるディラン・トマスの若き日の姿は魅力的です。



 1953年にニューヨークで客死した英詩人の名を冠した店がなぜサンフランシスコにあるのかと誰もが不思議に思うでしょう。店の中も、ディラン・トマスの多くの写真が壁を飾っていて、サンフランシスコの飲兵衛どもを祝福しているようです。カウンターの後ろの写真は有名なものです。


ディラン・トマスを背景にカウンターにもたれる私


 このカウンターの正面の上には「あの良い夜へ優しく入っていってはいけない」という詩行が書かれていました。このような肖像画や写真、そして詩行によって醸し出されるディラン・トマス的な気配はとても居心地のいいもので、ゆっくりとくつろぎました。



 この店のオーナーがウェールズ出身の人で、ディラン・トマスが大好きで、店の名前にこの詩人の名を冠して2年前にオープンしたということでした。下の写真のように、長年のビールのせいですっかり肌もつやつやと赤らんで、ご同様の私と意気投合してツーショットとあいなりました。


オーナーのキッチ氏と私


 いずれ『gui 』の「アメリカン・ポエトリー・コラム」で詳しく書きますが、この店では、ポエトリー・ナイトとミュージック・ナイトという形で、パフォーマンスを提供しているとのことです。そこで、サンフランシスコの詩人と私が組んで、ディラン・トマスの詩を英語と日本語で朗読する企画がトントン拍子で進みました。なかなか時間の余裕がない私にとって、楽しみの創造的な時間をひねり出す気持ちにさせる嬉しい話です。
 新しい出会いが新しい展開に結びつきました。今後の展開がどうなるか、興味津々です。


野坂政司ホームページのトップページに戻る