貸本屋ある景観

〜大阪市旭区千林・森小路界隈の場合〜



      はじめに

       貸本という文化活動が公共図書館の活動に収束されてからすでに相当の年月がたちました。
      一方で、かって存在した(最も全くなくなったわけではない)貸本という業態の記憶の風化が著しく進み、
      貸本が戦後社会のある局面で果たした歴史的役割を知る手がかりもほとんど失われています。

       現代マンガ資料館では、「少女マンガで見る戦後史」の展示で、戦後マンガ草創期において貸本が果た
      した看過してはならない役割を提起することで、失われようとする歴史に待ったをかけることを試みました。
      この仕事は、同時に、戦後マンガ草創期において大阪など地方出版文化が果たした役割を鮮明にするこ
      とでもあり、また貸本からみた大阪文化再評価の試みでもありました。

       ここでは、大阪の旭区千林界隈という地域に限定して、昭和30年代、貸本屋のある景観を復元すること
      で、戦後史における貸本業の実態を明らかにし、前述の歴史的役割について掘り下げることを試みました。

                         
                                        2007・9・15 現代マンガ資料館・昭和史資料室


     


        対象地域

       大阪市旭区千林を中心にした地域で、旭区千林・森小路・今市・清水、守口市滝井などの地域を含みま
       す。近世からの集落地域で、域内を東海道(京街道)が走る交通の要地でした。一部地域を除き戦災を
      免れ、古くからの景観を比較的よくのこす地域
です。

   


                    調査経過及び関連活動経過
1999年8月
千林くらしエール館において地域の歴史を振り返る展示会開催〈千林くらしエール館主催〉
1999年11月
現代マンガ資料館開館
常設展示「少女マンガで見る戦後史」において大阪の貸本文化と当地のかかわりについて言及。以来、貸本文化と大阪、そして当地域の歴史的役割、位置について調査研究。
2003年9月
企画展「貸本の時代展」開催。当地域の役割について調査、言及。
2006年8月
日本マンガ学会研究者有志と共同調査
現代マンガ資料館としてこれまでの独自調査をまとめ参考に供するために「調査資料」冊子を発行。

2006年9月
調査結果を現代マンガ資料館としてまとめ、冊子「平和の所産、貸本屋のある景観」を発刊。
2007年 1月
「現代マンガ資料館ガイド」を発刊。上記調査をふまえ、貸本文化と大阪の役割、また当地域の役割について研究成果をまとめる。また、周知のように、当サイトなどで成果を発信、公開して参りました。
2007年4月
NPO法人企業ミュージアムの協会関係者見学
貸本文化における大阪の歴史的役割について解説、また、当地域の貸本屋分布など調査結果をパネル化して展示、参考に供する。
2008年1月
町興しを視野に現代マンガ資料館の位置づけとして「昭和30年代貸本屋再現」を行う。これに関連して、貸本文化と大阪の歴史的役割について複数のメディアから取材を受け、それぞれに現代マンガ資料館の視点について共感をいただき、報道紹介されました。
2008年10月
調査の成果を含め貸本を中心にした戦後出版文化と大阪、そして旭区千林・森小路界隈の史的位置など郷土史について講演(旭図書館)
2008年11月
エル大阪において貸本屋と貸本文化について講演。大阪の歴史的役割に言及。多様性の持つ可能性が講演趣旨のポイントであり研究成果。
                なお、研究者、学生で当館発行の資料を必要とされる方はご遠慮なくご一報ください。   




                   プロローグ  地域紹介
                                         







写真1  旭区千林 写真2 「カキ」守口市庭窪
                                                   

           写真1・・・地域に残る建物。当地域の歴史を刻印した建物です。
                
          写真2・・・守口市庭窪(当地より淀川上流域)で見つかったカキ殻(遺物ではありません)
                海から平野へと変遷する河内〈大阪〉平野の歩みを物語る資料です。
                千林エール館における展示をご覧になった方からご好意でいただいたものです。  



               「みっちゃん、写真1と2をつないでいるものはなんだかわかる?」
                                
               「もちろんわかるわよ。答えは次の写真」 




写真3 旭区清水 昭和初期

                 

              「水とのかかわりが深い地域・・・だということだよね・・・正解」
          
           「写真3は昭和初期の清水尋常高等小学校のようすです。校庭に舟だまりがあって三枚板(サンマイタ)
          と呼ばれた小舟(交通・運輸で大きな役割をになっていました)がつながれています。雪景色ですね。
           みっちゃんが提示したように、水とのかかわり抜きに語れない地域ということでしょう。古代の伝承
          も水とのかかわりが深く、また現在の景観にも水との関わりの名残を見つけることができます。」 
            

  
 続く 

  第2回  貸本マンガ文化と大阪、そして貸本少女マンガの歴史的役割
  第3回  貸本屋のある景観
         旭区千林・森小路界隈における貸本屋立地の地理的状況
  第4回  多様性の持つ可能性
         貸本マンガと大阪のかかわりから見える今日的課題
 
  全4部構成の予定です。