本との出会い演出と読書推進
体験が読書の土壌であるという問題意識から
現代マンガ資料館では複合展示という方法を考案して、提唱し実践してきました。

複合展示とは

 
 複合展示の考え方には、体験が読書の土壌である、という問題意識があります。
 豊かな読書が即豊かな体験ではありません。本さえ読めば世界が広がると考えたとしたら、少し不遜な考えです。たとえば、「マッチ売りの少女」のお話は、「マッチ」を実際に使って火をおこすという体験(マッチとの出会い)があってこそ深く理解できます。この関係は「マッチ売りの少女」のお話でマッチのことがもっとわかるという関係でもありますが、本の情報が体験を深めることはあっても代替することは決してないという関係です。
 複合展示は、ふたつの出会い(マッチそのものとの出会い、及び「マッチ売りの少女」との出会い)の相乗効果をねらいとした展示方法です。具体的には「体験との出会い」、「本との出会い」に加えて「資料展示」という要素が加わる三要素を有機的に組み合わせた展示方法です。この場合の資料展示には、「マッチ売りの少女」の時代や社会を表わす関係資料、あるいはマッチそのものに関連した資料、たとえば火の歴史を語る資料などを考えても良いでしょう。この三要素に「紙芝居」と「ブックトーク」を加えて五つの要素で構成する方法が生まれ、現在、複合展示の基本形になっています。

 複合展示は、紙芝居から始まります。紙芝居は、スタート段階でスタッフと観覧者のコミュニケーションを深めると同時に、紙芝居主人公と観覧者の出会いにより、観覧者が展示全体に深くかかわる効果を目的としています。たとえば、主人公との一体感(感情移入)により、展示がより身近になるといえるでしょう。原始時代のくらしをテーマにした複合展示の場合、主人公の少年はおじいさんに教わって黒曜石で石のナイフをつくり、冒険に出かけます。観覧することもたちと同年齢の主人公の冒険はこどもたちの冒険でもあります。展示された黒曜石やサヌカイトでできた石のナイフなど(自由に触れる)の観察や石器づくり体験はこどもたちにとって特別に印象深いものになります。そうして、盛りあがったところで、こどもたちをより広い世界へ誘うブックトークによる本の紹介で締めくくります。

                    原始時代のくらしをテーマにした複合展示

      紙芝居(こどもたちの前には本物の石器がある)
 
         石器づくり体験   本の紹介 

 複合展示の展開(ヴァリエーション)
 
 フィールドワークを軸にした本との出会い活動を積極的に行い、これを「野外ミュージアム」と呼んでいます。野外ミュージアムは「フィールドワークをふまえて行う演出された本との出会い」です。
 また、野外ミュージアムの発展形態のひとつとして、特定空間のミュージアム化(地域歴史文化資産のミュージアムを軸にした再編成=ミュージアムと歴史ロマンネットワークづくり)に取り組んでいます。