時をこえて
自然との対峙 2部

みちこ&敬の守口門真歴史ミステリー探索14


「敬ちゃん。もう疲れた」
「ごくろうさまでした」
私たちは守口門真から自転車をとばして淀川をさかのぼり、大阪府枚方市楠葉までやってきました。この
あたりの淀川は江戸時代には三十石舟の乗客とくらわんか舟のかけあいで大変にぎやかだったところで
す。 ここをもう少し下ると鍵屋浦で“三味や太鼓で船を止める”とうたわれました。東海道56番目の枚方宿です。
私たちの目的は、古い史書に記録されたある事件の現場を確認することです。
「おだやかな流れ・・・。こんな日の船旅は快適だったでしょうね」
「ほんとだね。このあたりでお弁当を買って、両岸の景色を楽しみながら、大坂八軒家まで船旅を楽しめるわけだよ
ね」
「こんなのどかなところがさまざまな悲劇で彩られた舞台に一変するなんて信じられない」
「ここにくるまで、鍵屋浦の下流の堤防に“茨田堤”の碑がたっていたけど、人と淀川の対峙の歴史を物語っている」
茨田堤の石碑(寝屋川市太間)
「そうだよね。ずいぶん悲しい歴史が秘められているものね」
古代、楠葉辺(橋本)と対岸の山崎を結ぶ橋があって山崎橋と呼ばれていました。
848年(嘉祥元年8月3日・4日・5日条“続日本後紀”)豪雨でこの橋が崩壊し、茨田堤が各所で決壊し、多く
の人命が失われたという記録が残されています。
874年(貞観4年8月24日条“日本三代実録”) 山崎橋の南で40軒ほどが激流に流され行方不明になったものが多く、
とくに山崎ではふたりの子を抱えた母親が倉とともに流され、人々が泣きながらなんとか助けようとしたが、母と子は
結局激流にのまれてしまったという悲劇が記録されています。
「茨田堤も各所で決壊しているから、もっとたくさんの悲劇が各地で起きていただろうね」
「ほんとうにかわいそう」
「ぼくが注目しているのは橋の存在だよ」
「ふうん。どうして・・・」
「堤防はどちらかといえば、守りを感じさせるものだけど、橋は人の側の川に対する果敢な攻めだものね。もっとも堤
防が道をかねるなど必ずしも守りとばかりいえないけど、流れに抗して橋をかけるという活動は果敢なチャレンジその
ものといえるよね」
「なるほど。一種の旗を掲げるようなもの、ということを敬ちゃん言いたいのね」
「うん。そうなんだ。自然との対峙において、人のプライドをかけたフロンティア最前線のようなイメージなんだ」
敬ちゃんのイメージ。わかるような気がする。
フロンティア最前線に掲げられた人間の「不屈」と「可能性」を語りかける「橋」という存在。
水との対峙における人の営みの中で橋をかけるという活動はこのような意味を持つのかもしれない。
それは励ましでもあるわけで・・・フロンティアにふさわしい頼もしい存在といえる。
フロンティア最前線の旗
高瀬川跡 守口・土居
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時空の道ガイド碑(守口市)
「時空の道」のガイドの一部
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奈良時代に行基がかけた橋の現場と考えても良いようです。橋がかかることで、人々は大いに励まされ、
明日への夢を膨らますことができたでしょう。“橋”は、夢・明日へ人々を誘い、橋渡す役割をになっていたのかも
しれません。
時をこえて、私たちの心をうつ果敢な営みのひとつです。
参考
●行基 668年〜749年。奈良時代の僧。百済系の渡来人。民間布教を行い、信者とともに道・橋・池などを
築いた。上記「山崎橋」も行基によるものである。
●続日本後紀、日本三代実録 日本書紀から日本三代実録まで勅撰により編纂された官撰国史。
日本書紀・続日本紀・日本後紀・続日本後紀・日本文徳天皇実録・日本三代実録があり、六国史(りっこくし)と総
称された。古代史における基本的資料。
●鍵屋浦 ここはどこじゃと船頭衆に問えば
ここは枚方鍵屋浦
鍵屋浦にはいかりはいらぬ
三味や太鼓で船止める
●ダイナミックに動く大地 大きな中州が形成されていました。大地のダイナミックを実感できるフィールドです。
川の働きを体感できるでしょう。(牧野パークゴルフ場辺淀川)
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※観察の参考になる本
「川は生きている」自然と人間 富山和子 昭和53年 講談社
参考文献
● 世相の古代史 長山泰孝 1992 河出書房新社
● 地名の古代史近畿編 谷川健一・金達寿 1991 河出書房新社
● 川は生きている(自然と人間) 富山和子 昭和53年 講談社 “児童向”
● 大阪府史第二巻古代編U 監修 黒羽兵治郎 平成2年 大阪府
交通
● 楠葉・淀川 京阪線 樟葉駅徒歩
● 高瀬川跡 京阪線 土居駅徒歩5分
近くのミュージアム
● 松下電池 バッテリーワールド
● 松下電池 松下幸之助記念館
● 三洋電機 サンヨーミュージアム
● 守口宿・文禄堤
視点
● 史跡という木をどう森の中においてとらえるか。前回(時の記憶)に続いて、地理的には守口門真から離れて、大きく俯瞰する方法をとりました。これによって、見えてきたものがあります。
● 次回も古代です。中世に入るまでいましばらくお待ち下さい。
● 本の紹介を強める計画です。夏までには全テーマに対応して系統的な紹介を試みます。本をお供にフィールドへ出かけると、もっと楽しめます。