マンガが描いた戦争の時代 1

       大きく描かれた戦争の時代
             
広い視野と大きな俯瞰                   

 石の花 坂口尚
    ユーゴスラビア。戦争に対峙する若者たち。  
   
 アドルフに告ぐ 手塚治虫
           
  ナチスドイツの時代、物語はベルリンオリンピック
   から始まる。

       
 木を見て森を見ると簡単に言うが、行なうことは難しい。
 太平洋に向きがちな私たちの視界にバルカン半島を含めることで、あの戦争の時代が違って見えてくるかもしれない。
 また、三人のアドルフの運命をたどるうちに、私たちは時代をとらえる広い視野を手に入れることができるかも知れない。
 世界大戦は地球規模で行なわれた戦争である。戦争の時代をとらえる作者のダイナミックな目。マンガのダイナミックを味わえるニ大作といえよう。

 漱石事件簿 古山寛・ほんまりう
   舞台は明治。近代国家として歩みだした日本が
    めざましい躍進を遂げる時代である。  

 歴史には転換点がある。
 後で考えると思い当たるということなのだが(凡人には先を見通すことが難しい)。本書では名探偵「明智小五郎」のモデルとなった人物が「石川啄木」の予見と重ねて、近未来に到来するであろう日本の破局的事態を語り、そこにいたるきっかけとなる転換点を指摘する。戦争の時代に至る伏線は明治にあり。
 

 昭和史 水木しげる
   戦争の時代の通史的描写だが、歴史学習マン
    ガにない強烈な存在感がある。
    

 作者のユニークな存在感を楽しみながら、波乱万丈の昭和史に結構詳しくなれるという興味深い作品。作者の個性が昭和史の鋭い切り口となり、歴史が実に生き生きと描写される。作者にかかると、重く陰鬱な下級兵士の軍隊生活が、思わず笑いに満ちたものになるから不思議である。

 龍 村上もとか
   ずるずる続く戦争の時代の的確な描写が光る。   
       

 私にとってだが、昭和初期の京都の描写が実に良い。
 しだいに高くなる軍靴の音を背景に主人公「龍」がたどる数奇な人生。物語を堪能しながら、昭和史を大きく把握できる一書であろう。