最終更新:2002-07-31

「首都機能移転の費用対効果分析」分析

[首都機能移転-私見私案]


あまりに違う費用対効果分析

首都機能移転の費用対効果分析にもいくつかあるようですが、ここでは 東京都による試算と、それを意識して書かれたと考えられる岐阜愛知新首都推進協議会による試算について取り上げます。
(どちらもPDFファイルです。どっかにプレーンテキスト版ないかなあ...)

ところがこの両者、分析結果が正反対なんです!


いったいどこが違うのか

両者の試算をおおざっぱに比較すると以下のようになります。

費用の部 (単位:兆円)
東京都 岐阜愛知
建設費 4.2-4.6 4.2-4.6
用地費・移転費 0.2-0.3 0.2-0.4
訪問・通信費増加 3.2-5.3 0.0
合計 8.0-9.9 4.7-4.8
効果の部(単位:兆円)
東京都 岐阜愛知
空間拡大 0.6 0.8
通勤改善 1.4 1.6
渋滞緩和 0.2 0.3
跡地利用 0.3 4.2
公共支出削減 1.1 3.0
合計 3.5 10.0
(注)小数点2桁以下を四捨五入。よって合計は微妙に合わない。

表の強調文字で示したところが互いの主張の肝といえるところでしょう。

首都への訪問費・通信費の増加

建設費に匹敵する費用が上積みされるという東京都と、 50年で500億円にすらならない(ので、上の表では0.0です)という岐阜愛知。 あまりにも違う結果はなぜ導かれるのでしょう?

東京都の資料では、

注 全国各地から新都市への訪問者数は、国会等移転審議会で推計した新都市への総訪問者数(年間 1,482 万人) を、訪問者数は経済活動に携わる人数に比例すると想定し、都道府県別の本社事業所従業者数で配分し、算 出しました。
とあります。でもこれ、おかしくないですか? いま東京にいる人口のうち、首都機能に依存していて首都によく訪問したり連絡取ったりする人は、 当然首都機能移転で随伴移転するはずですよね。

そう、東京都の試算には随伴移転による訪問費減少分が考慮されていないのです。 もちろん「随伴移転者が東京を訪問する費用」を考えると 岐阜愛知の試算のように500億円以下になるというのはいいすぎでしょうが、 それでも東京都の「訪問費用試算」は大きすぎます。

跡地売却益

新首都の建設費をキャンセルできるほどに利益をあげられるという岐阜愛知と、 せいぜい引越し費用程度にしかならないという東京都。 これまたえらく違う結果です。

岐阜愛知の資料では、

例えば、移転跡地を民間企業がオフィス等として活用する場合は、 跡地活用の収益が購入価格を上回らないかぎりその土地を購入しないと考えられるため、 跡地利用の効果は地価以上とされます。また、行政が公共的な用途に活用する場合も、 その社会的な効果が民間企業に売却したときの価格、つまり地価以上になると判断される時に 事業が行われます。
このため、移転跡地の活用による効果は、地価相当分であると考えられます。 移転跡地の活用価値を該当地区付近の現在の地価にもとづいて計算すると、 約4兆2,315億円となります。
とあります。前半はごもっともです。でも後半はおかしくないですか? そりゃすべてオフィスとして活用するのならいいですよ。 でも、公共的な用途に限定される土地は「該当地区の『現在』の地価」 よりずっと安くしか売れないはずですよね。 じゃあオフィスとして売った部分はどうかというと、 これも問題があります。当然そこには通勤需要などが発生します。 そう、「東京都心の過密を減らす効果」がなくなってしまうのです。

岐阜愛知の試算では「跡地売却益」と「過密解消による効果」が 二重計上になっているのです。

公共支出の削減

岐阜愛知と東京都との最大の差は、 「移転による東京圏での公共・公益施設整備費の削減」 にあります。前述の通り、これは「跡地売却益」とのトレードオフです。 よって、東京都の試算にはこのぶんを足す必要があります。

修正・費用対効果

東京都の試算をベースに、

として計算してみました。
費用の部 (単位:兆円)
建設費 4.2-4.6
用地費・移転費 0.2-0.3
訪問・通信費増加 0.2-0.3
合計 4.9-5.1
効果の部(単位:兆円)
空間拡大 0.6
通勤改善 1.4
渋滞緩和 0.2
跡地利用 0.3
公共支出削減 3.0
合計 5.5

いかがでしょう? まあ、仮定がかなり適当な気もしますが。

[首都機能移転-私見私案]


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