● (EISEI.20) 軌道要素について (1993年 12月23日)
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本編(9),(10)において、「軌道要素」,「軌道データ」という用語が出てきました。
衛星通信を行う前提として、目的とする衛星の見える時刻、そしてその軌跡を知る
必要がありました。今回はそれについて少し調べてみたいと思います。
ご存知のように、人工衛星は地球を楕円の焦点の一つとする楕円軌道上(円軌道を
含む)を周回しています。この衛星の、ある時刻における宇宙空間上の位置を知る
には、まず基準となる座標系が決められていなければなりません。
ここで、天文学(天体力学)に関する専門書を紐解いてみましょう。天文学におけ
る常套手段として、観測点を中心とする半径が無限大の球面を考え、観測点と星と
を結ぶ直線とこの球面上との交点に星があるようにみなします。この球面のことを
いわゆる「天球」と言います。
見かけ上、天球が星を乗せたまま東から西に回りますが、これを天球の「日周運動」
と言い、その支点を「天の北極、南極」と言います。この天の両極は実際、地球の
自転軸と天球との交点に当たっています。そして、地球の赤道面の延長と天球との
交線は天球上の大円になりますが、これを「天の赤道」と言います。
太陽は天球上で位置を変えながら、ちょうど1年かかって天球を1周します。この
太陽の天球上での軌跡を「黄道」と呼び、天の赤道との交点のうち南から北に抜け
る点(昇交点)を「春分点」、もう一方の点を「秋分点」と言います。ちなみに、
黄道上で太陽が進む方向に、春分点から90゜,270゜離れた点をそれぞれ「夏至点」、
「冬至点」と呼んでいます。
観測点の上方鉛直方向に延長した直線と天球との交点を「天頂」と言います。天球
上で、天頂を極とする大円を「地平線」と言い、また 天頂を通る大円を「垂直圏」
と言い、天の北極と南極を通る垂直圏を「天の子午線」と呼んでいます。天の子午
線と地平線との交点が、北および南の方位基点であり、地平線上でこの両点から、
それぞれ90゜離れた点が、東および西の方位基点です。
天の北極と南極を通る任意の大円を「時圏」と言います。時圏が天の子午線となす
角を「時角」と呼んでいます。時角は南から西向きに測られますが、天球は24時間
で1回転するので、時角は時間の単位(15゜=1時間)で表されます。
さて、衛星を通る時圏を考えましょう。春分点を通る時圏から東回りにこの時圏ま
で測った角を、衛星の「赤経」と言い、時圏に沿って天の赤道から衛星まで測った
角を「赤緯」と言います。赤経は、時間の単位で表し、赤緯は天の北極方向に正で
測ります。これがいわゆる【赤道座標】です。
衛星の軌道の形は、2次曲線における【離心率 Eccentricity】で決定されます。
ちなみに、軌道が円のとき e=0、楕円のとき 0<e<1、放物線のとき e=1、双曲線
のとき e>1 です。一般に衛星は楕円ですので、そのときの軌道の大きさの長半径
a、短半径 b とすると、離心率 e は実際、e=root(a2-b2)/a となります。
衛星が軌道を1周する時間を【周期】と言い、その逆数(×2π)を【平均運動 Mean
Motion】と言います。
楕円軌道の場合、地球はその焦点の一つになっていますが(ケプラーの第1法則)、
衛星が地球に最も近づく点を【近地点 Perigee】、最も遠ざかる点を【遠地点、
Apogee】と呼び、衛星が近地点を通過する時刻を「近地点通過時刻」と言います。
これで衛星の位置が決定されますが、これとは別に、【平均近点角 Mean Anomaly】
というケプラーの方程式から導かれる重要な概念がありますので、これについては
次回、詳述します。
また、衛星が天の赤道を南から北に横切る点を【昇交点】と言い、この昇交点と
春分点とのなす角を【昇交点赤経 R.A.A.N】と言います。そして、軌道面と赤道面
とのなす角を【軌道傾斜角 Inclination】と呼び、この昇交点赤経と軌道傾斜角の
二つの要素により、軌道面の方向が決定されます。
さらに、楕円軌道の長軸方向を決定するために、この昇交点と近地点まで軌道面に
沿って測った角を【近地点引数 Argument of Perigee】と言います。
以上、まとめて次の7個の要素を 《ケプラーの軌道要素》 と言います。
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| 1.離心率 Eccentricity |
| 2.軌道長半径 Semi Major Axis |
| 3.平均運動 Mean Motion |
| 4.平均近点角 Mean Anomaly |
| 5.昇交点赤経 R.A.A.N |
| 6.軌道傾斜角 Inclination |
| 7.近地点引数 Argument of Perigee |
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具体的な各データの入力は、本編(9),(10)で述べたとおりです。
今回の原稿は、次の資料を大変参考にいたしました。
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・JAMSAT Newsletter #70('83 3/25) JR1FIG/深沢氏 記事
・天文学通論 (鈴木敬信著 地人書館)
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