マンガが描いた戦争の時代2−2

           戦争と少女マンガという舞台A 
                  
少女マンガが描いた戦場


あした輝く
 里中満智子作 満州
          
紅にほふ 
竹宮恵子作  満州
          
わが命いとし子のために わたなべまさこ作満州

幻の子どもたち 石坂啓作満州

水筒 新里堅進作 沖縄
        
炎のサンゴ礁 鈴原研一郎作 沖縄

戦場サイパンからの脱出 中村仁作 サイパン

積乱雲 里中満智子作 特攻作戦
           
東京が燃えた 吉森みきお作 都市無差別爆撃

ピース・フロム・ナガサキ こいわ美保子作 都市無差別爆撃

ロザリオの祈り 青空風太郎・さかいともみ 都市無差別爆撃
           
   
 少女マンガで描かれる戦場は、次の理由から異色である。
 @ 非戦闘員である女性が主人公。
 A 戦闘行為描写は副次的なものになる。
 B ヒロインの存在が戦局との関連で説明される必要から時代描写を伴う。
 C 戦時という時間枠にとらわれない描写が少なくない。
 わたなべまさこ「わが命いとし子のために」、里中満智子「あした輝く」、竹宮恵子「紅にほふ」、描写されるのは戦場体験を経てどう生きたかというヒロインたちの人生である。
 女性や子どもたちの戦場体験の基本的要素は悲劇性であろう。ヒロインたちは否応なしに戦場に置かれ、戦闘に巻き込まれることになるのだが、敗勢の戦場である。満州、沖縄、サイパンなどのマリアナ諸島、そして広島・長崎をはじめとする空襲下の都市、非戦闘員に襲い掛かる情け容赦ない戦場が描かれ、ヒロインたちの人生に戦争を刻印することになる。
 石坂啓「幻の子どもたち」、国策としてソ連と満州の国境地帯に配置された開拓民と子どもたちの悲劇を描いたものであり、耐えがたい刻印となる。
 鈴原研一郎「炎のサンゴ礁」、新里堅進「水筒」は沖縄という戦場を描いたものであり、中村仁「戦場サイパンからの脱出」はマリアナ諸島のひとつサイパン島の戦いを描いている。いずれも玉砕の名が冠せられた戦場である。渦中に投ぜられた非戦闘員の命運は惨烈としかいいようがない。
 吉森みきお「東京が燃えた」、こいわ美保子「ピース・フロム・ナガサキ」、青空風太郎・さかいともみ「ロザリオの祈り」、いずれも戦略爆撃と称された都市無差別爆撃による惨劇を描写している。とくに後のふたつは原爆投下による悲劇を描いたものである。
 ヒロインたちの生涯に記された凄絶な戦争の刻印は、戦場におけるものだけではない、戦場に送り出した肉親や恋人を介して、戦争はヒロインたちに暗い影を落としてゆく。里中満智子「積乱雲」は、神風特別攻撃隊(特攻隊)を描くが、特攻隊員の悲劇とはまた別の理不尽を特攻隊員の妻や恋人は受け入れなければならない、という女性の側からみた特攻作戦として秀逸である。
 少女マンガは、一般的に非戦闘員の側からの戦場描写、戦争描写となり、戦争を幅広く描くうえで欠くべからざる役割を果たしているばかりか、ロマンと無縁な戦場を描くことで戦場の実相をより客観的に伝える役割もにないつつあるのではないか。