古代、時の彼方
みちこ&敬守口門真歴史ミステリー探索12
![]()
「みっちゃん。大阪平野のでき方はダイナミックだね」
「うん。すごく面白い。“沿岸州”と街道の関係ってドラマチック」
「大阪平野って、北河“淀川”と南河“大和川”にはさまれた所だから、河内湾・
河内潟・河内湖の時代には、川の流れはそこに流れ込んでいたわけだよね」
「うん。そうだよね」
「川が運んだ土や砂が堆積して、これも河内湖などを埋め立てる大きな役割を
していて、いろんな動きが複合的に働いて大地が動いているんだ」
「ふうん」
「その中には、当然人為的なものもある。ダイナミックな自然の動きを巧妙に利
用するというよりも自然に真正面から対峙した人の営みを訪ねるのが今度の目
的だよ。すごくダイナミックな人の動きがみられるんだ」
「自然の動きがダイナミックなら、それに対峙した人の動きもダイナミックなもの
になるわよね」
「そうそう」
「舞台は古墳時代。仁徳天皇の時代。古事記に書かれている古代の人の動き
だよ」
「古事記というと日本書紀とならぶ古い歴史書ね」
「うん」
「左は古事記の記述(岩波書店・日本古典文学体系1)なんだ」
「難しいわね。どういう意味なの・・・」
「渡来人を使って“茨田(まむだの)堤”をつくったという意味なんだけど、日本書
紀の仁徳紀11年の条に同じ趣旨の記述がある。もちろん淀川(支流を含む)の
氾濫に対決したものだよ」
「なるほど」
「背景には、大阪平野誕生をめぐる大地の動きがある」
![]()
「敬ちゃん。大和田駅(京阪線大和田駅徒歩2分)からこんなに近いなんて・・びっくり」
「うん。現在の淀川の流れはずいぶん遠いものね」
「時の流れを感じるわね。これが茨田堤と伝えられている堤防なのね」
「淀川の氾濫は、長いこと人々を悩ませてきたわけだけど、たとえば、明治18年にも大洪水が記録されている
ほどなんだ」
「この地域の宿命みたいなものなのね」
「うん。それで人々は、氾濫とどうつきあうか。いろいろ工夫してきているよね。でも、堤防工事など河川工事
は強大な統率力や計画する力がないと不可能だよね。つまり、現状を把握して、どう対応するか、というビジョ
ン。それと大規模工事を完遂させるだけの人を集めたり、働かせる組織力などがあってはじめてできる仕事だ
よね」
「古墳時代だもの。巨大古墳を築くことで土木技術や組織力は十分訓練されていると考えられない」
「そうだよね」
「茨田堤跡で残されているのはここだけなんだけど、当然もっともっと大規模なものであったと考えられる。で
ないと意味ないものね」
「ふうん。残っているのはこのわずかな所だけなんだ。貴重な存在ね」
「理由は当然ある。堤根神社さ。神社を堤防上に築くことで防災を願う心情が語られているけど、神域になる
ことで消滅から保護されたと考えられるよね」
堤根神社 本殿部分、また樹木の部分が堤跡
「なるほど」
「記紀の記述で注意したいのは、“難波之堀江を掘る”という記述が続いていること。河内湖にたまりやすかっ
た水のはけ口を切り開いたという意味がある。でないと、増水するとすぐ水位が増して水難の原因になるもの
ね。だから、茨田堤の工事と難波の堀江の工事は深く関連したものと考えられるんだ。状況を大きくとらえて
ダイナミックに対応できるという人たちの存在を語っているよね」
「難波の堀江って、今の大川と考えられているのよね」
「うん。たいしたもんだよね。ところがね、工事の過程で水神に“人身御供”として生贄(いけにえ)をささげると
いう記述がみられるんだ。優れた知見の存在と神への祈りの形としての人身御供の併存、これはミステリー
でもあると、ぼくには思えるんだ」
「なるほど・・・・」
「技術と宗教の関係という意味では現代的テーマでもあるんだけど・・・ミステリアスで興味深い」
「古代は、時の彼方だけど、遠いようで、意外に近い古代でもあるのね」
周辺のミュージアムと歴史ロマン

大和田駅前 茨田堤はここからすぐ
こども飛行機博物館と併せて、古代ロマンとの出会いをぜひ楽しんでください。
古事記、日本書紀をご覧になったら、古代のようすがもっと鮮やかになるのでは・・・